翻訳前のアメリカ。
そのあたりのこと、現地ではどんな感じ?

 

第三十二回配信 もしものコーナー/ゴア編 Part5の2

引き続きお届けします。
もしも、アル・ゴアが
さらにしつこく日記をつけていたら…

9月17日
日本の小泉首相が北朝鮮を訪問し、
北朝鮮の指導者 キムジョンイルと会談した。
ジョンイルは北朝鮮のスパイが
過去に日本の市民を拉致したこと、
そしてうち数名はまだ生存していることを認めた。

国家的な犯罪行為を認めさせることに成功したわけだけど、
これって大変なことなんだよね。
例えばリビアのカダフィも、
リビアが関与したスコットランド ロッカビー上空での
88年のパンナム103便爆破テロに関し、
今年4月になって事件の遺族に巨額の補償金を支払うと
提案してきた。
テロの犠牲者一人当たり1000万ドル。(*約12.5億円)
これだって、数年間にもわたった国連による経済制裁と、
米英両政府による強硬な交渉が背景にある。
同様にリビアが関与した、
86年のドイツのディスコ爆破テロのときは、
アメリカはリビアを報復攻撃しさえしたのであり
一貫した強硬な姿勢があってこそ、
最近のリビアの軟化があるといえる。

それが北朝鮮ときたら、
アメリカは長年経済制裁してたけど、
そんなことお構いなしに勝手に鎖国していた国。
その国が、ミサイルを打ち込まれたわけですらないのに
国家の犯罪を認めたのだから、
そうとう困ってるんだろうね。

リビアだって、巨額の遺族補償金の支払条件として
最初の40%払ったとこで国連による制裁の引き上げ
次の40%払ったとこで米国による二国間制裁の引き上げ
最後の20%で米国がリビアを
「テロ支援国家リスト」からはずす…
というのを通知してきた。当然NGだけど。

しかし北朝鮮の場合は、やり方がもっと悲惨だよね。
核兵器開発のそぶりをみせて、
重油供給と原子力発電所建設の約束を
アメリカからとりつけたり、
めちゃめちゃな農業政策で国民を飢えさせておいて
国際社会から食糧援助をとりつけたり…
こんな風に、常に自分で自分を人質にしている政府が、
日本に対しては本当の人質をとっている。

仮に、北朝鮮政府が日本の拉致被害者一人につき
リビア並みに1000万ドル支払うことができたとしても、
それって日本がこれから行うであろう援助が
非効率な形で還流していくだけ。なにも償っていない。
拉致者の身代金や拉致されて死亡した人の補償を
払うことになるのは、結局日本の納税者。

既に日本政府は経営破綻した北朝鮮系の金融機関に
税金を投入して救済すると決定してるらしいじゃないか。
「護送船団方式」をやめた後は
「工作船団方式」かよ、おめでてーな。
その一方で、大量の餓死者がでるであろうことが
かなり明白なのに、食糧援助の停止なんていう
経済制裁としては最も寝覚めの悪いものを実行している。

人質とられて身動きとりにくいのはわかるけど、
日本政府は結局、何をどうしたいの?
こんな日本政府の意味不明な対応が続いて、
北朝鮮の現政権が今以上におかしくなったら
後の処理が面倒だよね。

     ああよかった大統領にならなくて。

9月23日
ゆってやったゆってやった。
サンフランシスコでの演説で、
ブッシュのイラク攻撃案を、とりあえずは
パパブッシュの湾岸戦争と比較して批判してやった。
一応ニュースにもなったし
久しぶりにちょっと注目されたからよしとしよう。

9月30日
ゆってやったゆってやった。
今度は、アシュクロフト司法長官が
テロ関連捜査で人権侵害してるんじゃないかって
ゆってやった。

中間選挙を控えて、私もいろいろなところで
演説する機会がでてきたけど、
結局、今回の選挙は、
イラクとか景気の不安とか大企業不正会計問題とか
目立つ争点がいろいろ有るけど、
イラク云々はしょせん外交問題だから、
重要だけど決定的な争点ではない。
アメリカ経済も、株価の下落は激しいけれど、
丁寧に見ていくと実はそんなに悪くない。
個人消費は堅調だし失業率が絶望的に高いわけじゃない。
そうなると、なんとなく不景気なのは
景気循環によるものという説明も説得力を持ってくるし、
民主党と共和党のどちらが正しい政策を打ち出せるか
選挙民が見極めるのは困難だよね。
つーことは結局、2000年の大統領選挙と一緒。
逆風もなければ追い風もない。

こういうときこそ、労働組合を核とする
民主党得意のべたべたな選挙活動を行うべきなんだけど、
ゲッパートら民主党議会指導者たちは
まだ経済が争点足りうると考えている。
どうなっても知らないよ。
まあ私の立場で言うと、
中間選挙で共和党が議席を伸ばして多数派になると
今後、現政権がなにか失政をしでかしたときに
ブッシュ大統領+共和党議会の責任を
セットで追及しやすくなる。

