翻訳前のアメリカ。
そのあたりのこと、現地ではどんな感じ?

 

第三十一回配信 US 対 UN

アメリカ議会は国連が嫌いです。

何が気に入らないんだか、議会が承認しないため、
アメリカが国連に支払うべき分担金の滞納額は現在、
累計で11億1千7百万ドルだそうです。
国連が抱える全未回収金の内、
55%がアメリカによる未払い金。
なんでこんなことになっちゃったんでしょうか。

さかのぼってみるとレーガン政権時、
保守派のシンクタンクが国連を東側寄りであるとみなして
改革を要求しはじめたのが発端のようです。
1985年には、
「東側寄りである」
「第三世界よりの報道をマスコミに要求して
 報道の自由を侵害した」
「組織運営が不適切」という理由で
アメリカはユネスコ(国連教育・科学・文化機関)を脱退。
国連分担金の滞納がはじまります。

次のブッシュ政権下では、湾岸戦争が発生。
アメリカは各国から戦争協力をとりつけるにあたり
国連の枠組みを利用したため、
しぶしぶ延滞金の大半を支払いました。

そしてクリントン政権になります。
冷戦後の安全保障の枠組みとして、
クリントン政権としてはむしろ
国連の役割を拡大する
アイディアすらもっていたようなのですが、
そうは問屋が卸しません。
国内保守派グループが、国連のあり方を非難し始めました。
中でも大きな声をあげたのはカトリック系の人権団体です。
国連には各国の代表のほかにオブザーバーとして
各種NGOが参加していますが、その内のひとつが
ILGA(国際レズビアン・ゲイ連盟)であることを
問題視したのです。
このときのカトリック系団体の主張は次のようなもの。
ILGAの傘下団体に、NAMBLA
(ノース・アメリカン・マン/
 ボーイ・ラブ・アソシエーション)がある。
NAMBLAは未成年児童をも性対象とするような
同性愛者団体であり、けしからん…。
このような批判が議会を動かしました。
アメリカ議会はもし国連が
ILGAにオブザーバーの資格を与え続けるならば、
1億2千9百万ドルの分担金の支払いを留保すると議決。
ILGAはNAMBLAとの関係を断絶しましたが、
議会によるこのような兵糧攻めに屈する形で、
国連オブザーバーとしての地位を
1994年には失ってしまいました。

ILGAの件以外にも、米国議会は国連分担金支出にあたって、
要求を国連に出しはじめました。
過去数年にわたって、
さまざまな要求が出されてきましたが、
最近の例を挙げましょう。
2002年度の国連予算承認に関して議会が求めているのは
以下のような点です。
・ 米会計検査院(GAO)に対して、
国連会計データを開示すること
・ 国連の人事システムを改革すること
(能力主義システム、行動規範、給与監査 他)
・ 予算伸び率ゼロにすること 他いろいろ
…言いたい放題です。

何がおきているかというと、
アメリカは様々な内政上の議論や都合を
素直に延長して国連政策を決めているのです。
政権交代や議会の勢力バランスそして
世論の変化のダイナミズムが、
なんの遠慮もなしにそのまま国連政策に反映されます。

その結果、一国のカトリック系団体の主張が
最終的に国連の組織を動かしてしまうような
ことになります。
なんだかひどい横暴がまかりとおったように聞こえますが、
児童に対する性行為・性暴力は
米国においてもっとも忌み嫌われる犯罪です。
ちなみに、ILGAの件で批判の中心となった
NAMBLA自体は現在も活動中で、あろうことか
未成年少年との性行為で投獄された受刑者に対する
支援プログラムなんかも行っている様子。
その手の犯罪者を積極的に支援するような団体が
間接的にでも国連に参加していたというのは、
一般的な米国の選挙民一般の感情からしても
なるほど受け入れがたいものだったのです。

そして国連の会計や組織運営への要求については、
今や世界標準となりつつある
(とアメリカ人は考えている)、
米国流ビジネスの手法を国連の運営にも導入せよ、
という主張ですね。
アメリカの納税者が納めた税金を分担金という形で
受け取って使うにあたり、
国連といえども、能力主義の導入・支出の抑制などで
運営効率を最大化し、また第三者によるチェックにより
会計の透明性を保証するべきだなんて、
それだけみればもっともな主張です。

