翻訳前のアメリカ。
そのあたりのこと、現地ではどんな感じ?

第五十八回 リメイクいろいろ


日本映画のハリウッドでのリメイクとして話題になった
映画が続々と公開になっています。
"Shall We Dance?" "The Juon/呪怨" "ザ・リング2"が
全米公開済みでそれぞれ健闘しています。
今回は日本で相次いで公開されている
日本映画原作のハリウッド・リメイクについて。

"Shall We Dance?"のミラマックス版は、
原作の役所公司役にリチャード・ギア
ダンスの先生草刈民代役にジェニファー・ロペス、
役所の奥さん役にスーザン・サランドンという
豪華キャストでオリジナルをかなり忠実に
リメイクしました。
竹中直人役のアンディ・トゥッチと
渡辺えり子役のリサ・アン・ウォルターなんかは
日本版の演技をそっくりそのまま再現してるだけです。
俳優としてはかなり楽をしたんじゃないでしょうか。
舞台はシカゴ。これは単に地上を走る電車での通勤が
一般的な大都市ということで選ばれたのでしょう。

オリジナルとの大きな違いは
主人公の立場と奥さんのキャラクターです。
役所公司は、郊外の、駅からかなり遠そうなマイホームを
やっと購入したサラリーマンだったのですが、
リチャード・ギアは郊外に大きな家を構える弁護士さん。
自家用車も軽自動車だったのが
ボルボの高そうなSUVです。
オリジナルでは、まっとうなサラリーマンが
40代半ばになって社交ダンスを習いはじめることが、
なんとなく気恥ずかしい、
隠しておきたいこととして描かれましたが、
結婚式で新郎新婦のファーストダンスが
式次第の一部に必ずはいるくらい社交ダンスが一般的な
アメリカではそういうわけにもいきません。
そこで、ミラマックス版では
弁護士として成功して幸せな家庭も築いているのに
なにか生活が物足りない、
そこでダンスに夢中になるという設定になっています。
監督のピーター・チェルソム自身がなにかの
インタビューで語っていたことですが
自分の成功に疑問を持つということが、
アメリカではある種ありえない、
隠しておきたいことなわけです。
あとは専業主婦だったはずの奥さんなのに、
スーザン・サランドンは大きなデパートの管理職。
これも奥さんが人生の対等なパートナーであるという
立場を強調しています。

社交ダンスという、
パートナーシップが全てであるようなスポーツをテーマに
ダンス・パートナー同士の関係の揺れをモノサシにして、
それぞれのキャラクターが
自分自身の人生のパートナーシップの大切さを確認し、
あるいはそれを勝ちとってゆく姿を描く...
というオリジナル版の味わいを
よりわかりやすくするキャラクターの変更です。

あとは草刈民代がジェニファー・ロペスにかわったことで
はかなく可憐でクラッシックだったキャラクターが
ワイルドでセクシーでラテン系になっちゃってます。
さらにはオリジナルにはいなかった息子が湧いて出てます。
でも、これはプロットの都合で付け足した感じ。

このように若干の変更は加えられているものの、
オリジナルに対する愛情と尊敬が感じられるリメイクです。

すずきちは全米公開の3週間前に行われた
スニークプリビュー=特別先行上映でみましたが、
劇場は40代、50代、60代以上と思われる層で満席。
アメリカの劇場でみかけるロマンティックコメディの観客は
45歳以上の層がこの映画に限らず非常に多いのです。
そんな、銃撃・爆発・CGなんかは苦手という感じの観客が
気楽に楽しんで帰ってゆきました。
ただ、アメリカの評論家の間ではなぜか
オリジナルのほうが面白かったという意見が多く、
そんなこんなで全米興行成績はまあまあのレベルでした。

オリジナルは日本で広い客層にアピールして
大ヒットになりましたが、ミラマックス版はアメリカの
ロマンティック・コメディ映画の客層の特性にひっぱられて
落ち着いた観客向けコメディの一作品という殻を
破ることができなかったのです。
約42億円とされる製作費に対し、
アメリカ国内での興行収入が60億円くらい。
興行収入の約半分は劇場の取り分なので、
配給会社はまだ製作費の回収が出来ていません。

ただ、文化の違いゆえの翻訳の苦労がありありとわかる
直球勝負のリメイク版ですから、
日本の人が観る分にはその辺の苦労の跡も
コミコミですごく楽しめると思います。

一方、日本公開タイトルが"The Juon/呪怨"という
影の薄い女性芸能誌のようなタイトルになってしまった
"呪怨"のコロンビア・ピクチャーズ版ですが
こちらは監督もそのまま清水崇。
オリジナルに対する愛情どころか、
主人公そして呪われた家に住むことになる一家が
アメリカ人である以外は、舞台も東京そのままです。

ちょっと考えると辻褄があわないことだらけの脚本ですが、
不意にわっ!と脅かしたり、
ケカカカ…という不気味な音で盛り上げたり、
くるぞくるぞくるぞと思わせておいてやっぱりきたー(泣)
と止めを刺したり、怖さたっぷり。
アメリカでの公開は昨年のハロウィーン時期で、
細かいこと抜きで興行成績一位になっちゃいました。
この時期恒例の正統派ホラー映画の新作が、
これだけだったというタイミングのよさもあったでしょう。

