翻訳前のアメリカ。
そのあたりのこと、現地ではどんな感じ?

第五十九回 『ホテル・ルワンダ』


2004年のアカデミー賞にもいくつかノミネートされて
話題になった映画『ホテル・ルワンダ』は
お仕事って何だろう?と考えさせる作品です。
舞台は民族対立によって
1994年におこったルワンダの大虐殺。
80万人が殺害されたといわれる狂気のさなかで
1200人もの人たちを自分が勤務するホテルに匿い、
命を救ったホテルの副支配人がいました。
映画はこのポール・ルセサバギナさんの
実話にもとづいています。 

お仕事って何だろう? という問いは
早くも映画の企画段階で、
監督のテリー・ジョージにつきつけられました。
この企画に興味をもったメジャースタジオや
投資することに興味をもった人たちが、 
デンゼル・ワシントンや、挙句の果てにウィル・スミスを
主演にしないかともちかけてきました。
大スター出演の大作にしたかったわけですね。
より大きな配給体制がとれるメジャースタジオで
スターを主演にした宣伝しやすい映画を公開して
より多くの観客を獲得しようとすることは
製作者・出資者としての立派なお仕事です。
一方監督は主演のポール役にはドン・チードルしかない、
と考えて企画をすすめていました。
キャラクターにとって最適の俳優を起用して
映画のメッセージをより正確に表現し、
作品の完成度を高めようとするのは
監督として当然のお仕事です。
結局、お金を持った人たちの圧力をふりのけるために
監督は自分自身で製作資金を負担し、
思い通りのキャスティングで映画を完成させています。

監督はなぜそこまでして
ドン・チードルのポール役にこだわったのでしょう?
それにはまずポール・ルセサバギナが
どんな人物だったのかを理解する必要があります。
ルワンダの首都キガリにある、
ベルギー資本の最高級ホテル、 オテル・デ・ミル・コリンの
副支配人ポールは非常に優秀なホテルマンでした。
辻々の検問で支払う賄賂や
なにやら怪しいルートからの各種高級嗜好品の仕入れ、
高級酒・高級食材を駆使した実力者への取り入り‥‥
さまざまな手練手管を駆使して 彼は自分のホテルで
最高級のサービスと快適さを実現してきました。
ところがある日、大統領の暗殺をきっかけに
状況は一変します。
ベルギーによる植民地政策の一環として
長年虐げられてきた多数派のフツ族が
少数派のツチ族の大虐殺をはじめたのです。
ポール自身はフツでしたが彼の奥さんはツチ。
隣人が隣人を殺害する狂気のなか、
その場の機転と賄賂による必死の懐柔でかろうじて
家族と近所の人たちを自分のホテルに匿います。
その後もなんとか虐殺を逃れてこのホテルにたどり着いた
ツチ族の市民や子供たちをポールは断ることも出来ずに
どんどん受け入れてしまいます。

国連平和維持軍すら頼りにならない中で
ベルギーの所有物である一流ホテルだという事実のみが
軍隊や民兵にとって
このホテルを蹂躙することを思いとどまらせる理由です。
そんな状況で、逃げてきた人たちを守るために
ポールに残された道はただひとつ、
プロフェッショナルに徹することでした。
紛争の勃発を理由にホテルの閉鎖を考えていた
ベルギーのサビナグループ本部を
「ホテルを見捨てたらサビナの看板に傷がつきますよ」
と説得し、
一方で「働く気のないものは、ホテルから出て行け!」
と一括して、紛争に動揺する従業員たちをまとめあげます。
その上で、逃れてきた人たちをホテルの客として扱い
ホテルをホテルとして機能させ続け、
ホテルの威厳を保とうとします。
さらにはホテルの高級品在庫を利用して
虐殺派の将軍の懐柔に命がけで取り組みます。
自分の家族、そして1200人の命を守るために
ポールは必死でホテルマンとしてのお仕事を続けました。

ポール役の俳優ドン・チードルは
あるときこう語っています。
「目立とうと思って映画にでたことはないんだ。
 まったく正反対で、そういうのは関係ない。
 作品総体としてベストなものにしたいんだ。
 あとで自分の出演歴を振り返ったときに、
 “これはいい映画だったな”って思いたいんだ。
 “あ〜、このあたりの4作品は最低だったけど、
 俺様はうまかったよな”じゃなくてね。
 素晴らしい作品の一部でいたいんだよ」

自分の演技力をひたすら映画自体を生かす方向に
発揮しようとするドン・チードルのお仕事に対する姿勢は、
プロフェッショナルに徹することで
多くの人たちを生かし救うことになったポールの姿に
そのまま重なります。
そして実際にチードルは、
監督の期待に利息をつけて返すような
素晴らしい演技をみせています。