ただ、アメリカ議会が国連に対して要求してきた、
これらのもっともな主張の数々の
"もっともらしさ"を危うくするような出来事が
今年になって次々と発生しました。

まずカトリック教会の聖職者による
信者の児童に対する大規模な性虐待スキャンダルです。
今年1月のボストン・グローブ紙による
調査報道が大スキャンダルの発端になったのですが、
ボストン大司教区のジョン・ゲーガン元神父が、
過去30年間にわたり全部で130人もの児童に
性的虐待を加えていたという事件が発覚しました。
あろうことか教会側もその事実を知りつつ
神父の教区を異動させ被害を拡大。
カトリック教会の体質そのものが問われる
事態となりました。
このスキャンダルはその後全米のカトリック教会に波及、
子供への性的虐待をはたらいたかどで解任された神父は
なんと250人にのぼりました。

既に、ゲーガン元神父を含めて、逮捕者も多数出ています。
まさかNAMBLAの性犯罪者支援プログラムで
逮捕された元神父様が支援を受けるなんてことには
ならないんでしょうけれど…

とにかく、未成年との同性愛を支持・支援するNAMBLAと
ILGAとの関係、さらにそのILGAと国連との関係を
批判してきたカトリック関係者でしたが
カトリック教会そのものに
未成年の信者に対する性虐待の問題が
深く巣くっていることが明らかになってしまったのです。
ちなみに、このカトリック教会のスキャンダルが
追い風になったかどうかは定かではありませんが、
今年にはって米国はHIV患者救済への取り組みを評価し、
ILGAの国連オブザーバーの復帰を認めています。
(ちなみに、今度はパキスタンなどイスラム教系の諸国が
ILGAの参加を拒否しているようです。大変ですね。)

次に起こったしたのはエンロンの倒産。
巨大会計事務所アーサーアンダーセンを巻き込んだ
不正経理操作スキャンダルや、
エンロン幹部による企業破綻直前の株の売り抜けも発覚し
米国流ビジネスのほころびが露呈しました。

エンロンスキャンダルでは、
ブッシュ政権中枢に関しても注目があつまっています。
トーマス・ホワイト陸軍長官はエンロンの元取締役で
長官就任前に、巨額のエンロン株式を売却。
ラムズフェルド国防長官も、エンロンの株主で
長官就任前に同社株式を売却。
二人とも結果として、
破綻発覚前に売り逃げしたことになります。
さらにロバート・ゼーリック通商代表は
エンロンの元顧問でした。
さらに政府が2001年5月に
国家エネルギー政策を策定したさいには、
チェイニー副大統領とエンロンの会長ケネス・レイが
数回にわたって会談したのですが、
米会計検査院(GAO)は
その会談内容の開示を求めています。
しかしブッシュ大統領はこれを拒否したため、
米会計検査院は情報の公開をもとめて
裁判を起こしています。

アメリカの大企業の経営は基本的には非常にオープンで
例えばエンロンのCEOケネス・レイの雇用契約書ですら
給与額を含めて無修正で
インターネット上で公開されていますが、
むしろ政府の側に、
いろいろとわけあり情報があるのかもしれません。

ところで、米会計検査院(GAO)ですが、
ホワイトハウスからすら情報をもらえないのに、
国連に会計資料みせろって、
こちらもあんまりな主張なんじゃないでしょうか。

また、議会にいたっては
エンロンから政治献金を受け取っていた議員が
1989年から2001年までで
258人も確認されました。
上院議員100人中でみると
71人という数字もあります。
国連の効率経営を要求しているアメリカ議会ですが
どの面下げて、と国連の人は思ってるでしょうね。

そして、ブッシュ大統領です。
エンロンスキャンダル、
通信会社ワールドコムやAOLタイムワーナーの
経営危機と不透明な会計操作、さらに景気後退などで
今年11月の中間選挙に向けてマイナス材料が山積みです。

