第22回 タコを洗う。
糸井 まずは、タコを釣った話からしよう。
うん、うん。
糸井 そのときはね、
テンヤっていう仕掛けで釣ったんだ。
それはね、こう、板みたいなものに、
どう言ったらいいのかな、
「ピースサインの指先を折り曲げた」
みたいな針がついてる。
こういう(ピースサインの指先を折り曲げる)。
糸井 そうそう(ピースサインの指先を折り曲げる)。
で、そこに、ラッキョウを縛っておくの。
へぇ。ラッキョウ。
糸井 うん。ラッキョウを板の先につけて、
バーンと海中に沈めて、こう、煽るんですよ。
するとそこにタコが抱きつくんです。
へぇーー、そんな釣り方があるんだ。
それははじめて知った。
糸井 でしょ? あの、くれてもいいでしょ?
え? なにを?
糸井 「タコの話」をさ。
ああ、うん、そりゃもちろん(笑)。
糸井 でさ、ほんとはイカを捕りに行ったんだよ。
ダメじゃん。
糸井 じつは、ダメなんだ。
ほんとはテンヤでスミイカを釣りに行ったんだ。
そしたらタコがかかっちゃって。
外道ですね。
糸井 外道なんだ。
ふつう、タコはツボで捕るよね。
糸井 でも、テンヤでもかかることはあるんだ。
で、「わー、こりゃタコだ」なんて
騒ぎになったんだけど、
ま、どっちも美味いからさ。
タコ、美味いですよ、そりゃ。
糸井 しかも有名な久里浜のタコですよ。
「これは久里浜のタコだから」
っていう久里浜ですよ。
うん。
糸井 久里浜っていうのは、房総じゃなくて、
ええと三浦半島の突端のとこですよ。
美味いんだ、そこのタコは。
話がずれてるんじゃないかな。
糸井 そう。そんで、家にタコを持って帰ったわけだ。
ところがタコを食おうにも、ヌルヌルしてる。
あのヌルヌルを取らなきゃならない。
あー、そうそう、そういう話だ。
糸井 ヌルヌルを取るのに、
もう、ものすごく苦労するんだ。
手に粗塩を盛っては、
ぎゅっぎゅっぎゅっぎゅっぎゅっ、
こすって、こすって、こすって、こするんだけど、
もう、ずっとヌルヌルしてんのよ。
30分以上やってても取れない。
でも、それを取らないと料理もできない。
そりゃたいへんだ。
糸井 タコを加工する専門店なんかはね、
洗濯機の中に塩を入れて、
そこにタコを放り込んで、
ガンガラガンガラ回してヌメりを取るんだよ。
それを自宅でやろうってんだから、
たいへんだね。
糸井 たいへんだよ。
もう、たいへんで、たいへんで、途中で
「あー、もう、やんなっちゃったよ」と。
あらら。
糸井 うんこでもしてこようかと。
新聞でも読むわと。
スポーツニュースでも観るわと。
どれかなんだな。
糸井 とにかく、いったん休むと。
で、休んで、「よし、やるか」と。
そんで、台所に戻ったら
‥‥タコがいないんだよ。
一同 (笑)
ああ、それは、話したいね!
ぜひ、話したいね、みんなにね!
糸井 な。な。
一同 (笑)
タコを洗ってて、休憩して、
戻ってきたら、タコがいないんだもん。
糸井 いないのよ。帰って来たらいないんだよ。
「ヤロー、逃げやがったな」ってことだ。
そりゃあ、いい話だ。
糸井 な。な。
オレに「タコの話」をくれて
よかっただろう?
うん、よかった。
糸井 こう、見渡しても、いないんだ。
流しはステンレスのシンクでさ、
どーーーう考えても、逃げ場はないんだよ。
シンクの外に出たのかなと思って
そこらじゅうを探したけど、いない。
まだ遠くには行ってない。
糸井 まだ遠くには行ってない(笑)。
で、まさか、と思ってね、
流しの排水溝の、なんて言うの、
生ゴミが溜まるところを見たら、
そこに、こう、
ひとかたまりになって、入ってたんだよ。
一同 へーーー。
コップ一杯ぶんくらいのところだよね。
糸井 そうそう。そこは網になってるからさ、
そこから先はさすがに行けなかったみたいで。
でも、すごいでしょ。洗われてる最中だよ。
もう、だいぶんヌメりも取れて、
さっぱりしてきてるのに。
糸井 うん。人間だったら観念してるよ。
ところが、タコにはタウリンがあるからね。
はー、タコにはタウリンが。
糸井 あるんだよ。
しかも1000ミリグラム以上あるからね。
だから、がんばれるんだ。
で、まあ、そんなこんなで、苦労しながら、
桜煮をつくって食べましたよ。美味かったー。
そりゃあ、美味いだろう。
なんてったって
一度は逃げられたタコ、逸したタコですよ。
糸井 うん。ひとしおですよ。
一回、水道管を通したことによって、
うまみも増してるね。
糸井 いや、水道管までは行ってない。
そうか、そうか、網があったからな。
糸井 うん。網のところは
お茶殻でも通らないような
小さい穴しか空いてないからさ。
さすがのタコも。
糸井 さすがのタコでもムリです。
いくらタコが隙間から逃げるといっても
お茶殻以上の大きさはあるから。
だな。
糸井 そういうお話を、話したかったんだ。
これは、伸坊から譲り受けてもいいでしょ。
うん、うん、いいこと聞いた。
で、さ。そのときにさ。そのタコをさ。
こう、ツーっと切ったりした?
糸井 うん、したよ。
タコの血って、どういう色してるか知ってる?
糸井 うわ、そう来る。
タコの血は、ね。
‥‥青いんだ。
糸井 返すわ、「タコの話」。
(俄然、続きます)

2008-05-26-MON


(C)HOBO NIKKAN ITOI SHINBUN