翻訳前のアメリカ。
そのあたりのこと、現地ではどんな感じ?

 

第四十六回 配信 アメリカのテロボケ率 その2


テロボケ率6%をものさしに、
ブッシュ政権の支持率のうつりかわりを
観察してみましょう。

話はさかのぼりますが、
2002年12月には、
2001年1月の大統領就任時と比較して
229万人分もの雇用がアメリカ国内で減少しています。
これは大恐慌以来の減少だったのですが、
テロボケ率を考慮すると
この時期ですら60%〜70%以上という
安定した高支持率だったことの説明がつきます。

ちなみに9-11以降初めて支持率が56%、
つまりテロボケ率調整後50%を割ったのが
いつかをみてみると
2003年9月8〜10日の調査での52%が最初です。
このあと、
12月11〜14日の調査まで56%割れが続きます。

イラク戦争開始から半年以上たったのに治安が安定せず、
大量破壊兵器はみつからず、
サダムフセインも捕まっておらず、
アメリカ国内に批判とイライラが高まっていた時期です。
ところが10月17日には
米国議会はイラク・アフガニスタン戦争の追加支出として
厳しい議論もなしに
870億ドル(9兆5千億円)の予算を可決しています。
このときの大統領支持率は56%(調整後50%)。
アメリカ国民のテロボケのおかげで
大統領の見かけの支持率が50%を大きく超えていたことが
少なからず影響していると考えていいでしょう。

その後、
2003年12月14日
サダム・フセインがひっとらえられて、
支持率は若干持ち直しましたが、
1月中ば以降、米軍に対する攻撃が組織的になり、
テロリストではなくて
抵抗勢力(Insurgents)という表現が
アメリカのジャーナリズムで定着するようになると、
支持率は再び56%を割り込みます。

2004年1月12〜15日53%(調整後47%)となり、
以降現在まで56%割れが続いているわけですが、
この直前ファルージャ郊外で
陸軍のブラックホークヘリコプターが撃墜され、
ファルージャのスンニ派勢力との緊張が高まっていました。
"米軍を攻撃しているのはテロリスト"という
図式が本格的に崩れはじめていました。
また、ブッシュ政権の財務長官だったポール・オニールが、
「ブッシュ大統領は就任直後から、
 サダムフセインを追い落とすことに取り付かれていた」
という暴露があったのもこの時期です。

これ以降、6%のテロボケ率を織り込んでいたかのように、
ブッシュ政権はさまざまな批判や暴露がおこるたびに
早めに謝って火消しする、
というパターンに陥っていきます。

まず、大量破壊兵器がいつまでたっても
まったくみつからないじゃないか、という批判に対しては、
イラクで大量破壊兵器の探索を続けていた
CIAのデビッド・ケイが
「(大量破壊兵器の存在に関して)
 私たちはほとんど完全に間違っていた」
と議会で証言しました。
2004年1月28日のことです。

証言直後の支持率は49%(調整後43%)に落ちていますが、
むしろ賢い対応だったといえます。
"間違ってました、見つかりません"と認めたことで、
だらだらと同じ批判が続くのを避けることが出来たのです。
案の定、テロボケがすすんだアメリカの有権者は、
そんな批判があったこと自体を忘れてしまったかのように
2004年2月6〜8日の調査で支持率を
52%(調整後46%)に戻してしまっています。

更に2月初旬にはブッシュ大統領がベトナム戦争当時に
所属していたテキサス州軍での軍歴が
再び問題になりました。
映画監督マイケル・ムーアがかねてから主張していた、
"ブッシュがアラバマ州軍に出向していた1972〜73年の間、
 訓練に参加した記録が一切ない。ブッシュは脱走兵だ!
 脱走兵に、軍の最高指揮官である大統領職の資格はない"
という主張が、民主党大統領候補予備選の討論などで
大々的にとりあげられたのです。

ここでもホワイトハウスは素早く火消しを図ります。
2004年2月10日にはブッシュのアラバマ州軍時代の
給与支払記録を公表し、
「問題なく勤務していた」と主張しました。
実は、公表された給与支払記録をみても
半年間給与支払がなされていない時期があるそうです。
つまり1年間の脱走が半年間に縮まっただけなのですが、
この資料公表後この話題は引っ込んでしまい、
支持率もこの時期51%(調整後45%)に持ちこたえています。

このようにブッシュ政権は、
問題が持ち上がるたびに、過ちをとりあえず認めたり、
内容にかかわらずどっさり資料をだしたりして、
やり過ごしてきました。
こんな風にやり過ごすことができたのも
アメリカ国民のテロボケあってのことでしょう。
ただ、アブグレイブ刑務所の囚人虐待スキャンダルは
いよいよ致命的な失点となったかに見えました。

