第19回 自然劣化の深い話を、朝から。
もうひとつ、
見てきたっていう話だけど、このあいだ、
三菱一号館っていう煉瓦の建物が
復元されたっていうんで行ってきたんだ。
糸井 いろいろ見に行くね。
うん。
それは呼ばれて行ったんだけど。
行って見ると、見事に復元してるんだよ。
煉瓦なんかも、わざわざ昔の
古い手法でつくって元通りにしてある。
糸井 ほぅほぅ。
でね、建物の中に、
大理石づくりの暖炉があって、
見事に復元されてるんだけど、
その中のひと部屋の大理石だけ、
当時の石をそのまま使ってるわけ。
糸井 うん。
きっと、煤で汚れてたやつを、
ものすごくきれいにして、
ほとんど新品みたいになってるんだけど、
ちょっと、こう、なんていうのかな、
彫刻とか摩耗して、なだらかになってる。
パッと見は、ほとんどいっしょなんだよ、
キレイにした古い石も、新品の石も。
ちゃんとおんなじ模様なの。
でも、よーく見ると、違いがわかる。
で、ね。比べると、やっぱり、
古いほうの石のほうがいいんだよ。
糸井 新品じゃなくて、
古い石をきれいにしたほうが。
そう。古いほうの石が。
それが、なんとも不思議なんだ。
ちょっと、欠けたりしてる石のほうが
新しいものよりもよく見える。
じゃ、欠けてるところがいいのか?
糸井 たぶんね、だいたいのものは、
「そのままになってる」ほうがいいんだよ。
そのまま?
糸井 欠けたほうがいいとか、
なだらかになってるほうがいいとかじゃなく。
長くつかってる、そのままがいいんだよ。
あの、オレ、京都で木造の家に
住んでるじゃないですか。
うん。
糸井 建ててくれた大工さんとか
設計してくれた人とかが
ときどき遊びにくるんだけど、
「やっぱり、住むといいですねぇ」
って言うんだよ。
うん、うん。
糸井 いわれてみると、たしかにそうなんだよ。
そうだね。
糸井 うん。
できたばっかりの家って、
やっぱり、おもしろみがないんだよね。
どこがどう違ってくるのか
わかんないんだけど、
たしかに違いが出てくるんだよ。
こう、軽いエッジが取れていくみたいな。
そう、それそれ。
糸井 それなんだよね。
じゃあどんどん古くなればいいかというと、
それもまたちょっと違う。
うん。汚くなるのとは違うからね。
糸井 そうそうそう。
だから、家のなかの柱なんかは、
そのまんまにしておくんだけど、
屋外に出ている板や柱の部分なんかは
洗ったほうがいいらしい。
それ専門の「洗い屋」っていう
人たちがいるんだって。
あ、苛性ソーダとかで洗うやつ?
糸井 そうそうそう。
そういうので外側は
キレイにしたほうがいいらしい。
つまり、ただ、自然に
劣化してくっていうのを
たのしむだけじゃなくて‥‥
どう言えばいいんだろうね?
かなり深いところ。
糸井 深いところだね。
朝からするような話じゃないね。
一同 (笑)
糸井 はははははは。
いや、朝からとばしていこうよ。
はっはっはっはっ。
糸井 オレは朝からカツ丼食える男だから。
なんだそりゃ(笑)。
糸井 カツ丼でも、ラーメンでも食えるよ。
どんな自慢だよ。
糸井 もうね、顔のシーツの跡が消えないうちから、
食うよ、カツ丼でもラーメンでも。
うん、まだついてるよ。
糸井 今日は、一日中ついてそうだな。
ははははははは。
(糸井、最近は食べないみたいです。つづきます)


2010-06-21-MON