ちなみにドン・チードルは
この夏アメリカで予想外の大ヒットとなった話題作、
ロサンゼルスの人種間の軋轢を描いた
“Crash”にも主演しています。
凝ったドミノ倒しのように沢山の登場人物が
縦横に作用しあうさまを描くお話ですが、
またもや彼は、緻密な脚本を活かしきる
彼らしい演技を見せていました。
今、もっとも注目すべき俳優の一人です。

俳優としてのプロフェッショナリズムといえば、
国連平和維持軍の大佐役のニック・ノルティも
まったく別の意味でプロ根性をみせています。
ニック・ノルティといえば鈍重なタフガイがはまり役。
ひとりで、頼りになる国連様を体現している感じです。
ところが2002年に彼は酔っ払い運転で逮捕されていて、
そのときに、えもいわれない情けなさの逮捕写真が
全米で繰り返し報道されてしまいました。
落ち武者のメークのようなざんばらぼさぼさ髪はまだしも
可愛いらしい水色地に華麗な花柄のアロハ風シャツが
絶望的に似合っていないという写真です。
ニック・ノルティといえば、
いまだにその逮捕写真のイメージが強いのですが、
彼の役回りは大虐殺の勃発になすすべもなく
ほとんど何の役にも立たずおろおろしたり
しまいに逆ギレしたりする国連平和維持軍の指揮官。
頼りになりそうだけど本当は見かけ倒しの国連を
彼は全米の笑いものになった実生活まで下敷きにして
ひとりで表現しています。
これはこれでプロ根性といえるのではないでしょうか。
そういえば、国連軍の水色のベレー帽もジャケットも
やっぱり彼には似合ってません。

お仕事ということでいえば、
なんのために?という質問がおきざりになったまま
国連安保理の常任理事国入りの話がすすんでいる
日本のひとにはいっそう身につまされる映画です。
この映画をみると94年当時、
自分がこんな大事件に関心すらもたなかったことを
まず反省させられました。
次に、10年以上前のアフリカの国に対する無関心どころか
常任理事国になった後の日本のことを
自分たちはまったく考えてもいないし
ちゃんと議論もしていないということに気づかされます。
ニック・ノルティの右往左往とでくのぼうぶりは
将来の日本の姿かもしれないのです。
日本が常任理事国入りした後に
何が出来るのか?どんなお仕事が待っているのか?
という具体的なイメージを描かないといけないのに
それについて政治家のお仕事、外務省のお仕事、
ジャーナリズムのお仕事が
どこかへいってしまっているんじゃないでしょうか。
日本人にとってこの映画は、過去だけでなく
未来までふくめた二重の無関心をあぶりだします。
ここで語られているストーリーは
今日現在の日本人にとってこそ特別に重要なものです。

映画『ホテルルワンダ』は、
監督と俳優たちのクリエイティブ面の
プロフェッショナリズムが束になって
ハリウッド的な興行プロフェッショナリズムを押さこみ、
優秀なホテルマンに徹することで多くの命を救った男の
等身大の偉業を語ることに成功しています。
新しく公開される映画の大半が
リメイク、続編/続々編、
そして海外作品のリメイクばっかりで
ネタギレが明らかなハリウッドですが
それでもこんな作品がつくられて公開されるところには
やはりアメリカの映画市場の底力をみる思いがします。

というわけで一人でも多くの
日本のひとにみていただきたいのですが、
実は配給が決まっていません。
“ビジネスにならない”と日本の配給会社は
どこも尻込みしているといわれます。
映画のあたる/あたらないを見分けるのは
配給会社のお仕事ですからいたしかたないことですが、
等身大の偉業を語るためのプロフェッショナリズムが
この期に及んで裏目に出て、
“宣伝が難しい地味なキャスティングの映画”という
日本の配給会社のプロフェッショナルな判断の壁を
超えられないというのはいかにも残念です。

なんとかして日本の映画市場の底力も
発揮できないものかと思いますけれども。


『ホテル・ルワンダ』日本上映を求める会

上記のような配給についての状況が
いろいろなところで取り上げられたところ、
この映画を日本の劇場で見たい!
と感じた沢山のファンの方が
[『ホテル・ルワンダ』日本上映を求める会]という
ボランティア団体を結成して
上映を求める署名をはじめました。

実はすずきちも
少しだけ手伝わさせていただいていますので
恐縮しつつもこの場をお借りして
この署名運動を紹介させていただきます。

詳しくはこのホームページをご覧ください。

http://rwanda.hp.infoseek.co.jp/

署名へのご協力 よろしく御願いします。

鈴木すずきちさんへ激励や感想などは、
メールの表題に「鈴木すずきちさんへ」と書いて、
postman@1101.comに送ってください。

2005-07-25-MON

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