みんなで一緒に劇場で怖がって盛り上がるような
ホラー映画は中高校生に人気があり、
すずきちが観た劇場にも中学生くらいの女の子の一団がいて、
散々きゃあきゃあ怖がった後、
「すごい面白かったー」と満足して帰っていきました。
キャスティングもTVシリーズ『吸血キラー・聖少女バフィ』で
ティーンに人気だったサラ・ミシェル・ゲラーが主人公で、
ターゲットにぴったり。
公開前に衝撃映像手加減無しのR指定版と、
若干トーンダウンしたPG13版
(13才以上向。13歳未満は保護者監察要)
を用意し市場調査して、
結局PG13版での公開になったらしいのですが、
これもティーン市場を考えたら当然でしょう。

タイミング・キャスティング・マーケティング
すべてがうまく噛み合って
約11億円というメジャー作品としてはかなりの低製作費で
なんと全米興行収入115億円の大ヒットとなりました。
清水崇監督はVシネマ出身。
Vシネマといえば、
大物J-POPアーチストのビデオクリップ1曲分、
あるいは大企業のTVCM60秒1本分の予算以下で
長編映画を一本とって、おまけにエンタテイメント作品として
黒字になるだけのビデオ売上を稼がなければいけない、
という厳しい世界です。

清水監督は、自分の作品をそのままリメイクしただけでなく、
確実なマーケットがあるジャンルで
ターゲットの観客にうけるキャスティングなら、
脚本が適当でも低予算でもビジネスとして成功するという
Vシネマのビジネスモデルまでも
20倍増しくらいのスケールでリメイクしてしまったのです。

そして最後に紹介するのは、
なんともへんなところばかりを"リメイク"してしまった
ドリームワークス版"ザ・リング2"です。
この映画はドリームワークス版の"ザ・リング"の続編。
ゴア・ヴァービンスキー監督の前作は
原作の緊張感と怖さを全く損なわず、
かつスタイリッシュなリメイクになっていましたから
すずきちは"2"もかなり期待していました。
とくに、原作小説の続編「らせん」は怖いけど考えすぎ、
日本版「リング2」は中谷美紀の似合わないショートヘアが
気になってあんまり怖くなかったということもあり、
ハリウッドならではの緻密なストーリー展開と
前作同様の完成度の高いビジュアルを期待していたのです。

ビジュアルのほうは中田秀夫監督が頑張って、
前作同様、水を恐怖ネタにした映像に冴えをみせています。
ただストーリーは、
DVDとHDDレコーダーの世の中になって、
VHSテープが筆舌に尽くしがたい恐怖をもたらす!
というシチュエーション自体がかなり間抜けにみえます。
そして「ビデオを見たら7日後に…」という緊張感が
やっぱりどこかにいってしまい、
挙句意味もなく鹿が攻めて来たり、なんだかなーという話。
おまけに前作の内容について全く説明を入れてないので、
前作をみていない人は戸惑うばかりでしょう。
続編を作るのが難しい作品は、
日本でつくってもハリウッドでつくっても一緒である 
という事実がよくわかるリメイクでした。

それでもなんでも全米興行成績は1位。
これも、一作目が興行的にも内容的にも
成功した作品の続編はとりあえずあたる。
という退屈な法則の"リメイク"です。

そういえばこの作品には、
もうひとつあてはまる法則がありました。
インターネットムービーデータベースによると、
撮影開始後まさに7日目(!)に制作会社の事務所が
水浸しになったそうです。水道管の破裂だそうです。
その後ちゃんと神道式のお払いをしたらしいのですが、
さらに翌週、同じ事務所のキッチンの飲料水タンクが
原因不明の破裂。またもや同じ部屋が水浸しに。
さらに、スタジオからでてきたスタッフに
野生の鹿が突進してきたりと、
映画の内容そのままに水と鹿にまつわる
アクシデントが連続しました。
日本では四谷怪談もののお芝居や映画を扱うときに
関係者が必ずお払いに行くという有名な話がありますが、
ホラー映画の撮影中には不思議なことが起きる、
という法則をしっかり"リメイク"したのです。
これで映画が怖ければいうことなかったんですけどね…。

まあ、中田秀夫監督はタイ映画「アイ」のリメイクや
桐野夏生の小説「OUT」の映画化など
ハリウッドでのプロジェクトが続きますから
次作以降に期待したいと思います。

今年はこれから、「仄暗い水の底から」を
「モーターサイクル・ダイアリーズ」の
ウォルター・サラス監督でリメイクした期待作
"ダーク・ウォーター(原題)"が夏公開になります。
さらに黒澤明の「生きる」のリメイクもジム・シェリダン監督
(「イン・アメリカ/三つの小さな願いごと」
  「父の祈りを」)
が決まって製作になるようです。
続々公開される日本映画のハリウッドリメイク版ですが
どんなふうにオリジナルが映画として翻訳されるのかに
興味はとどまりません。
ビジネスモデルやジンクスまでが海を渡ってしまうようで、
詳しくみていくとなかなか感慨深いものがありますね。

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2005-05-09-MON

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