翻訳前のアメリカ。
そのあたりのこと、現地ではどんな感じ?

第六十五回配信 もしものコーナー
ゴア編Part7


前回までのあらすじ:
2000年の大統領選挙で、
総得票数では勝っていたのに
フロリダ州の開票集計の杜撰さの前に、
納得いかない形で大統領になり損ねた男、
アル・ゴア。
不可解なことに2004年の選挙には出馬すらせず、
彼は忘れ去られようとしていました。
ところが最近、
自身のライフワークである地球温暖化問題で
アメリカ人に最後の警鐘を鳴らすべく、
映画と本“An Inconvenient Truth”
(邦題『不都合な真実』)が発表され、
彼は再び注目を浴びはじめました。

今のアメリカを観察するのに、
彼の目線を借りてみると、
日本のみなさんにとっても、
分かりやすい補助線になるような気がします。

‥‥というわけで、お付き合いください。
アル・ゴアがもしも日記をつけていたら‥‥

■6月12日(月)
映画『不都合な真実』先週は
全米の興行収入ランキング
9位だったのに、今週は11位に落ちてしまった。
ピクサーのCGアニメーション
『カーズ』が公開になって、
圧倒的な一人勝ちの1位になっちゃったから
仕方ないんだけどね。

私は2003年から
アップル・コンピュータの取締役もやっている。
アップルのCEOスティーブ・ジョブスが
ピクサーCEOでもあるんで
薦められて『カーズ』もみたけど、
いろんな意味でまさにアメリカ映画!って感じだ。

アメリカ人全員を
クルマのキャラクターに置き換えたアメリカが舞台。
その世界のヒーローは当然NASCARのレースカー、
ライトニング・マックィーンなんだけど、
脇役キャラもアメリカ人のいろんなキャラと
それぞれのクルマがもつキャラとを重ね合わせている。
退役軍人はいかついジープ、
騒がしいイタリア人はフィアット・チンクチェントで
その助手のイタリア人は超小型車イセッタ。
ヒッピーは花柄フォルクスワーゲンのバンで
オーガニック・バイオ燃料がお好み。
セクシーで知的なヒロインは、ポルシェ911。

アメリカの地方都市では
その人の人となりを見るのに
どんなクルマを運転してるかで
判断することが多いけど、
車種=キャラクターっていうのは、
その発想の延長だね。

キャラクター設定だけじゃなくて、
ストーリーもアメリカ映画の王道をいってるとおもう。
NASCARのシーズン優勝に王手をかけた
生意気なルーキーのライトニングが主人公。
彼は大事な優勝決定レースへの移動中に、
ひょんなことから田舎町ラジェーター・スプリングスで
裁判にかけられて囚われの身になってしまう。
そこで、今は隠遁生活を送っているかつての
レースカーチャンピオンの老人と出会い、
そして田舎町の普通の人々と出会い、
さらに自然をもとめて
田舎町へ越してきたヒロインと出会い
成長してゆく‥‥って話。

つまりは、
・80年代のトム・クルーズの映画みたいに
 才能のある若造が色々あって成長する話であり、
・スティーブン・キングものみたいに、
 主人公がいきなり
 孤立無援の田舎町で虜になる話であり、
・アメリカの大自然のなかでこそ 
 本当の自分に帰ることが出来るという
 ブロークバック・マウンテン的(笑)な話ですらある

こういう、
丁寧に作りこんだ完成度の高いストーリーを
マックG4を3000台つないだ高速処理で
美しく、楽しく、スピード感満載で、
ときになまめかしいほどの
CG映像にしたのがこの映画だ。

とにかく面白いんだけど私は、
こういう “アメリカ” が
ファンタジーとして成立してしまう
という現実に恐ろしさを感じもする。

クルマにはそれぞれ設計図があって、
それ以上、大きくも小さくもならない。
一方、現実世界で
クルマの中身であるアメリカ人は、
“楽をするためならどんな苦労も厭わない” 文化の
おかげで肥大化する一方だ。