なぜこれが致命傷なのか?
イラクで戦争を行う意味をブッシュ政権がどのように
説明してきたかふりかえってみましょう。

イラク戦争開戦前後は、
"イラクに大量破壊兵器(WMD)がある可能性が高い。
 そんなものが独裁者の手からテロリストの手に渡ったら
 大変なことになる。
 だから戦争をしてフセイン体制を変革するのだ"
という説明だったはずです。

それが、
今年1月WMDがみつからないという頃になって、
"フセイン政権は自国民を拷問し、虐殺し、
 自国民に対して毒ガスを使う酷いやつだった。
 米軍は最悪の独裁者からイラク国民を解放したのだ。
 イラクの人々はもう拷問も虐殺も心配しなくていいのだ"
という説明に、かすりかわりました。

こういう風に戦争の目的がすりかわっても、
アメリカ国民は気にしないだろうな、というのは
開戦時から予想できたことではあります
(第三十九回配信 愛国心 その2)

ただ、アブグレイブのスキャンダルでは、
まさに米軍がイラクの人たちを虐待し、
拷問している実態が明らかになってしまったのです。
虐められたのが卑劣なテロリストたちだけならば、
それでもまだましだったのですが、
国際赤十字によれば、
アブグレイブの収容者の90%は無実の人々だったとのこと。
それを裏付けるかのように、スキャンダル発覚後、
数百人もの囚人が問題の刑務所から釈放されました。

イラク人民の解放という次善の戦争理由すら、
大勢の普通のイラク人を虐待したかもしれないという
アブグレイブ事件がちゃらにしてしまったのです。

それでも米国の一部保守派のジャーナリストは、
強弁を続けました。
超保守派のコメンテイター、
ラッシュ・リンボーという人がいて、
下品さを恐れない本音トークショーが人気で
毎週2千万人が彼の番組を聴いています。
彼は事件の直後番組でこんな発言をしました。

性的虐待を与えている拷問写真に対しては、
「マドンナやブリットニー・スピアーズが
 ステージでやってることとかわらないじゃないか」
「古きよきアメリカン・ポルノだよ」

「しょうもない拷問事件に対する反応は、
 この国が女性化してるといういい例だよ」
「彼ら(兵士たち)は日々 銃撃をうけてるんだ。
 (拷問は)楽しんだだけなんだよ。
 気休めってことがあるだろ。ガス抜きとかさ」

こうなると、もはや戦争目的の正当化ですらありません。
無実のイラク人を虐待した事実に口を拭うばかりか、
アメリカのやっていることを
批判しないことだけが目的になっています。
なんらかの脅威の存在を理由に、
米軍による悪逆非道に寛容な立場をとっているのですから、
テロボケの典型的な症例ともいえるでしょう。

記憶力の低下を自己診断するための
健康診断チェック項目がありますが、例えば、
「"大量破壊兵器駆逐"という戦争目的が
 "イラク人民の解放"にすりかわる」のは、
「朝ごはんのおかずを思い出せない」
レベルのテロボケです。

ところが、
「イラク人民解放のための戦争のはずなのに、
 肝心の普通のイラク人を逮捕・虐待したことを無視する」
というのは、
「朝ごはんを食べたこと自体を忘れて
 朝ごはんはまだか?と逆切れする」レベル。

ラッシュ・リンボーの上記のような発言に対しては
さすがに大手メディアでも批判が集まりましたが、
謝罪するでもなく、彼は元気にラジオで活躍しています。
結局、彼のようにテロボケまみれでものを考える層が
国民の数%とはいえ確実に存在するということが、
ブッシュ政権の実力以上の支持率を支えているのでしょう。

そして、
ホワイトハウスはそれを十分承知しているようすです。
ラッシュ・リンボーの上記のような発言に対して
コメントを求められた 
スコット・マクレラン大統領報道官は
「それについてはこないだお話したはずですが・・・」
などと質問をはぐらかし、
ホワイトハウスの公式記者会見の場で
彼を非難することを避けています。
おなじく公式記者会見の場で、
チェイニー副大統領は
過去に彼の番組に出たことがあるが、
今後もリンボーのラジオ番組に出演することがあるのか?
という質問がありました。
これにも同報道官は
「それは副大統領の事務所に聞いてください・・・」
ラッシュ・リンボー発言の否定が、
彼のファンの否定につながることを察知しているのか、
はぐらかすような返答に終始しています。

テロボケした国民と、
国民をボケたままにしておきたいブッシュ政権、
この組合せは意外に磐石にみえます。

ブッシュ政権の謎の高支持率に
世界の人たちがいらいらする日々は
もう少し続くんじゃないでしょうか。

鈴木すずきちさんへ激励や感想などは、
メールの表題に「鈴木すずきちさんへ」と書いて、
postman@1101.comに送ってください。

2004-06-25-FRI

BACK
戻る