テレビファン ぼくら、テレビが大好きだから。   鈴木おさむ─────糸井重里
第10回 尊敬しても、感謝せず。
鈴木 ぼくは奥さんから
人間として欠落している部分があることを
教えてもらってると思います。
糸井 うん。
社会でなまじ役に立つ人間って、
実は、欠落してるわけです。
そこでけっこう金になっちゃうんですよ。
鈴木 はいはい、そうですね(笑)。
糸井 人に物をあげるときの
アイディアなんていうのは、
使えちゃうんですよね。
そんなことはやっぱり下品なことだと
奥さんは教えてくれる。
あの奥さん、画面からもわかるけど、
すごく品がいいんですよ。
鈴木 あ、はははは。
おしり、出してるけど。
糸井 おしりは出してるけど、
すごく品がいいんです。
出す人ほど品がよかったりするんだけど、
奥さんは、その典型的な人です。

その、プレゼントのあたりにある話は
だいたいが、女の人のほうが師匠です。
男はどこまでも間違いますよね(笑)。
鈴木 そうですねぇ。
糸井 それは、男の子の育ち方の
しょうもない悪さです。
そのあたり、特にあの人はすごく
見抜く力があると思う。
鈴木 いま、自分はもう
親といっしょには暮らしてないし、
怒ってくれる人はどんどん減っていきます。
そんななか、そういうことを
いちばん近くにいる人が
言ってくれるのはありがたいと思います。
 
糸井 まずは、「鈴木おさむ」が
どんなに売れっ子だろうが稼ごうが、
それに感謝してないというのが、
ポイントですよ。
いちばん重要なのはそこです。
鈴木 はははは、そうですね。
糸井 尊敬しても、感謝せず。
オレは、そこのところが
妻の仕事じゃないかな、という
気がするなぁ。
鈴木 そうですねぇ(笑)。
糸井 「ありがとう」って言葉、
すごい万能なんだけど、
ほんとうはそんなことじゃないところで、
妻たちは「ありがとう」なんだよね?
売れっ子になっていくと、男は
「売れっ子だから、おまえは好きなんだろ?」
みたいになっちゃうんだけど、
そんなことじゃない。
 
鈴木 はい(笑)。
糸井 「オレ、いま首位打者だよ?」
なんつったって、
女の人は、
首位打者は関係ないよねぇ(笑)。

なぜなら、女性って、
生まれてからずっと
そこじゃないところで
採点されてきているからです。
特に「美しいです」というコンテストには
「参加しません」というところも含めて
出発してるから
さらに鍛えられてますよ。
鈴木 ぼく、大島から
「小学校や中学校のときに、
 ブス、って言ったやつのこと、
 ブスなやつは全員憶えてるからね!」
と言われて
心底ドキッとしました。
糸井 うーん、なるほどねぇ。
鈴木 「あんたも言っただろ!」
たしかに言ったことあるんです。
ブスとか、菌がつくぞ、なんてやってた。
あいつは
「わたしはいまでも全員の名前が言える!」
って言うんですよ。
ブスっていうのは、そういうもんだって。

だからぼくは
昔そう言ってしまった子たちに、
ひとりずつ謝って回りたいなと思いました。
糸井 いい人に30歳で出会いましたね。
鈴木 はい(笑)。
そういう30代を経て、
ぼくはこれから40代になっていくんですが、
糸井さんからごらんになって、
40代はどんな時期ですか?
糸井 40代はねぇ、
「こんなにやれることが増えたのに、
 届かない世界のほうが広かった」
ということがわかる季節ですよ。
鈴木 へぇえ。
糸井 横山やすしさんが
久米宏さんといっしょに
ニュースの司会なさってたときって、
憶えてます?
鈴木 憶えてます。
糸井 ブルーの背広着て、痩せてて、
めがね、めがねってやりながら、
世界中に向けて、
「どあほう!」って言ってたとき。
スキャンダルがあっても何しても
「無敵だなぁ」
みたいになさってたときが、
38歳だったんですよ。
鈴木 へぇー!
糸井 38って、あそこまで行くんだ、
と思います。
世界中を敵にまわしても
オレは負けない、なんて思えます。
いまの38歳で
そんな人がいるかどうかはわかんないけど、
おおよそはまぁ、そのミニチュア版で、
そう思ってるかもしれない。

テレビ局であろうが、映画界であろうが、
鈴木おさむという人が来たら、
「いやいやいや、お待ちしておりました」
って言われる。
行き詰まったときやなんか、
「鈴木おさむ、何言うかなぁ?」
なんて思いながら待っててくれて、
「オレも考えてないんだよ」
なんて、ぽろっと言うと
案外よかったりして(笑)。
鈴木 うん(笑)。
糸井 そうやってあらゆるものが
案外うまく進んだり、
追い込まれても、土壇場で
見せ場作って勝ってみせる
ぐらいのことは言えるし、できる。
5戦したら5勝はいけるかな?
みたいなところまで、
たぶん、30代で行けます。
負ける試合しなきゃいいんだから。
鈴木 バーっとした勢いで30代になると、
テクニックが身についちゃって、
負けない試合が、
なんとなくできるようになってしまいます。
糸井 無謀に引き受けて、
功やら名を求めたりすると
痛い目にあうのもわかってる。
あくまで一般論として言うと、
30代って、世界と勝負できるんですねぇ。
鈴木 はぁ、なるほど。
糸井 だけど、40代になったときに、
不慮の事故みたいに
そうじゃない世界に出会うんです。
そうじゃないの世界の入口、
たくさん開いてるんですよ。

アバターじゃないですけど、
そっちの世界に、
ものすごくたくさんの人が住んでて、
「ええ?!?! そっちのほう広いわけ?」
なんて、びっくりする。

あるいは‥‥例えばですけど、
鈴木おさむという人が、地元で
政治家みたいな人に会ったとする。
「いやー、あなたのことは前々から」
といって握手するんだけど、
特に何にもあなたのこと知らないんですよ。
 
鈴木 ははは。
糸井 そういう人に出会うようになるんですよ。
鈴木 ははははは。
なるほど、なるほど。
糸井 そっちにちゃんと通じてる人も
こっちの世界にいることはいるんだけど、
ま、ぼくらはそうじゃないです。
だから、びっくりするんですよ、
有名な政治家が、自分のことを
歯牙にもかけないというようなことに。

「あれ? オレは
 世界と勝負したつもりなのに、
 世界ってこういう人だらけなんだ」
というのが、40代(笑)。
鈴木 よくわかります。なるほど。
  (続きます)
2010-08-09-MON