翻訳前のアメリカ。
そのあたりのこと、現地ではどんな感じ?

第五十一回配信 開き直り合戦


アメリカの大統領選挙では
9月を通じてブッシュの人気が上がり続け、
ケリーの一人ゴケが続いています。
民主党大会直後から支持率を落としはじめたケリーですが、
8月終わりの共和党大会直後からブッシュに
水をあけられはじめ、差が開き続けたのです。
大統領選挙になにがおきたのでしょうか?

ひとつには、ケリー自身の問題があります。
共和党大会直後から発言の内容が攻撃的になっていて、
ことあるごとに必死でブッシュ攻撃をするのですが、
ことごとく的外れなのです。

8月末、ブッシュ大統領がTVのインタビューに答えて
「(テロとの戦いに)勝てるとは思わない。
 ただし、テロを手段としている者たちが、
 その地域で一層受け入れがたい立場になるという
 状況をつくることはできる」
と話しました。
するとケリーは
「勝てないとは何事か?私なら勝ってみせる」と批判。
批判を受けてブッシュ陣営は
「(テロとの戦争は)違う種類の戦争であって、
 和平交渉のテーブルにつくようなものではない」
という意味だと補足しています。
ただ、冷静に考えればブッシュの方が正論です。
テロ行為というのは組織的な行動である必要すらなく、
極端な考えを持った人が無差別な暴力を行使しさえすれば
成り立ってしまうものですから、
明確な勝利などやってくるはずもありません。
それを「勝ってみせる」と単純に揚げ足をとったことで
ケリー自身がテロの本質を理解していないことを
露呈してしまいました。

また北朝鮮のきのこ雲の事件がありました。
北朝鮮としては
ダムの発破と発表しながらも大変な爆発を起こすことで
“核開発に成功したのでは?”と国際社会を
疑心暗鬼に引き込む作戦だったのかもしれませんが、
アメリカ側はそれを軽く見抜いています。
“ なるほど、ダム用の発破のようですね。”
“きのこ雲は普通の雲との勘違いかも”と
パウエル国務長官が発言し事態を収束させてしまいました。
ところがケリーさん、
「核実験の可能性を心配すること自体が問題だ。
 ブッシュ大統領の取り組みが甘い」と発言。
北朝鮮ごときの謀略にまんまとひっかかって
心配する大馬鹿は
ケリーだけであることをさらしてしまいました。

1992年の選挙でクリントン/ゴア組が
ひとこと『変革』を合言葉にして中間層の想像力を刺激し、
現職だったブッシュ/クエール組を破ったときのような
分かりやすいスローガンもなく、
中間層を取り込む必要があるのに、
反ブッシュ気運という消去法だけを頼りにした選挙戦が
裏目にでたのです。支持率が落ちるのは当たり前です。

もうひとつの理由は共和党側の開き直り戦略の成功です。
8月末の共和党大会で、
ジョン・マケイン上院議員
ルディ・ジュリアーニ元ニューヨーク市長
アーノルド・シュワルツェネッガーカリフォルニア州知事
などアメリカの人気政治家のドリームチームを取り揃え、
みんながこぞってブッシュ大統領とチェイニー副大統領の
“安定したリーダーシップ”を讃えました。

といってもこれ、
間違った理由でイラク戦争を始めたことを全く反省せず、
その後のイラクの治安維持の完全な失敗に対して
新たな手をなにも打てないという手詰まり状態を、
“なにもしない”=“右往左往しない”=“安定している”
といいくるめただけのひどい開き直りです。
この開き直りでむりやりつくりだした
“安定したリーダーシップ”と、
“言を左右にする男ケリー”の対比を前面にだしたのが
共和党大会でのブッシュ陣営の戦略でした。

