岡本太郎記念館・館長の、平野暁臣さん。 TARO MONEYに、何を願う? 2


川田剛さんの
プロフィールは、こちら。

TARO MONEYの利益を全額『明日の神話』に寄附して
40%の税金を納めるか、
そうせずに経費とするか、
またはほかにぴったりの方法がないか、
模索と検討を重ねてきましたが、
最終的に、糸井重里は
寄附にかかる税金を納めることに決めました。
この決断の、最後の話し合いになったのは、糸井重里と
この春CFOとして糸井事務所に入社した山田真哉が
税を徴収する側の立場である国税庁にいた
川田剛さんに、このことをご相談した会談でした。
その話し合いのようす、お伝えします。




糸井 『明日の神話』に渡す際にかかる税金が
寄附しようとするお金の
およそ40%になるということを、
みなさんにきちんと説明したいと思ったことが、
そもそものはじまりなんです。
「ほぼ日」宛にいただいたメールも、
税金を納めるべきだという方と、
経費の名目にしていいという方とがいる。
川田 たしかに、寄附というものを
自由自在に認めていいじゃないかという
意見もあると思います。
しかし、寄附を無制限に認めると、
どういう団体にお金を渡す場合も、
「寄附」という名目にすると課税されない、
ということになってしまうんですね。
どんな活動をするかわからない団体にだって、
容易にお金が流れてしまうことになるわけです。
例えば、NPO法人を称している団体が
実際には暴力団だったという事例がありました。
そのような団体への寄附でも課税されないという
結果になってしまいます。
糸井 寄附の話では、
よくアメリカのことが例に出されます。
カーネギーホールの例をはじめとして、
アメリカのものすごい部分を
いかに寄附が支えてるか、なんて話が語られます。
今回も「アメリカはいいなぁ」という気持ちが
ふつふつと‥‥(笑)。
川田 お気持ちはよくわかります。
しかしアメリカでも、実際には
寄附が租税回避の手段として
利用されている一面もあるんですよ。
山田 言ってしまえば、
税金逃れですね。
川田 そうなんです。例えば、アメリカでは
現物で寄附すれば、
価格の評価を自分が自由にできるんです。
その結果、実際には1000ドルでも売れないような
ボロボロの車を、1万ドルだと言って寄附すると、
そのまま1万ドルの寄付金控除が受けられます。
特に高額所得者だと、現物での寄附は非常に
税負担軽減のメリットが大きいんです。
糸井 それは、アメリカの歴史の中で
そういう法律になったわけですね?
川田 いくつかの問題点はあるにしても、
やっぱり寄附は積極的にやったほうがいい
ということになったんです。
その結果、2001年の調査では、
ひとつの家計における1年間の平均的な寄付額が
日本では2936円にしかなっていないのに、
アメリカでは1620ドル(約19万円)にも
なっています。
糸井 ‥‥すごい、この差は!
桁が2つ違いますね。
ぼくらが、なぜ
「アメリカだといいのに」
と思ったかと言えば、
「お金の使い方を自分が判断して
 決められそうに思えるのが寄附」
で、一方、
「一旦お金を預けちゃって、
 ぼくらが選挙で選んだ人たちが
 使い道を決めるのが税金」
だと思っちゃうから。
自分の決裁範囲を広げたいから、
ブーブー言いたくなるんですね。
川田 それは非常によくわかります。
例えばビル・ゲイツはそうなんです。
政府でやると非効率だというのが彼の考えです。
糸井 はい。いっぱい寄附してますね。
川田 自分でやったほうが、思い通りのところへ、
効率よくお金を出せる。
しかも、そこの運営にもタッチしますので、
政府に任せるよりもより安く、かつ、
効率的に運営できる。
それはそれでひとつの考え方だと思います。
糸井 で、日本ではその選択肢はまったくない?
川田 いや、一応は、あるんですが‥‥。
まずは、国などへの寄附です。
これについては全額所得から控除しても
オッケーです、ということになっています。
糸井 結局税金じゃないですか(笑)!
川田 そういう見かたも可能ですね(笑)。
あとは、公共性が高いところ、
たとえば赤十字や学校などの場合には、
指定寄附金という制度があります。それにのっかれば
寄附金の全額に所得控除が認められます。
「校舎をつくるために寄附を広く集めます」
というような場合ですね。
そうじゃないと、さきほどの話に戻りますが、
誰に寄附をしようと、また、寄附を受けた人が
それをどのように使おうと、自由になってしまいます。
「寄附だよ」と言っても、
実質は「贈与」なんですね。
贈与については、基本的に所得からの控除は認めない、
というのが税法の基本的なスタンスです。
糸井 そうですね。寄附という言葉は使ってるけれども、
お金をあげてるんですよね。
寄附のお金の行き先が、
犯罪につながったりすることもあるから、
そこが大切なのはよくわかります。
でも、今回のケースだと、
国の文化資産を増やそうということを
しているつもりなんですが‥‥。
川田 はい。
お金の出し方としては、いくつか方法があるんです。
例えばひとつは、岡本財団が
直接TARO MONEYを出して、
この販売を糸井事務所がお手伝いするという形です。
糸井 ほかにも、寄附金を自分たちの決裁で
たくさん使えるようにするためには、
営業活動の一環であると位置づけたほうがいい、
という考えも出ました。
どっちも法律侵してるわけではないし。
川田 または、糸井事務所が
修復活動を受託するやり方だってありますよ。
だけど、糸井事務所は、修復業務はしませんから、
