■11月7日■
Tシャツ鼎談第2回
空気をつくる、スタイリスト。



糸井 ところで、伊賀くんの写真集『FIrst time』の
モデルになっている人たちは、
有名無名入り交じっているんですよね。
伊賀 そうですね。
そういうことが関係ないところで
やりたかったんです。
有名無名は関係なく、
やっぱ、おもしろいヤツはおもしろいし、
つまんないヤツはつまんない。
秋山 これ見てると、
「どっかで会ったっけなぁ」
という人がけっこういる。
伊賀 俳優からモデルから、デザイナーやら学生やら
いろんな人が出ていますから、
秋山さんが「あれ?」と思われるような
業界の人も混じっているかもしれませんね。
基本的には、ほんとに
自分に近いところにいる人たちで撮ってるんです。
撮影してるときに
「誰かおもしろいヤツ紹介して」って言って、
「あ、それなら、この子はすごいヤバイよ」
とか、みんなが言ってくる。
糸井 そうか、いろんな出会いがあって。
伊賀 僕は基本的に、いつもこんな格好をして、
こんな雰囲気の音楽を聴いている。
たとえばいまなら、ヒップホップの人なんかとは、
あまり交流がなかったりするんですけど、
「そう言うけど、アイツはかっこいいぜ」
と、人から聞いて、会ってみると、
すげえいい人だったりして。
僕は10代のとき、
音楽がすごく好きだったんですけど、
10代だとね、
格好が違うだけでケンカの種に
なっちゃうじゃないですか。
糸井 アハハハ、なる、なる!
伊賀 俺はパンクで、お前はモッズだから、
なんかすごいムカツク!とか(笑)。
だけどこの年になって、
お互いの音楽のよさもそれなりに
わかるようになったし。
腹を割って話をすると、
意外と、どころか、すごいいい人だな、
と思うことがくりかえしあった。
そんなとき、ちょうどMOTOKOさんから
「写真集、やってみない?」って振られて。
糸井 なるほどね。それで‥‥結論として‥‥、
これは、スタイリングは
なさってるんですか?
伊賀 全く、一切してないです。
秋山 ふふふふ。
糸井 やや、やっぱり。
伊賀 男っていうのは、
いかに中身が「ある」か、
というのが、ほんとに大事なことで。
糸井 うん、うん。
伊賀 ほんとによく言われることなんですけど、
かっこいいやつは何を着ててもかっこいい。
でもね、実際にはそういう人は
たくさんは、目にすることはないんです。
正直、自分がいま、
ファッション業界で仕事をしていて、
感じることがあります。
男の子のスタイリングで、
ルイ・ヴィトンとかディオール・オムとか、
ああいう高尚な服になると、
雑誌で見る写真は、モデルはだいたい外国人。
そして全身すべて同じブランドを着てる。
僕ら以降の、10代の子どもたちは
そんなのは、きっと、
かっこいいと思わないですよ。
糸井 そういえば、子どもに「ひとそろえ」で
何か買ったとしても、
あまり喜ばれないもんなぁ。
伊賀 たぶん「すごいいい服」はすごいいい服なんで、
欲しいかもしんないです。
でも、全身でそろえて着るっていうのは、
僕ら以降の世代にはまず、あり得ないんです。
「このスタイリングは、
 日本の男の子たちに見せるものなのに、
 なんだかそういうのがまかり通ってるな」

って、思って。すごい悲しいな、と。
糸井 そこのフラストレーションも
あったんですね。
伊賀 だから敢えてこういうことをやってみたかった、
ってのは、あります。
秋山 なるほどねぇ。
伊賀 ほんとにいい写真で、かっこいいヤツが写ってたら、
みんなその服が欲しくなるだろうし。
30万円のジャケットに
800円のタンクトップを合わせて、
毎日着ているリーバイスを履く、
それこそが「あり得る姿」なんですよね。
そういう人が街を歩いてるのを見たとき、
「あー、すげぇかっこいいな」
「お金貯めてあのジャケットだけ欲しいな」
と、そういうかんじになるよな、と思って。
だから、この写真集は一切、
とりあえずスタイリングしないで
やってみたんです。
スタイリストっていうのは、
服をそろえるだけじゃなく、
「空気」をつくるのも
その役割なんだと思うんですよ。
秋山 スタイリストって、
すごいおもしろい職業だなと思ってて。
知りあいの某スタイリストの人が、
家を買うときに、
銀行でローンを組もうとして、困ったんだって。
糸井 スタイリストって職業で。
秋山 そう。スタイリストという職業を、
何回説明しても銀行はわかってくれない。
「服をデザインしたり
 つくったりするんじゃなくて、
 借りてきて着せたりするだけなのに、
 どうしてこんなに収入がいいんですか?」
って言われて(笑)。
糸井 そうだね。スタイリストって、いまは、
スタイリストというよりも、
セミ・プロデューサーみたいな役を
することが多いよね。
伊賀 はい。
糸井 たとえば芸能人と一緒に買い物に行って
レコードを勧めたりする。
そうするともう、
「個人」のように見えることの影に、
実はスタイリストがいる、
ということになってくる。
スタイリストの仕事って、昔とはもう違いますよ。
「服」だけではないですよね。
伊賀 そうですね。
僕は、高校1年のときに、雑誌の
「THE FACE」かなにかで、
ジュディ・ブレイムのページを見て、
スタイリストになろうと思ったんです。
そのファッションページが、すごいかっこよくて。
「こういうものをつくりたいけど、
 どうしていいかわからないな」
と思ってクレジットを見てみると、
いろんな人たちが関わって
ページをつくっているのがわかった。
フォトグラファーは、まあ、たぶん無理だな、
ヘアメイクも、たぶん無理だな、
モデルは間違いなく無理だし。
糸井 無理じゃないよ(笑)。
伊賀 それで、最後に残ったのが
「ファッション・エディター」。
何だろう?と思って辞書で引いたら、
あ、編集って意味なんだ、
じゃ、全体のこと、決めていいんだ、
そしたら俺はこれをやりたいな、と思った。
だから、楽しそうなことがあったときに
自分が関わるとしたら
「服」をいちおう持っていく、みたいなかんじで。
いまもそのまんまですよ。
いちおう「服」を持ってくけど。
糸井 うん。「服」って、
ツールにしかすぎないんだよね。
そういう時代が、いつからか来てるんだよ。
伊賀 僕は、メンズのスタイリングをするときは、
とにかく「おもしろい」ヤツに着てもらう。
そのほうが、
写真に写したときに「すごい」んです。
逆に「もうモデルなんかいつやめてもいい」
ぐらいのヤツのほうが、写真の仕上がりは、
ぜんぜんおもしろいですね。
糸井 うーん。なるほどね。
伊賀 顔だけきれいなヤツを撮っても、
きれいなんですけど‥‥。
秋山 ダメなんですよね。
顔のいいだけの人、
つまんないよね。
伊賀 ええ。
リズム感があんまり出ないなって、思う。
糸井 リズム感(笑)!

(つづきます!)


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