翻訳前のアメリカ。
そのあたりのこと、現地ではどんな感じ?

 

第二十九回配信 ハリウッドの大変な1年 後半

9月11日テロ直後の混乱の中にあって、
エンタテイメント業界の対応はすばやく、
わずか10日後の9月21日には、チャリティテレソン 
「アメリカ:ア・トリビュート・トゥ・ヒーロ−ズ」が
ABC、CBS、NBC、FOXの全米地上波ネットワーク等で
放送されました。
企画決定から放送まで出演交渉期間など
3〜4日しか無かったにもかかわらず、
映画のアカデミー賞と音楽のグラミー賞、
ついでにテレビのエミー賞が
一度に開催されたかのような豪華キャストが
NY、LA、ロンドンのスタジオから参加しました。
ストライキ前のキャスティング玉突き騒動が
遠い昔の幻のようです。

あとは有名な話ですが、テロの影響により
「高層ビルでの爆弾テロで妻子を失った消防士が、
 復讐のため犯人を追って単身コロンビアに向かうが…」
という内容のシュワルツェネッガー主演のアクション映画
「コラテラル・ダメージ」が公開延期。
WTCのツインタワーの間に張られた巨大なクモの巣に、
逃走中の武装強盗団のヘリコプターが捕らえられて宙吊りに
…という、大げさで楽しい内容だった
「スパイダーマン」の劇場版予告編も上映中止。
そのほかにも、ひっそりと公開延期になったり、
画面に写り込んでいるWTCのシーンを
編集・修正せざるをえなくなった作品が
いくつかあった様です。

そんなどたばたも、11月までにはおさまり、
「ハリーポッター」や、
12月の「ロード・オブ・ザ・リング」などの
ファンタジー大作が記録的なヒットとなりました。
これらに加え「シュレック」、「モンスターズ・インク」など
動員力のあるファミリー映画の大成功に引っ張られ
2001年の北米映画興行収入の総合計は81億4千万ドル、
米国の景気後退にもかかわらず史上最高額に達しました。
もっとも、記録的な興収のもうひとつの要因としては
チケットの値上がりがあります。
大都市繁華街の高い劇場になると
映画チケットが大人1枚9.50〜9.00ドル。
うっかりインターネット経由で事前に購入すると
手数料が50セントはいって10ドルの大台です。
アメリカは映画代が安い!というのはもはや過去の話で、
上手に日本の金券ショップで映画チケットを買うと、
700円〜1300円でしょうから、同じか安いくらいです。
映画ファンにとっても大変な年となりました。

そして年が明けて2001年の総決算アカデミー賞。
昨年まで授賞式が行なわれていたロサンゼルス市内の
シュライン・オーディトリアムから、
ハリウッド市内に新しく建設された
コダック・シアターに会場が移されました。
授賞式には、赤絨毯に正装で姿を見せるスター達見たさに、
限られた場外の席を確保しようとする
熱心なファンが例年つめかけます。
去年までは400席ほどの限られた場外席の入場券を
早い者勝ちで現場で配布していたため、
授賞式の2〜3日前から会場の周辺で列を作って
テントで寝泊りするファンもいました。

ただし今年はご時世で警備が厳しくなり、
屋外席のファンも郵便申込による許可制に変更。
申込書には"(犯罪歴などの)身元調査を認める"旨の
確認署名欄まであるという徹底ぶりでした。
ファンの管理をそこまで厳しくした割には、
先日英国でTVプロデューサーに暴力をはたらき、
暴れん坊なのは下半身だけでないことを証明した
ラッセル・クロウはちゃんと会場に入れてもらってたし、
コダックシアターからクルマで10分と離れていない路上で
売春婦といちゃついているところを逮捕されたことがある
ヒュー・グラントにいたっては、
賞のプレゼンターをやってましたねぇ…。

あげ足取りはともかく、警備の厳しさとは裏腹に、
今年のアカデミー賞は
「寛容さ」がキーワードだったかも知れません。
天才数学者の精神分裂病との戦いを映画的な手法で描いた
「ビューティフル・マインド」が作品賞、
白人ブロンドのお姫様を悪いドラゴンから救出してみたものの
彼女の本当の姿は…でも結局、幸せに暮らしましたとさ…
というオチの「シュレック」が長編アニメーション作品賞、
特別名誉賞にシドニー・ポワチエ、
主演男優賞にデンゼル・ワシントン、
主演女優賞にハル・ベリー。
いろんな意味でのマイノリティに対する理解や、
いろんな点で立場が違う人達を認めることの重要さ、
そんな価値観が、それぞれの作品や演技の出来以上に
重視された投票結果だったように感じられます。
もっとも、そんなに深読みしなくても、アカデミー賞って、
納得いかない結果が多いわけですけど。

とにかく、そんなわけで、前半はストライキで右往左往し、
それでもファミリー向作品が不況の中にあって市場を拡大し、
テロ事件を契機に寛容さを渇望する気分に覆われたのが
2001年のハリウッドだったと思います。

そう考えると、最近全米で公開された
「E.T. 20周年アニバーサリー特別版」は
公開こそ20周年ということで2002年になったものの、
まさに2001年のハリウッドを象徴するような
映画かもしれません。

制作当時はケーブルで操作していたE.T.の表情を
CGIで差換えてより愛らしく表現力豊かにし、
加えて印象深い未公開映像を追加した20周年特別版は、
ストライキ対応の企画としても大作だったはずです。
また、監督のスピルバーグ自身が、
「人種を超えた平和と共存」、つまり寛容さが
E.T.のテーマと語っています。
そして最新のデジタル技術は、
ファミリー作品としてのE.T.の完成度を高めることにも
貢献しています。
オリジナルで、警官や政府のエージェント達が
拳銃やショットガンまで持出して子供達とE.T.を追跡する
シーンがありますが、
特別版では、彼らが手にした銃は全てCGIによって
トランシーバーに描き換えられてしまいました。

こういった修正は映像だけにとどまりません。
子供達がハロウィーンへ出かける準備をするシーンでは、
お母さんの台詞が変更されました。
変更の対象となった公開当時の元台詞はというと、

「テロリストの格好で出かけちゃだめよ!」

…本当に、大変な1年でしたね。

2002-04-17-WED

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