1960年と2002年を比べると、
アメリカ人成人の平均身長の伸びは1インチ(2.54cm)
でしかないのに平均体重の増加は24ポンド(10.8kg)。
去年ラスベガスに
日本のスモウ・レスラーがやってきたけど
彼らの平均体重は330ポンド(150Kg)くらいらしい。
ところが
体重300ポンド(135Kg)以上のアメリカ人の人口は
約400万人、
シンガポールの人口より少し少ないくらい。
400ポンド(180kg)以上の人口は約40万人。
ピッツバーグ市の人口とおなじくらいだ。

クルマ=個人というファンタジーがなりたつくらいに
化石燃料を大量消費している罪滅ぼしに、
アメリカ人は脂肪の形で
炭素を地上に
とどめているんじゃないのかとすら思うよ。
アメリカ国民一人が年間に排出する炭素の量は
15000ポンド(6780Kg)だから、
いくら体に脂肪を溜め込んでも
全然追いつかないけどね。


■7月13日(木)
昨日、アーカンソー州にある
ウォルマートの本社へ行って、
『不都合な真実』を上映した。
超巨大ディスカウントストア、ウォルマートは
文字通り世界最大の小売業者だ。
従業員数160万人も巨大だけれど、
年商約3150億ドル(36.3兆円)だから、
スイスのGDPよりも少し少ないくらい。

この企業は四半期に一度、
環境対策のために
持続可能性ネットワークミーティング
というのを本社で行っていて、
映画と一緒に私はそれに呼ばれたわけだ。

ウォルマートは既に、
環境対策としていろんな
具体的プランを発表している。
店舗の屋根を全部白く塗って
冷房効率を10%向上させるとか、
運送トラックの燃費を25%向上させるとか、
そんなことだ。
給料が安すぎて、ウォルマートで働いても
生活保護を受けないと
生きていけない従業員がいるとか、
評判の悪い会社ではあるけど、
環境対策は熱心みたいだ。

これ、考えれば当たり前の話で、
従業員を大切にすればするほどコストがかかるけど、
環境対策ってのは基本的に倹約だから
やればやるほど反対にコストが浮く。
ウォルマートみたいにお金儲けを究極までつきつめると、
環境対策に取り組むのは当然なんだよね。

あと白状すると、映画『不都合な真実』にとって
ウォルマートとの協力には大変なメリットがある。
全米の全DVD売上の40%近くを
ウォルマートが占めているわけだから。
実態はハリウッドの
エンタテイメント大作のDVDを中心に
大量に仕入れて安く売るからこそ、
そこまでのシェアになっている。
一方で『不都合な真実』みたいな
地味なドキュメンタリーなんか、
普通なら仕入れすらされない可能性もある。
ウォルマートで
私の映画のDVDをきちんと扱ってもらえるように、
お願いしちゃったよ。

■7月29日(土)
「年間気温が高かった年のトップ10は、
 過去14年間に集中していて
 その中でも、もっとも暑かったのが2005年だった」
っていう事実を映画でも語ったけど、
今年はもっと酷いことになりつつある。

カリフォルニアの一部では
今週華氏115度(摂氏46度)
に達する日が何日か続き、
熱波のせいで115人も死者が出た。
この夏の異常気象はこれだけじゃない。
6月には東海岸が大雨で洪水がおこり、
衛星写真でもはっきりわかるほどの被害が出た。
この6月の暴風雨で、
ホワイトハウスの楡の木も倒壊した。

この木は
セオドア・ルーズベルト大統領が植樹したもので、
20ドル札裏の
ホワイトハウスの絵の向かって右側に描いてある。
セオドア・ルーズベルトは
アメリカ最初の環境保護団体
シエラクラブとも関係が深く、共和党ではあったけど
環境問題に最初に取り組んだ大統領だ。
そのルーズベルトの木が異常気象で倒れたんだから、
自然は明確なメッセージを
ホワイトハウスに送っている。

その辺のことをそろそろみんな気づいて欲しいよ。

鈴木すずきちさんへ激励や感想などは、
メールの表題に「鈴木すずきちさんへ」と書いて、
postman@1101.comに送ってください。

2006-08-07-MON

BACK
戻る