谷川俊太郎、kissなどを語る。
しかも、新作『kiss』を、「ほぼ日」で
1000枚限定特典付きで発売します。

第14回
I と You がクルクルまわる。


 
糸井 ご飯は、どうなさってるんですか?
谷川 家にいるときは、適当に食べてますよ、
自分で作って。
糸井 お上手なんですか?
谷川 (笑)いえ、ぜんぜん上手じゃないけど、
意識しなくても、自分の食事ぐらい作れる程度には。
それは上手と言えばいいのかわかんないけど、
まあ、慣れてますね。
糸井 それは、ずっと前から?
谷川 ひとりになってから、とくに。
前から少しは作ってましたけど、
以前は「料理する」っていう意識があったんだけど、
今はほとんどその意識がないですね。
だから、普通の家庭の主婦に近づいてるんじゃない?
冷蔵庫をのぞいて、野菜の残りもんがあれば、
適当にこれをこうやって食おうかといって作れる程度の
境地にはなってる。
糸井 そういう意味ではひじょうに、
「全体的に」生きてらっしゃいますね。
体から、生活が出てる。
谷川 そうですよね、わりとね。
洗濯もするし。
満足してますね、自分の暮らし方に。
糸井 そのなかから「kiss」みたいなタイトルが
ポンと出てくるっていうのは
あんがい、あるのかもしれないですね。
「愛の暮らし」をしてしまうと、
プライオリティが愛にいちばんに、
なってしまいますから。
谷川 なりかねませんね。
糸井 それは決して、生活ではない。
「あなたを満足させる私」っていう、
機微になってしまうんで。
全体像は壊れますよね。
谷川 いや、それをバランス良く包み込む、
規則正しい生活とか平凡な生活もあり得ますよ。
糸井 そっかあ!
谷川 うん。
年を取ってきたからってこともあるんだけど、
自分のなかの欲求が薄くなってきていて
いろんなことをバランスよく
配置できるようになったような気がします。
糸井 年を取られる前はきっと、さぞかし……。
谷川 マザコンに理由する不安とか、
そういうものに、
けっこう苦しんでたような気がします。
糸井 ぼくは、もし「愛の暮らし」だったら、
2人羽織のように生きていきたかったんですよ。
でも、それは迷惑ですよね。
谷川 そりゃ大変ですよね。
糸井 ワイ談のつもりはないんですけど、
挿入したまま1日じゅう生きていたかったんです。
谷川 こないだ、息子の賢作が作った歌で、
江國香織さんの詩にそういうのがありました。
ぼくはそれを読んだとき、
「これは男では書けない」と思ったんだけど、
糸井さんはそういうことを思えるんだ。
じゃあそうとうに、
糸井さんのなかに女性的な部分があるということですね。
糸井 はい。そうとう、ありますね。
野放しにしたら、ぼくは、
「超マイホーム主義」になるんです。
谷川 うん、うん。
糸井 受注産業体質だったり、仲間がいたりするから、
「狩り」に行ったりもする。
「狩り」がおもしろければ、
そんなこと考えなくてすみますから。
ほっといたらぼくは、阿部定になってる。
谷川 それは、糸井さんの
創造のエネルギー源ですね、きっと。
糸井 スケベですよー。
谷川 ねっ。
糸井 で、そのことを、秘密の宝箱に置いて、
「(そこに)あるのね」っていうかんじにしてる(笑)。
「あるのね」っていうことで、暮らせてます。
谷川 なるほど。
糸井 それがないと確かに、イヤですね。
谷川さんは、
そこまでのことではないんですね?
谷川 ぼくはもうちょっと普通の男でね。
ずっと一生涯ベッドのなかでくっついて、
暮らすのはちょっと俺にはできない。
やっぱり、ひとりの時間が欲しい
っていう気持ちがあるんですよね。
糸井 そのぶん俺も、高卒の人だから、
そのイメージを大事にしながら(笑)、
実際は違いますもんね。
谷川 それで、何て言うのかしら、
女の人を好きになることと、
この冬の空を見て、木立を見て
いいなと思うことが、
すごく似てきますね
糸井 うん、似てきますね。
谷川 女性のことを、
自然に属してる、
宇宙に属してるっていうふうに
だんだん、感じられるようになってきて。
それがやっぱり、いい気持ちですね。
糸井 うん、うん。
谷川 以前は、人間関係のことばっかり考えて、
嫉妬したり憎んだりとか、やってたわけでしょ?
もうちょっと広い文脈で、
なんか、命ってものを考えれるようになった。
それはもちろん女性に限らずなんだけど。
I LOVE YOU の I と YOU というのが、
なんか、自然とか、動物とか、芸術作品とか、
そういうものぜんぶになってきたなぁ

という感じではあるんですよ。
糸井 I と YOU が、
いつひっくり返ってもいいような。
谷川 そうそうそう。そうなんですよね。
糸井 クルックル、クルックル、
回ってるみたいな。
谷川 うん、うん。
糸井 それは……うれしいですね。
谷川 ねぇ?
糸井 ええ。
欲が深くなったとも言えるんだけど。
谷川 そう、ある意味ではね、そうなんですよ。
どんどん欲深になってますねぇ。


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  <これで、対談はおわりです。
 ご愛読ありがとうございました。
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●●谷川俊太郎さんの、詩の世界●●

そして

夏になれば
また
蝉が鳴く

花火が
記憶の中で
フリーズしている

遠い国は
おぼろだが
宇宙は鼻の先

なんという恩寵
人は
死ねる

そしてという
接続詞だけを
残して

       『minimal』(思潮社)より

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●●これからの、谷川さんの活動のお知らせです。●●

谷川俊太郎さんと賢作さんは、
3月に、ヨーロッパでのライブツアーに出かけられます。
3月18日(火) ケルン 国際交流基金ケルン日本文化会館
  20日(木) ベルリン ベルリン日独センター
  22日(土) リガ(ラトビア共和国)※場所未定
  25日(火) パリ 国際交流基金パリ日本文化会館
  26日(水) パリ 国際交流基金パリ日本文化会館
の予定です。各ライブのくわしいお問い合わせは
TAM office 03-3312-5963までどうぞ。

また、4月にはkiss発売記念コンサートがあります。
In between music and poetry Vol.1“kiss”
谷川俊太郎(詩と朗読)+谷川賢作〔ピアノ)、
ゲスト 続木 力(ハーモニカ)
スペシャル・ゲスト 江國香織
2003年4月17日(木) 開演19:00(開場18:00)
銀座・王子ホール
チケット 4000円(全席指定)
チケット発売は、2月22日10:00より
お問い合わせ:王子ホールチケットセンター
       03-3567-9990

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谷川さんの「kiss」について

「kiss」はCDショップなどで
2月5日より発売されています。
ショップにない場合は、
店頭にてご注文くださるか(商品番号PSCR-6105)、
インターネットの各ショッピングサイトにて
お買い求めくださいませ。
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CD「kiss」のポリスターの
スペシャル・コンテンツはこちらです。

2003-02-18-TUE


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