翻訳前のアメリカ。
そのあたりのこと、現地ではどんな感じ?

第五十五回配信  キリスト教ご都合主義 その1


まさにアメリカを二分した大統領選挙の結果がでて、
二週間以上たちましたが、
アメリカ中の反ブッシュの人たちは
見る影もなくがっかりしています。
どれくらいがっかりしているかというと、
ドーハの悲劇の直後の日本人くらい。
本当にあと少しのところで、
目標が4年も先へ飛んでしまったのですからたまりません。

すずきちの住んでいるカリフォルニアでは
もともとリベラルな感じの人が多いので
ブッシュ大統領の二期目に関しても
慰めあう相手が多かったりして日常は淡々としていますが、
都会の若い世代には、
中西部の田舎モンがなんで自分達の大統領を決めるんだ?
というやりきれない気持ちも高まっているようです。
もうご覧になった方も多いかもしれませんが
「みなさん、ごめんなさい(Sorry Everybody)」
というサイトを立ち上げた人も現れ、
たちまち人気サイトになってCNNでも紹介されました。
“ブッシュ再選を許してしまって、世界の皆さんごめんなさい”
という反省メッセージつきの写真をアメリカ中から
集めて延々と掲載しているだけのサイトなのですが、
日常のお仕事関係では明らかに自分に非があっても
反省したり謝罪したりしない輩が多いアメリカ人が
こんなことまでするくらいですから、
意気消沈の深さも相当なものです。
選挙の結果がでて二週間たって、
何が起こったのかだいたいわかってきたので、
今回は何が2004年の大統領選挙を左右したのか、
すずきちなりの説をご紹介しまししょう。

ドーハの悲劇とはいいましたが、
ケリーにとどめをさしたのは
イラクではありませんでした。

話は2003年11月までさかのぼります。
マサチューセッツ州の最高裁が個人の平等をうたった
州の憲法をもとにして
同性結婚を合法にするように判決をだしました。
そのあと州議会は同性結婚の法制化の作業に入っています。
それから少しして2004年2月のバレンタインデー直前には、
サンフサンシスコ市がゲイカップルに
結婚許可証の発行をはじめました。
カリフォルニア州では結婚を異性間だけに限るという
住民投票が過去に通っているのですが、
こちらも個人の平等という原則に反するという
サンフランシスコ市長自身の主張によって
押しきられた形です。
この騒ぎのときに最初に結婚許可証をもらって
結婚式をあげたのは
デル・マーティンとフィリス・リオンという、
1955年にアメリカではじめて
レズビアンのために運動をはじめた
同性愛者の活動家カップルです。
お二人の年齢はこのときそれぞれ82歳と79歳。
実に50年以上も愛し合い連れ添ったすえに
とうとう結婚できた後の
彼女らの様子が報道されていましたが
本当に幸せそうな、無邪気な笑顔をみせていました。
デルとフィリスのカップルに限らず、
このときの騒ぎで結婚したゲイのカップル達はみんな、
おもいをとげたような素晴らしい笑顔で笑っていました。
結婚っていうのは愛し合っている二人の個人の
神聖な結びつきでしかないんだなあ、
とおもわせるような説得力のある表情だったとおもいます。

ところがそうはおもわなかった人が
アメリカにはとても多かったのです。
そうはおもわなかった人達の中心は
おおまかにいってキリスト教右派の人達。
マスコミ的には福音派ばかりが注目されていますが、
カソリックにしても、ユタ州に多いモルモンにしても
同性結婚を快くおもわなかった人が多かったのです。

もともとブッシュ大統領は
キリスト教右派を満足させるのだけは得意です。
なにしろ大統領としての初仕事が
キリスト教右派へのご祝儀みたいなものでした。
ブッシュが2001年1月20日に就任式を終えた直後、
さっそく22日にある声明をだしました。
それは人口問題に取り組む国際機関が
アメリカ政府からの資金援助を受ける場合には
いろんな制約を課す、という内容でした。
制約というのはつまり
人工妊娠中絶のためにはお金を使わせない、という意味です。
声明どおりブッシュ政権下では国連人口基金への援助が
どんどん減額されその後結局停止されてしまっています。
国連人口基金(UNFPA)はその名のとおり
人口問題の解決のための国連機関です。
貧困や資源問題の解決のために
人口抑制は人類にとってとても重要な課題ですが、
アメリカ国内のキリスト教右派はUNFPAが
人口抑制のための一手段として人口妊娠中絶を
援助していることを問題視していました。

アメリカでは、両親に経済面とか愛情面で問題があるとき、
社会が子供をひきとって育てるという考え方が
確立しています。
実際、施設もたくさんあるし孤児の養子縁組も盛んです。
社会がとても豊かで、余裕がいろんな所にあるのなら、
それもひとつの考え方だとはいえるでしょう。
でもUNFPAが活動しているようなとても貧しい国々で
女性の立場はとても弱く、先進国の基準でいろんなことを
判断するのはとても傲慢なんじゃないでしょうか。
そんなことはお構いなしの声明でした。
それにしても大統領になった瞬間に初仕事として、
国連軽視・女性の権利軽視・よその国の現実無視の
三点セットがパッケージになっている声明を
しれっとだしたのですから、
民主党だけでなく世界中がブッシュ政権の本質に
もっと早く気づいているべきだったのかもしれません。

キリスト教右派の人たちに
中絶と同じくらい不人気なのが同性結婚でした。
アメリカの田舎には同性の結婚どころか
ゲイセックスやソドミーを禁止する法律のある州が
いまだにあります。
州名を晒しておきましょう。
ソドミーを禁止しているのが
アラバマ、フロリダ、アイダホ、ルイジアナ、ミシシッピ、
ノースカロライナ、サウスカロライナ、ユタ、バージニア。
ゲイカップルのセックスを禁じているのが、
テキサス、カンサス、オクラホマ、ミズーリ。

そんな法律があったとしても
実際問題としてベッドルームに警察が踏み込むのは
難しそうだとおもうでしょうが、そうでもないのです。
テキサス州でブッシュがまだ州知事をしていた1998年に、
自宅アパートでゲイセックスをしたかどで、
男性のカップルが逮捕されています。
このカップルのアパートの隣人が警察へ
「銃を持った男が暴れている」という
ウソの通報をしたのがきっかけでした。
彼らは罰金をそれぞれ200ドルづつとられ、
監獄に一晩留置されました。
この逮捕されたカップルはこの州法が人権を侵していると
最高裁まで争い、つい2003年の6月にやっと勝訴しています。

このように、
極端な法律がたくさんの州でまかり通って
実際に逮捕者まででている
めちゃめちゃな現実がある背景には、
同性愛の人の権利を尊重するよりも
キリスト教が教えるモラルを重視するアメリカ人が
田舎に限らずとても多いという現実があります。
そんなアメリカ人一般の感覚に上手くつけこんだのが
2004年のブッシュの選挙戦略でした。
(次回へつづきます)

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2004-11-21-SUN

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