それでもなぜか職務承認率(日本でいう支持率)が
60%台を維持しているのは、
テロとの戦争の延長線上の緊張感が社会に
まだまだ残っているためと思われます。

逆にいうと、テロとの戦争が今後も続くのならば、
他のいろんな問題が後回しにできそうな情勢。
ブッシュ政権は現在、
サダム・フセイン打倒すべしということで
政治的な環境作りにいそしんでいますが、
イラク攻撃のために用意した説明は、
「国連による大量破壊兵器の査察を
 イラクが拒否したから
 (大量破壊兵器を持ってるに違いない)」
という理屈です。

普段は文句ばっかり言って国連をいじめて、
11億ドルのも分担金を滞納してるのに
選挙が控えてるときだけ
「国連の言うこと聞かないイラクはけしからん」って
言い訳に使って世論の目を他へそらすってのも
ずるい話ですよね。
国連をイラク攻撃の言い訳に使うなら、
湾岸戦争時のパパ・ブッシュ大統領のひそみにならって、
せめて滞納分の分担金くらいは、素直に払ったほうがいいと
思うのですけれど・・・

イラクも、アメリカの主張する国連査察は
単なる言い訳だと見透かしたらしく、
最近大量破壊兵器工場だと疑惑をもたれている
国内施設へジャーナリストを招待。
国連をすっとばすかたちで、情報公開し
大量破壊兵器疑惑を解消しようとしています。

このように、アメリカは国連を振り回した挙句、
痛いかんじの言い訳のネタに利用していますが、
国連を言い訳に利用しているのは
日本だっておんなじなんじゃないでしょうか。

日本人は第二次大戦で、
何も考えずに"お国のため"と頑張った挙句、
無条件降伏という最悪の結末を迎えました。
これに懲りて戦後は、
国際政治の場面で主体的に頑張らないですむように、
"お国連のため"という言い訳を有効に利用してきました。

様々な国際問題に対処する際、
国連という緩衝材を通して関わる形態をとることで、
結局はアメリカ追従しかできないという外交上の本音を
形式的にですが隠蔽して、
かろうじて主権国家としての
自尊心を満足させてきたのです。
同時に、国連という存在を持ち出すことで、
国家より崇高な組織を支持しているかのような
漠然とした安心感を得ていたようにも思えます。
湾岸戦争のへの協力や、
テロ後のアフガニスタンでの戦争への協力に関しても、
「国連の議決・国連への協力」という文言が
まるで厄除けのおまじないのように
日本の関連法案に盛り込まれるのをみるにつけ、
言い訳としての国連を
日本人全員が必要としているんじゃないかな
という思いがつのります。
ただ悲惨なのは、
アメリカは確信犯で国連を言い訳のネタにしているのに
日本のほうは無意識の言い訳であることです。
無意識であったために、
第二次大戦中の"お国のため"同様、
"お国連のため"という考え方が
いつのまにか日本外交の目的とすらなってしまっており、
国連常任理事国入りが
日本の悲願であるかのようにいわれています。

でも常任理事国アメリカが身をもって示しているように
分担金を支払わないよ、と恫喝するだけで、
場合によっては自国内の一圧力団体の主張ですら
国連に反映させることができるのです。
日本の国連分担金の負担率はアメリカについで2位。
その気になりさえすれば、
今日からでも国連を兵糧攻めすることが可能です。
逆にいうと、そこまでして国連に対して
発言したいことがないのなら、
常任理事国になる必要自体がありません。

アメリカがいろんな要求を突きつけた挙句、
国連を兵糧攻めにするにしても、
国連の存在を自国の軍事行動の言い訳に利用するにしても、
アメリカの政府や議会は、
民主主義をベースにした国際社会を建設するためには
どれも必要な行為なのだと胸を張って説明します。

一方、日本の政府が黙って素直に国連分担金を納めるとき、
日本人は国連や国際社会でどんな理念を実現しようと
しているのでしょうか。

2002-09-09-MON

BACK
戻る