第5回
ツッコミは、聞かんでよろしい!

── みうらさんは、文庫『芸術と青春』の
あとがきを書いていらっしゃいますよね。
みうら あの本ね、あとがきを書くときに、
ちゃんと読ませてもらったんだけど、
すごいよね。
「恋愛は、芸術だ!」とか
一瞬、言いわけかな?と思うぐらいなことを
平気で書いてる。
堂々と書くことがすごいよなあ。
── TAROのフランス時代の恋愛が
赤裸々に書かれてありますよね。
みうら 岡本さんは、なんにも隠してないね!
人間だから、そういうところはふつう
隠したいとも思うんだけど、
「かぁーくしちゃいけないっ!」
というポリシーが
なにか、あったんでしょうかねえ。
── 自分への挑戦を
いつも心がけていたそうですよ。
みうら うーん、これはやっぱり
自分を完ぺきに
洗脳させてから普及する
活動だと思うんだ。
── でも、何かがないと、
あそこまで自分を洗脳できる力は
つかないような気がするんです。
どうしてTAROはTAROになれたのか、
みうらさんは、どう考えますか?
みうら ‥‥岡本さんって、
周りからはあんまりツッコまれないけど
自分で自分にツッコミ入れてるタイプの人

のような気がするなあ。
「それ、言いわけじゃん!」とか言う人が
うまい具合に周りに「いなく」て。
── うまい具合に。
みうら うん、い〜い具合に
いなかったと思うんだ。
まともな人とつきあってるとね、
必ず言われるんだ、やっぱ。
「そうじゃないだろう」とか
「それは言いわけだよ」とか。
たぶん周りが、ほら、パリだから、
芸術家の人ばっかりだったわけ。
だからツッコむ人が
ひとりもいなかったんだよ。
自分ツッコミはあっても、
人ツッコミはなかったかんじがするわ。
あんまりね、人にツッコまれないほうが、
いいんですよ。
── ツッコまれないほうがいい。
どうしてでしょう?
みうら 反省するから。
── おお!
みうら 大多数にツッコまれると
「悪いかな?」って思うでしょ、やっぱ。
ツッコむ人がいなかったら
「それでいいんだ!」って思えるよね。
『芸術と青春』で、「パリは自由な町だった」
と岡本さんは書いていたけど、
ツッコむ人がいないってことが、
ほら、自由の証だからさ。
── 自由の国=ツッコミのない国!
みうら なにしても「いいかげんにしろよ」って
言わないんだもん、誰も(笑)。
それが自由ってことだからさ。
「すばらしい!」と、「それでいい!」と、
そういうことで育った人って、
やっぱ違うと思うんだよね。
── みうらさんは、どうでした?
みうら 俺もね、俺のおかんが、
わりとそういうヤツでね。
俺は、小学校のとき
「マンガ家になる!」とか
中学に上がって
「フォークシンガーになる!」とか
いろいろ言ったんですけど、おかんは
「なれる!」って言うんですよ。
「なれる、なれる!」って言うのよ。
── 自由の国ですね。
みうら 俺、よくわかんなくて(笑)。
そのうち「自分ツッコミ」するようになって、
「世のなかはそんな甘いもんじゃない」
と、おかんに言うようになって。
── 世のなかは甘くないよ、って
ふつうは、親から言われるものなのに。
みうら うちでは、息子の俺が親に対して
言うことだったの。
そのおかんの教育は、俺にとって
すごくよかったと思うんです。
「そんなもん、できないわよ」とか
小さいころから言い続けられている人って、
やっぱりね、卑屈になっちゃうんだよ。

── たぶん、みんな、そうですね。
親は自分が痛い目にあってきたぶん、
しっかりしろよ、と、伝えたくなりますから。
みうら そこに、ちょっといかれた人が周りにでもいて、
「すばらしい!」とか
「それでいい!」とか「できる!」とか
言われると、できちゃうんだよね、
やっぱね!
── はー!!!
みうら 岡本さんは、そんな人だらけの
自由の町に行ったんだな。
でも、俺はパリには行かなかったから、
ちょっと悩んだわけですよ。
恋愛とかすると、
そうじゃいかないことも出てくるんだ。
岡本さんはいけてたけど(笑)、
俺はだめだったんだ。
13年前くらいに、
いちど「自分、困ったらどうかな?」と、
自分困らせブームがあったの。
「俺、困ったら、おもしろいこと
 すっかもしんないかなー」
とか思って。
ひとりぼけ、ひとりツッコミの時代があった。
── なるほど。自分でツッコんで乗り越えると、
枠を広げられますね。
みうら やっぱり、周りの環境って大切だよね。
── TAROの育った家庭も、
そういうことを言われなさそうな環境です。
「自分を貫くことを母から学んだ」と、
言っているくらいですから。
みうら いやぁ〜、ツッコまれてないでしょうねぇ!
お父さんはマンガ家で、
お母さんは、かの子さんでしょ。
すばらしいことだよね。
やっぱり、ツッコミが
芸術家をつぶすんだよね。
── 反省しちゃうから。
みうら 反省するってことは、
まともになるってことなんだ。

だから、もしツッコまれても
聞かないふりしとけばいいんだよ。
── そうですね!
みうら 「○×%$なんだっ!」とか
強く言っとけば、押し切れるもん。
ツッコミを聞かない、っていうのが
芸術家の第一条件だね。

(来週の水曜に、つづきます!)

2003-11-26-WED

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