YAMADA
天童荒太さんの見た光。
対話するように書いた物語。

世界をギリギリで肯定すること


(※今回は、天童荒太さんの言葉を、
  本人のモノローグで、おとどけします)
世界の現状を
否定的に訴えていくかたちで、『家族狩り』を書きました。

ところが、『永遠の仔』は、
ほんとうにつらい世界を、ギリギリのところで
肯定しうるものとして捉えていかなければ、
最後まで書くことができなかったんです。

そして、『永遠の仔』ができあがって、
作品を読者に届けると、ものすごい反響がありました。

それこそ、
「虐待を受けて育った人」とか、
「死を考えている人」とか、
自分のことを否定的に見ていた人たちから、
ものすごい量のおたよりをいただいたんです。

それを受けとめて、ぼく自身としては、
受けとめすぎて、実際に倒れてしまいました。

倒れてしまって、本当に起きあがれない。
次の作品を書こうとしても
神経が拒否している感覚がつづきました。


書きたいことはある。でも、
心がまだ疲れきって、ついてこられない。

どうしたらいいか迷っていた頃に、
『永遠の仔』の表紙に
作品を使わせていただいた
彫刻家の舟越桂さんが声をかけてくださり、
舟越さんの版画に
自分が言葉を添わせる機会に恵まれました。

静かでいながら
豊かな世界をたたえている版画に、
言葉をできるだけ削いで、
ごく短い物語を並べてゆき、
『あなたが想う本』(二〇〇〇年)
として結実しました。

いまも思い入れの深い、
とても気に入りの作品です。
デザイナーの葛西薫さんにも関わっていただき、
他業種の才能ある人々との出会いは、
<対話>というテーマに
目覚めるきっかけのひとつでした。

そしてほぼ同時期、故郷に帰って、
昔からなじんできた祭が
リニューアルしていたので、
それに参加したんですね。

旧友から温かく声をかけてもらって、
ふうっと元気になってくるのを感じました。
ほかの場でも友人に言葉をかけてもらったり、
いろんなことが重なって、
ようやく心も回復してきて、こう思ったんです。

「自分は、こういう人たちに、
 きっちり返事を書くように、
 対話するように物語を書いていこう」


それで、ようやく、
起きあがることができて、
『あふれた愛』(二〇〇一年)
を書くことができました。うれしかった。

さらに、これと平行して、
『永遠の仔』のテレビドラマの
テーマ曲を書いてくださった
坂本龍一さんと対談する機会に恵まれました。

なにしろ憧れの人でしたし、
<世界のサカモト>ですから、
すごい緊張があったにもかかわらず、
とてもフレンドリーに話しかけてくださって、
この対話においても
自分がどんどん元気になってくるのが
実感できたんですね。

坂本さんがパワーをもたれているのは
もちろんだけど、
人間同士しっかり言葉を交わせば、
それはそれぞれを力づける
ということを、
この対話『少年とアフリカ』(二〇〇一年)を
通して、再認識したんです。

よし。<対話>という
自分の根となる姿勢は間違ってない。

じゃあ、次は、何を、どう、届けようか──?

実はずっと前から
『家族狩り』の文庫化の話は上がっていて、
でも倒れていたし、
『あふれた愛』の執筆もあったから、
ずっと待ってもらっていたんです。

出版社が「文庫を出しましょう」と
言ってくださることはありがたかったのですが、
いざ、そのときが来た段階では、
以前の形のまま出すことは、
ぼくには、ためらわれました。

なぜか?

今言ったような順番で、
小説を書き続けてきたからです。

世界をギリギリのところで肯定をしようと、
読者に返事を書いてきたはずなのに、
かつての怒りと否定から見た世界を、
いわば前に戻って出してしまうとしたら、
読者への返事にならない。そう思いました。


だから、九五年に書いた『家族狩り』は、
ひとつの完成した作品として
残してもらいたい、と伝えました。

「今度の文庫においては、
 違う新作としての『家族狩り』を書かせてほしい」

やっぱり、ほんとうにつらい世の中だけど、
それをギリギリで肯定する
ものの見方から、はじめたかったんです。

※来週の月曜日に、つづきます。
 天童さんの言葉への感想やメッセージなどは、
 postman@1101.com
 こちらまで、件名を「天童さん」としてお送りください!
 次回は、個人と家族と世界がつながる地点についての話。
 世界情勢を見ることと、家庭内の問題に向きあうことは、
 つながっていることなんだ、と語ってくださるんですよ。




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第1部
「幻世の祈り」
第2部
「遭難者の夢」
第3部
「贈られた手」
第4部
「巡礼者たち」
『家族狩り』は5月下旬まで刊行され続けている作品です。
天童さんの言葉への反応は、件名を「天童さん」と書いて
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インタビュアーは「ほぼ日」の木村俊介でおとどけします。

2004-04-16-FRI

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