テレビファン ぼくら、テレビが大好きだから。   鈴木おさむ─────糸井重里
第6回 無限の広がりを表現する人。
糸井 木村くんて、意外と
本を読まないらしいんですよ。
きっと、本じゃなくて、
一度映像にしたライブラリーを
頭の中に持ってるんです。
それをアイドルにやられちゃったら、
鬼に金棒ですよ。
鈴木 糸井さん、アンヴィルというバンドの映画が
DVDになったのって、ご存知ですか?
糸井 はい、映画のほうを観ました。
鈴木 ぼくは、たまたまコメントを頼まれて、その
「アンヴィル! 夢を諦めきれない男たち」の
映画の公開前に観ました。
すっげーおもしろくて、
これはもしかしたら
木村くんが気に入るかも、と思って
「ちょっと観てみて、たぶん好きだと思う」
と、渡したんです。
そしたら、すごくテンション高いメールが
返ってきました。
糸井 うん、うん。
鈴木 そのとき木村くんが
釜山映画祭に参加することになったらしくて、
ある日いきなり電話かかってきました。
「どうした?」って言ったら
「アンヴィルのTシャツ、手に入らないかなぁ」
て言うんですよ。
「釜山映画祭に着て行こうかな」
って。
 
糸井 すごいねぇ。
鈴木 はい。その感覚、すごいです。
それは、結局、間に合わなくて
実現しなかったんですけど。
糸井 公開前の「アンヴィル」のTシャツを
映画祭でね。それは、ピターッとくるね。
鈴木 そうなんですよ。
アンヴィルのTシャツを、なんて、
ぼくらはそんなこと
ぜんぜん思いつかないですよ。
糸井 うまいよなぁ。
 
鈴木 ひとつのものから感じるものの量が
ハンパないです。
糸井 木村くんが考えることって、
たとえつまんないことだとしても
広がるんですよ。

タレントが自分で企画しちゃダメだ、って
よく言われるし、
それは真実だと思うんですが、
彼は自分でメディアを
持ってるようなものですから。
鈴木 勝負強さもあります。
彼がずーっとがんばってるから、
ぼくも、がんばんなきゃいけねぇな、
って思います。
とんでもない星の下に
生まれたんだなぁと思います。
ぼくだったら毎日吐いてるなと
いうぐらいです。
糸井 ほんとはさぁ、
もっと低いところから
ぴょんぴょん飛びたいよね。
鈴木 そうなんです。
彼はいつも高いところで
勝負しなきゃいけない。
なのに彼は、そんなことは
いっさい語らないです。
そこがまた、かっこよくて。
 
糸井 アスリート感覚なんでしょうね。
きっと、そうやってったら、
飛べちゃうんだろうなぁ。
鈴木 木村くんって、
運がそうとう強いな、と
思うときがあるんですよ。
糸井 ぼくは、あれは運に見えないです。
「運がいい」という答えが出るように
その前のところを整えてるんじゃないかな。
鈴木 あの‥‥仕事で、ラスベガスに一緒に
行ったことがあるんです。
彼、ギャンブル好きじゃないんですけど、
待ち時間があったので、
スロットに小銭入れて
1回だけやったんですよ。
そしたら「ガンガンガンガンガン」
って音がなりました。
なんと、そのマシンの
「いちばんの出」だったんです。
糸井 へえぇ!
 
鈴木 そしたら木村くんが
「出ちったよ」と言ったんです。
ぼくはそれ見てて、
もうギャンブルはしないことにしました。
やるのバカバカしいです。
糸井 そうかぁ(笑)。
でも、そこでもし出なかったときは、
人はそれを憶えてないと思うんですよ。
鈴木 うーん、なるほど。
糸井 「出ちったよ」という
その台詞のところに彼がいるわけです。
鈴木 ああ、そうか!
糸井 鈴木さんが出ちゃうってことも
ぼくが出ちゃうってことも
あると思うんです。
だけどそこでぼくらが
「こんなうれしいことは
 一生に一度もないだろうな!
 ワハハハハ」
なんて言ったとしたら、
その「薄さ」になります。
鈴木 そうですよね。
それでなおかつ誰も憶えない。
糸井 木村くんがそのときに、
「出ちったよ」
と言うことによって
ああ、この人にはこの奥に
まだ無限大のものがあるんだ、って
こっちが勝手に考えちゃう(笑)。
鈴木 ははははは。そうだ。
糸井 それがきっと、彼の志です。
誰もが神様じゃないんだけど、
神様のように見える瞬間を
次々と見せていくのが
神様のような人なわけでしょう。
鈴木 そうですね。
糸井 そういう闘いを、
ジャニーズのスターの人たちは
特に、やっていると思います。
負けたときに絵になるかどうかも、
できるようになっていきます。
だけど、木村くんは基本的に
「勝つことでクリアしていく」
ということをやっていこうとしています。
あれは運じゃない。
でも、努力とも言えないんだよね。
鈴木 そうなんですよ。
本人に、努力してるという意識は
ないでしょうからね。
糸井 ねぇ?
二十歳そこそこのときの
木村くんをいっぱい見てたけど‥‥
鈴木 あの頃から、ずっと変わらないです。
糸井 きっと「いちばん」になったつもりが
いまでもないでしょうね。
鈴木 ないと思います。
糸井 しかも、まだ上がいることについて、
「ちっきしょー」とも
思ってるんじゃないでしょうか。
鈴木 はい、そう思います。
糸井 「それを見ている鈴木おさむ」
というところで考えていくと、
鈴木さんのやってることが
すごくよくわかるんです。
だって、もう鈴木さんも
「いい気になってもいい時期」
というのは、過ぎましたよね。
鈴木 いやぁ、そうですよ。
だって、木村くんが
「カメラ目線できねぇならテレビ出るな」
って、本気で怒ってくれたりしますからね。
厳しい人たちが周りにいてくれるのは、
ほんとにありがたいです。
糸井 そういう人たちがいて何でも聞ける状況は、
最高ですよね。
そういうほうが
「運がいい」と言うんじゃないでしょうか。
鈴木 ああ、そうですね(笑)。
糸井 そういうもんじゃないのかな。
「オレは運がいいから」なんて言う人がいたら、
それはだいたいが、終わってるときなんです。
逆に、「運が強い」ってことを
ひたすらに言う人って
ものすごい不安を抱えてる気がする。
鈴木 うん。きっとそうですね。
糸井 木村くんは「あれは運だよ」とか、
軽く言うかもしれないけど、
「オレはほんとに運がいいんだよ」
とは、本気では言わないと思う。
だからこそ「何をすればどうなるか」について、
怖い目して、いつも考えてますよね。
 
  (続きます)
2010-08-03-TUE