だから次の大統領選に私が立つかどうかは、
「年内に表明」(11月の中間選挙の後)ってことにしたのさ。

それまでは、私もブッシュの経済無策を指摘してようかな。
ある意味、中間選挙も高みの見物だね。

     ああよかった大統領にならなくて。

10月3日
私のブッシュ政権に対する経済政策批判を
ホワイトハウスのフライシャー報道官は
「元副大統領が言ったことを
すごく気にかける人なんかいませんよ。
2004年にブッシュ大統領とアル・ゴアが再び戦うことを
民主党員たちが楽しみにしてるのかどうかについても
私は疑問だと思ってます」
っていいやがった。

くっそー。
言いたい放題いいやがって。

フライシャーって前からむかつくやつだと思ってたんだよ。
報道陣の扱いも時々雑みたいだし、
市井の人としてもっと気楽に言いたい放題いって
フライシャーを混乱させて失言をひきだしてやる。
私のしつこさはアメリカ史に既に残ってるってことを
忘れちゃ困るね。

     ああよかった大統領にならなくて。

10月16日
たいへんだたいへんだ。
北朝鮮を訪問していたケリー国務次官補に問い詰められて、
北朝鮮が、彼らが核兵器開発計画をすすめていることを
あっさり認めやがった。

関係者全員の顔に泥を塗るようなことを
なんでこのタイミングでやるかね。

もとはといえば94年の北朝鮮核開発疑惑のとき、
私たちの政権では北朝鮮の核施設への攻撃を
真剣に検討した。
実際に攻撃していたら、朝鮮半島は再び
戦争になっていたかもしれない。
その緊張の最中、北朝鮮へ一市民として単身乗り込み
キム・イルソンと会談し核兵器開発を断念させ
(少なくとも「断念する」と表明させ)、
アメリカによる軽水炉供与プロジェクト合意への
筋道をつけたのは、ジミー・カーターだった。
まずカーターのノーベル平和賞に泥を塗ったね。

その合意により朝鮮半島エネルギー開発機構(KEDO)が
設立され、軽水炉建設にかかる総費用のうち
70%を負担することになってたのが韓国。
同じく22%をを負担するのが日本。
韓国は32.2億ドル、日本は10億ドル(1165億円)
予算化済のはず。
韓国にいたってはKEDOの資金負担のために
電気料金を値上げしたりしたんだよね。
韓国と日本の納税者の顔にも泥を塗ったね。

特に日本では生存していた拉致被害者が
一時帰国して家族と再会し、
国交樹立交渉に向けての環境作りをしている
真っ最中なのにだ。

ひどい約束違反だよね。

ただ、ここだけの話だけど、
約束違反はアメリカもいっしょなんだよね。
軽水炉の建設費を負担しないかわりに
発電所が完成するまでの間、
アメリカは毎年50万トン(6500万ドル相当)の重油を
北朝鮮に供給する約束だったんだけど、
米議会が承認したのは年毎に3500万ドルとかそんなもん。
当然、供給は滞りがちになってしまった。
挙句、当初有力な受注企業として期待されていた
米企業GEがこのプロジェクトからおりちゃって
原子炉・タービン・燃料貯蔵タンクなど主要なオーダーを
日立・東芝・三菱重工なんかの日本企業が受注。
米議会的にKEDOをサポートする理由が
いよいよなくなっちゃった。

さらにミサイル発射実験やらIAEA査察拒否、
現場労働者の賃上げ要求など、
北朝鮮側の小出しの駆け引きで計画がとまり、
本来2003年に稼動開始だった計画は遅れに遅れ、
早くて2009年稼動なんて予定だった。

つまり、元々は、韓国と日本のカネを
アメリカ企業が回収できる構造になってたのに
それが全てチャラになった。
そればかりか、
もともと約束をちゃんと果たしていなかったとはいえ、
年々の重油供給義務だけが予想外にまのびした形で
アメリカに残ってしまっていた。

そんな状況だったから、
「悪の枢軸」たる北朝鮮が自分で核開発をばらして
KEDOの合意を彼らの側から
"無効"だって宣言してくれたおかげで、
重油供給義務から解放されたってのは、
アメリカにとっては、全く思う壺だったね。
北朝鮮が、これからこの核兵器開発ゲームで
どんな手をとってくるか不明だけど、
アメリカ様は一枚上手ってことさ。

逆に中途半端に作りかけの発電所抱えて
引くに引けず、進むに進めない立場になった
韓国と日本は気の毒としか言いようがない。

でも私が大統領だったら、
北朝鮮に対しては前政権と同じスタンスを
とらざるを得なかったから、
「悪の枢軸」なんてレッテル貼りもできなかったし、
KEDOをすっぱり切るって難しかったかもしれないな。

     ああよかった大統領にならなくて。

(いかりや長介の声)
…だめだこりゃ。

2002-10-23-WED

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