テレビファン ぼくら、テレビが大好きだから。   鈴木おさむ─────糸井重里
第8回 巻かれずに生きていく。
糸井 (笑福亭)鶴瓶さんと(明石家)さんまさんは
歳は離れてましたっけ?
鈴木 えーっと、鶴瓶さんのほうが、
3、4歳上ですね。
鶴瓶さんがいま、60手前。
58歳くらいかな。
糸井 鶴瓶さんも、自分で
脱皮と成長を
くり返している感じがする人です。
鈴木 ぼく、「A-Studio」という番組で
一緒にやらせていただいてるんです。
糸井 知ってる、知ってる。
あのコンセプトを見てオレは
ほんとうに感心したんだけど。
鈴木 はい。ご存知だと思うんですが、
あの番組をはじめる前、鶴瓶さんから、
ひとつだけリクエストがありました。
トーク番組をやるとき、
ゲストに前もってアンケートを取るのが
いま、定例になっています。
あのアンケート、項目が多すぎるんですよ。
糸井 オレもまったくそう思う。
 
鈴木 鶴瓶さんは、
「ゲストが手ぶらで来れる番組を作れないか」
とおっしゃいました。
これまでアンケートで集めていた分の
情報集めはオレがやる、とおっしゃったんです。
だから、スタッフも一緒にがんばってほしい、
ゲストにはアンケートは
1枚も出さないでくれ、
その気持ちで立ち向かいたい、と。

事前取材のとき、
鶴瓶さんがいらっしゃるんだから、
ぼくらがカメラを回すのは、
まぁ、当たり前だと思ってました。
だけど、番組内で、
その「ロケVTR」を流しちゃうと、
結局トーク番組じゃなくなっちゃうよなぁ、
なんて、鶴瓶さんはすっごく考えるんです。
糸井 すごいねぇ。
鈴木 だったら思い切って
写真だけで取材するのはどうか、
という意見が会議で出て、
鶴瓶さんはそれにのりました。

1週間で3人も4人も、
事前取材のために会いに行く。
そうやって番組1本ずつを
丁寧に番組を作るということを
あの歳にしてやる、かっこよさ。

さっきの木村くんもそうですが、
鶴瓶さんも同じように、
おそらく、それをやることが、
「笑福亭鶴瓶のいま」として、
かっこいいということを
ご本人が絶対わかってるんだと思います。
糸井 それは、テレビに巻かれないで
生きてる人たち、とでも言えばいいのかなぁ。

アンケートって、
「ちょっとしか出演しないのに」
という番組でも、いまは必ずあります。
だけどそれってつまり、
番組のなかでは
「わかっていることをやる」
ということでしょう。
テレビがいちばんやっちゃいけないことを
やっていると思います。

そうすると、芸人さんたちはみんな
アンケートを書くために生活している、
というようなことになっていきます。
イライラしたことなんかなくても、
「あ、これイライラしたことの項目に書けるわ」
なんて思って生きていくでしょう。

そうやって捨ててしまうもののことを
テレビは気づいてないのかなぁ、
と思ってたら
スポーツ新聞で、鶴瓶さんが
『A-Studio』のコンセプトとして
アンケートのない番組をやる、
という記事を読んだ。
はじめてそれについて
ちゃんと言ってる人を見たんです。
鈴木 はい。
糸井 もともと、鶴瓶さんが
NHKとやってきたことって、
そこのところかもしれないですね。
いちばんうるさそうなNHKなのに、そこでは
鶴瓶さんがいう「もともとのところ」で
番組をやることができたんじゃないかな。
鈴木 「家族に乾杯」
デカかったのかもしれないですね。
糸井 そう。もともとあのやり方は、
ラジオの「鶴瓶・新野のぬかるみの世界」で
やってたことですから、
何にも不思議はありません。

鶴瓶さんは、メディアそのものに
疑いを持つことをやっていく。
それをやってる人だけが
いま、活きてますよね。

‥‥鈴木さんとずーっと話してて
ああそうかと思ったことがあります。
鈴木さんとオレが同じなのは、
結局「ファン」なんですよね。
鈴木 はい、そうですね。
糸井 テレビと、あの人や、あの人や、あの人の、
「ファンであり続ける」ということは、
まじめにやると仕事になるんだね。
鈴木 そこに向きあっていくと‥‥
たしかにそうですね(笑)。

木村くんもそうですけど、みんな
テレビに巻き込まれずに、
テレビとつきあう人たちです。
ぼくはそういう人たちを
ほんとうに尊敬しています。
 
糸井 うん。
鈴木 ぼく自身も、気づいたら、
テレビ以外にも
映画やったり、舞台やったり、
本出したりしていました。

テレビの仕事をはじめてちょうど10年たった
30歳のとき、
月9の『人にやさしく』という
ドラマをやらせてもらいました。
そして、『SMAPxSMAP』もやってました。

ぼくの夢というのは、それまで
「月9のドラマとスマスマで
 あわせて視聴率40%を取る」
ということでした。
たまたま30歳でそういう機会があって、
結果もよかった。
だけど、そのときふと
「だから何なんだろう」
と思ったんです。
糸井 うん、うん。
鈴木 視聴率がよかったりすると、
みんなが電話で「よかったね」と
褒めてくれます。
でも、視聴率なんて、一瞬で更新されます。
こんなことは、たぶん
誰の記憶にも残んねぇな、と思いました。

ちょうど10年ということもあって、
「テレビの作家をやる」
ということはいったい何なんだろう、と
考え直す時期にさしかかっていました。
そのときに、たまたま結婚したり、
舞台をやったりしました。

舞台って、すごくしんどいんですよ。
だけどなんでやってるのかというと、
さっき糸井さんがおっしゃったように、
テレビにのみ込まれないことが大事だと
無意識に思っていたからだと思います。
自分がテレビをすごく好きだから、
テレビを客観的に
見ていたいのかもしれません。
糸井 そうですね。
‥‥でもね、巻き込まれるんですよ。
鈴木 はい。
糸井 ぼくにとってそれは
広告です。
それはもうしょうがないんだけど‥‥
若いときって、
男の子はまぁ、みんなそうなんだけど、
無闇にモテることが憧れなんですよね。
鈴木 はい。
糸井 何千万人の人が、
「待って!」「キャー」と
向こうから走ってくる、
自分は悠然と歩いていく。
でもそれって、自分のしあわせとは
何の関係もないんですよ。
鈴木 わかります。
糸井 ところが、得られないときには
それはとっても欲しいものです。
ま、何千万人とは言わないから、
6人ぐらいでいい、
キャーキャー言ってください、
みたいに生きちゃうわけですよね。
鈴木 はい、はい。
糸井 だけど、さて、
キャーと言われて
それが耳に心地いいというのは、おそらく
3日間ぐらいだとぼくは思います。
鈴木 うーん。そうかな(笑)。
  (続きます)
2010-08-05-THU