第2回 動機はもちろんあります
糸井 だいたい、伸坊さ、
「頼まれてない仕事」って、
したことあるの?
う〜ん‥‥ないんだよね(笑)。

糸井 ははははは。
でも、友だちが「描いて」って言ったときは、
仕事じゃなくても描くでしょう?
「なんとかさんの顔、描いて」とかさ。
ああ、描きますね。
まえ、山下(洋輔)さんのところでさ、
みんなでフリージャズを演奏しながら、
描いたことあったよね。
糸井 みんなの似顔絵をね。
ああいうときはもう、
じゃんじゃん描きますよね。
出し惜しみしないよね。
うん、だけど‥‥
うちで修練とかはしないですよね。
糸井 修練とかはしないですよね(笑)。
動機がないんですかね。
誰に頼まれたわけでもなく、
「この絵を描きたい!」という
ほとばしるような‥‥。
動機、ね‥‥。

糸井 いや、でも、その気持ちはよくわかるよ。
オレだって、ないからさ。
だから、どういうわけか、
こんなオレがこういう展覧会を
やることになってしまったという
筋道はよくわかる。
「筋道」(笑)。
糸井 あのね、ぼくが、
本職でコピーライターをやってたときに、
会社の宣伝部の人とかが、
年上のクリエイターの方の話をするときに
「○○さんのコピーは壮絶らしいですね。
 血を吐くらしいですね」
とかって言うわけだよ。
ああ、うん、うん。
糸井 そういうこと言われると‥‥
困っちゃうんだよね。
いや、その気持ちはわかる。
ぼくもあるんですよ。
昔、デッサンの学校にいたときにね
まあ、そこのデッサンの先生がさ、
「オレたちが若いころは
 デッサンして目から血が出た!」
って、言うわけよ。

糸井 はははははは。
え? ほんと?!
うそだろう、って思うわけ。
糸井 うん、うん(笑)。
あるいはその、浅葉さんがさ、
「1mmの間に
 カラス口で10本線がひけないと
 デザイナーにはなれない」
とかっていうのを
お弟子さんたちに言うとかさ。
そういえば、浅葉さんは、
いつも目から血がでてるよね。
糸井 あれは充血してるだけだ。

あ、そっか(笑)。

糸井 まあ、そういう強い動機があればね、
展覧会をやる意義というのもわかるんだけど。
だから、伸坊が展覧会をやるというのは、
「動機なき殺人」みたいなもんで。
ははははは。
だからね、だいたい展覧会ってのはさ、
こう、絵を描きたい人が絵を描いて、
しかるべき人が見にきてくれて。
糸井 うん、うん。
「なかなかいい」っていうんで、
どっかで仕事になったりとかっていう。
そ、う、い、うこと‥‥なんでしょ?
糸井 訊かれても困るけどさ。
ははははは。
糸井 ぼくの知る範囲では、
ああいう展覧会をやる人は、
純粋に、ただただ、
展覧会がしたいみたいよ。
「自分にはやりたいことがある」って
自分できちんと感じたい、とかさ。
あぁ、それはあるでしょうね。
糸井 あるんだろうと思うよ。
ま、仮にぼくが、
こういう「のんきな絵」を
「どうしても描きたい!」と思ってても、
「のんきな温泉の絵を描いてください」
なんて仕事はこないもんね。

糸井 こない、こない(笑)
だからまぁ、展覧会っていうのは、
そういうものなのかもしれないな。
糸井 で、伸坊はそういう‥‥。
いや、や、ややや、
そういうことです。
糸井 ははははは。
「のんきな絵が描きたいな」と強く思って
展覧会をやるにいたりました(笑)!
糸井 わはははははは!
オレはのんきな絵が描きたいのに‥‥。
のんきな絵が描きたいのに
誰からも注文がこない!
糸井 しかたなく、衝動にかられて、
いてもたってもいられずに‥‥。
そういうことにしました!
糸井 つまり、雷にうたれたように
のんきな絵がダーーーっと!
これからはのんきだ! っていう。

糸井 オレについてこいと。
オレについてこいという
のんきの大将です。
糸井 のんきのためなら人殺しでもするくらい。
のんきのためなら目から血が出る。
糸井 はっはぁー、
それはわかりやすいですね。
あぁ、そういうことだったんですか。
で、そういった強い動機があるのに、
なんでまた展覧会の1週間前まで
1枚も描かずに‥‥。
ははははははは!

糸井 それほど激しい衝動があるにも関わらず?
それは、あの‥‥
申し開きができませんが。
糸井 わははははは。
はははははは。



(などと笑いながら、続きます‥‥)

2007-11-10-SAT



HOBO NIKKAN ITOI SHINBUN