良心派マケイン上院議員もこの戦略に巻き込まれ、
アクロバティックな演説をせざるを得ませんでした。
大会の演説で彼はこんなトリックをつかったのです。
演説の前半、
政権のテロとの戦いを讃える話をしていたのですが突然、
「ブッシュ大統領はイラク国民を解放するという
 困難な決断をしたのです」
とむりやりイラクの話がはじまりました。
“あれあれ、9-11テロとサダムフセインが関係ないってのは、
ついこないだ発表された9-11委員会の結論のはずだけど…”
と内心思いながら聞いていると、
「サダムフセインは脅威だったのです。
 外国からの批判や、
 対立候補の批判に甘んじてはなりません」と強調。
“脅威っていうけど大量破壊兵器見つからなかったじゃん”
とまたもや内心突っ込んでいると突然、
「また不誠実な映画作家もまったく同様に・・・
 (残虐なサダムのイラクを平和のオアシスだったと
 私たちにおもいこませようとしているのです)」
と言いかけました。

もちろん厚かましく共和党大会の会場に乗り込んだ
マイケル・ムーアに対する当てこすりですが、
会場は面白いようにこの言葉に反応しました。
マディソン・スクエアガーデンを埋め尽くした
全米から集まった共和党代表者たちは、ムーアに対して、
狂信的にすら感じられる長いブーイングをしたあと、
“あと4年!”のコールで盛りあがったのです。
そのせいで1分間ほど演説が中断しましたが、
中断のあとさらにマケインは言いました。
「ウケたからもう一度言いましょう。
 『不誠実な映画監督もぉ』・・・」
会場は再びすさまじいブーイングで演説中断です。

このマイケル・ムーアを利用した演説のアクロバットで
私自身も思考を寸断され、
“大量破壊兵器はなかった”とか“9-11とサダムの関係”とか
突っ込む意識が吹き飛ばされてしまいました。
すずきちですら騙されかけたのですから、
多かれ少なかれ心にテロボケ要素を抱えている
多くのアメリカ人はてきめんに騙されたことでしょう。
マケインは、マイケル・ムーアをネタに会場を盛り上げる
という力技を使って聴衆の注意をそらしたのです。
彼はこの演説アクロバットによって、
ブッシュの無責任な開き直りによる矛盾を
目立たなくすることに成功しました。
また、演説の中のケリーに対する直接の攻撃はゼロで
良心派ぶりを大舞台でアピールしています。
ブッシュが再選されなければ次の2008年の選挙で
もう一度大統領を目指すのではないかと観測されている
マケインですが、非常にスマートな演説だったと思います。

案の定、この演説を伝える翌日のニュースでも、
満場のブーイングを受けて苦笑する
マイケルムーアの巨体ばかりが放送され、
“マケインの演説は9-11委員会の結論と矛盾していた”
というような批判はまったくきかれませんでした。

マケインと対照的だったのは、
ニューヨーク式べらんめえ口調の
ルディ・ジュリアーニです。
市長として犯罪対策などでもともと実績があったのですが、
9-11テロ後の救助・復興陣頭指揮で、
彼の、ほとんどへらず口にも近いようなべらんめえ口調は、
衝撃の大きさに呆然となったニューヨーク市民を鼓舞し、
癒しながら勇気づけたのです。
そんなこともあって国民的な人気のあるひとで、
彼もまた潜在的な2008年共和党候補ですが、
こちらはケリーを「立場をパタパタかえる男」と
実例を沢山あげてぼこぼこに攻撃。
べらんめえ口調のジュリアーニが
対立候補を攻撃するのはキャラクター通りで
予想の範囲内ではありましたが、
効果的な攻撃だったとおもいます。

こんなわけで、
ケリーの一人ゴケと共和党の開き直り戦略、
この二つが組み合わさって9月を通じて
世論調査でのブッシュのリードは広がり続け、
調査によっては10%以上の差がつくものもでてきました。

そんななかで行なわれたのが9月30日の
ブッシュ対ケリー テレビ討論第一回目です。

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2004-10-07-THU

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