それをどこかに委託して
絵を修復してもらうわけです。
修復を受託した金が、100万円で、
糸井事務所から委託する金は
300万円かかったとします。
そうすると200万円の赤字になりますね。
そこで生じた赤字相当分を
TARO MONEYでおぎなう方法も、
あり得るわけです。
山田 修復とTARO MONEYを含めた
請負契約ということですね。
川田 そうです。ただ、最初っから
赤字になるつもりだったんじゃないかということは、
それはそれで問題になるんです。
「結果赤字」でないといけません。
最初から赤字を見込んでいたということになると、
差額の200万円が実質的な贈与にあたるとして、
糸井事務所が寄附金課税を受ける可能性があります。
糸井 赤字にならないと思ってますと言い張って、
心の中で思ってる、みたいな(笑)。
この問題について、読者に問いかけたり、
スタッフにあれこれ調べてもらって、山田さんとも
岡本太郎財団ともたくさん相談しましたが、
最終的な判断は、結局
ぼくが下すしかないと思ってるんです。
そこにはいろいろな方法がありますが、
結局、なんだか、姑息な気がしはじめます。
川田 そうですね。
糸井 お金を取られちゃうっていう意識がないはずはない。
税金の使われ方の不明瞭さとか、
意に添わない使われ方について
思いを抱いている人もいる。
国家の文化遺産が展示されることに
みんなが共鳴して、お金を出すんですから、
壁画にできるだけ使われた方がいいとは思うものの、
回避するための方法で、
「便宜上」こういう形をとりましょうということに、
からだが納得しないんです。
川田 でも、変なことはやってないわけですけどね。
山田 修復の一部を請け負う、という形でも
大丈夫なんですか?
川田 税務上特別の問題はありません。
当初から赤字を負担するつもりだった、
ということがなければ。
糸井 搬送のときのクレーンの代金を、
「ほぼ日」が請け負う、
という形をとることもできますね。
ただ、やっぱり
寄附って、心の問題なんです。
みんなのなかに「そんなことでしたっけ?」
という気持ちが必ず生まれると思う。
川田 そうですね。
何かをすることを請け負うということになれば、
それは、寄附ではなくて業務ですね。
山田 業務、ですね。
糸井 業務でみんなが手伝うのも、
形は同じなんですが、
心が違う。
川田 買った人は、寄附をしたのであって、
糸井事務所の業務を手伝うつもりで
出したんじゃないよって
言うかもしれないですね。
山田 また、国の指定寄附の認定をとったり、
財団の全体の決をとったり
団体をつくったりすることが、
時間的にもかなりむずかしいことが
わかったんですね。
ほぼ日 そうなると、もう、「ほぼ日」の、
糸井重里ひとりの名前で出すしかない、
ということになったんです。
だったらやっぱりどうしても、
税金はかかってくるねっていう話で(笑)。
川田 そうなると、なかなか全額を
寄附金控除の形で所得から控除するというのは
むずかしいですね。
糸井 ぼくらは、税金を払うことを
絶対に回避したいと思ってるわけじゃなくて、
どの方法が、いちばん多くの人が
気持ちよく納得できるのかを見つけたいんです。
税金を払うなら、
払ったってことを喜びに感じたいね、きっと。
川田 おっしゃるとおりです。
みんな嫌々かもしれないけど、
そうなってほしいですね。
糸井 ぼくが決めるしかないね。
山田 はい。
糸井 信じるしかないですよね。税金に関しては。
つまり日本で生きてる以上は。
そこのところで、嫌だ!っていうわけには
いかないでしょう。
川田 そうですね。
税金を払うのが嫌だという選択肢はないわけです。
もしどうしても日本で税金を払いたくないと
いうのであれば、日本国外に出るしかない。
しかし、ほかの国に行ったら、その国の制度に従う、
すなわちその国で税金を払う、
ということになります。
糸井 方策は、考えればあることだけれど、どれも
このTARO MONEYをなぜやったか、
ということを、ぶらして伝えることに
なっちゃうことは確かだよ。
ですから、岡本敏子さんが
去年の今ごろにぼくらに託していったことを
もういちど思い出したほうがいいんです。
敏子さんの遺志は、
なるべくたくさんの人が
おみこしを担いでほしい、ということだった。
これはお祭りの感覚と同じだと思うんです。
川田 ええ、感じとしてはよくわかります。
糸井 ここで「よし、俺が全部賄うよ」と
ビル・ゲイツが現れても、
それは、嫌なんですよ。
川田 ああ、なるほど。おもしろいです。
その意味で、このTARO MONEYは
非常にいいしくみを作られたと思います。
糸井 うわ、うれしいです。ありがとうございます。
じゃ、改めて結論を言うと、
このTARO MONEYについては、
やっぱり税金を、払おうよ。
ほぼ日 はい。
糸井 選挙で投票した人たちが使い道を決めてるんだ
という建前にならうんです。
敏子さんだって
「そんなめんどくさいこと言ってないで、
 払っちゃいなさいよ」
と言うに決まってる。
みんなから集まったお金は、
税金を差し引いた分を、壁画に使います。
税金が払われることが嫌な方は、
財団の口座に直接寄附する方法もあるからね。
うん、これは、はやく記事にして
はやくみんなにお知らせしよう!

ちょっと長めのお話になりましたが、
このことをはやく、そのままお伝えしたくて、
今日のページをまとめることになりました。
明日のこのページでは、
税金とお金について、川田先生と糸井が
どんな考えを持っているかについて、
つづけて話します。

2006-04-24 MON

もどる