翻訳前のアメリカ。
そのあたりのこと、現地ではどんな感じ?

 

第二十二回配信  我慢

かつてはタリバーンのことをバンドの名前かなにかだと
思ってしまったこともあるブッシュ大統領ですが、
タリバーン政権打倒とビン・ラーディン一派掃討を目指し、
アフガニスタン空爆を命令してしまいました。
既に開始から2週間が経とうとしています。

爆撃に対するアメリカ国内の支持率も高いようです。
軍事目標に限定した攻撃であるという
繰り返しのアナウンスがあり、さらには
残酷な公開処刑や特に女性に対して苛烈な人権侵害を行う
タリバーン体制に対する嫌悪感をマスコミを通じて醸成し、
抑圧されたアフガニスタンの人々の解放を
明かに後出しながらも戦争目的に据えたことも
功を奏しているようです。

空爆では不可避と思われた、
民間人や国連関連職員や赤十字などの
タリバーンと関係ない人々や施設の犠牲や被害も
残念ながら発生してしまいました。
しかし今のところはこういった事実が報道されても 
支持率に影響を及ぼすほどの
大きな批判は巻き起こっていないようです。

ただ、この間まで彼らのことをロックバンドか
何かだと思ってた人間が命令を下したおかげで、
なすすべもなく大空襲にさらされるタリバーンというのは
このうえなく惨めな人たちですね。
なにしろ、9月11日のテロ実行犯とされる19人のなかで、
アフガニスタン人と特定された犯人は一人もいないのです。
なんで僕たちを爆撃するのが報復なの?と、
タリバーンの諸君も正直思ってるんじゃないでしょうか。

納得いかないといえば、
大統領候補共和党予備選の最中
99年11月のあるインタビューで、当時のブッシュ候補が
パキスタンの指導者の名前を尋ねられたときの
答えはこんなかんじでした。

「将軍…だよ、将軍」。
「パキスタンの将軍が選出されたんだよね…、
あ選出じゃなく、政権を奪取したんだな。
この男は政情を安定させそうだね、
亜大陸にとっては良いニュースだと思うね」。
と、下手すれば一般有権者以下の見識を
披露してしまいました。

名前を結局思い出してもらえず、
当時「この男」呼ばわりされてお終いにされちゃったのは
パキスタンのムシャラフ大統領です。

今回の戦争の前準備として米国から真っ先に声がかかり、
従来のタリバーン支持からしぶしぶ方向転換させられ、
空爆開始後は国内で反米デモが連日巻き起こり、
クーデターの噂まで飛び交って大変な目に遭ってる
ムシャラフ大統領にも、内心、
かなり納得いかないものがあるんじゃないでしょうか。
TVにうつる顔がいっつも辛そうです。

なにしろ「この男が政情を安定させそう」と、
希望的な見とおしを開陳した
ジョージ・ブッシュ本人が今回の戦争にあたり、
パキスタンの政情不安定化の原因を
思いっきり作っちゃってるのです。

中東関係以外でも、かつては
コソボ人(Kosovars)を "Kosovarians"、
東チモール人(East Timorese)を
"East Timorians"、
挙句、ギリシャ人(Greeks)のことを "Grecians" と
それぞれ言い間違っちゃった前科もあるらしく、
アメリカのマスコミは大統領候補時代から
2001年9月10日まで一貫して、
ジョージ・ブッシュの外交知識のなさを
折に触れて笑い者にしてきました。
Greekなんて日本の大学受験ですら基礎単語ですから
みんなが心配になるのも当然です。


でも、9月11日を境にブッシュ大統領に対しての
こういった揶揄はいっさい聞かれなくなりました。
国全体が別の意思を持ち別の規準で動き出したのが
はっきり分かった瞬間です。

かつて経験したことがないほどの国難にあたり、
アメリカはリーダーシップを求めていると
誰もが感じ、結果として、
そのときにリーダーシップを発揮すべき立場の人間に
アメリカ国民は自然に多くをゆだねたのです。

合衆国大統領といえども所詮人間ですから、
全てに対して100点の答えをだすことはできません。
そこを理解した上で、減点法やら揚げ足とりやらを
いったんぐっと我慢して、
危機に対処する大統領職のリーダーシップを
国民とマスコミが一緒になって尊重しているのです。

Greekっていえない男に、きちんとリーダーシップを
ゆだねる人々の態度にはむしろ、
この国の民主主義の足腰の強さを見る思いがします。

ただ、外から見ていると、
こんな風に国論が簡単にまとまっていく姿というのは、
アメリカの視野の狭さや単純さや傲慢さの現れとして
感じられてしまうんでしょうけれどね。


翻って日本のことを考えてみると、
小泉内閣は、先の見えない不況という
国難に直面して登場しました。
小泉総理も色々減点を重ねているようであっても、
内閣支持率はあんまり下がってませんよね。
日本の民主主義も「減点が少ないこと」より
「総理のリーダシップ」を維持することのほうを
選ぶくらいには、成熟してきているのかもしれません。

ちなみに、最近のブッシュ大統領の失言に
こんなのがありました。
「彼ら(テロリストたち)は、
強大な巨人を目覚めさせてしまったのだ」
(10月8日 リッジ国土安全保障局長官の任命式で)

明かに山本五十六長官が真珠湾攻撃の成功の後に
つぶやいたとされる言葉、
「眠れる巨人を起してしまったかもしれない」を
念頭に置いた発言です。
ブッシュさんの頭の中では、
9月11日テロ攻撃=真珠湾攻撃なのです。

われらが小泉総理は、今年8月に靖国神社に出向いて、
戦没者の英霊に参拝しました。
そのとき拝まれた英霊の中には、
ブッシュ大統領にとっての60年前の「テロリスト」、
山本五十六の霊も当然含まれています。
それでも最近は、アメリカに頼まれてもいない
自衛隊のアフガニスタン/パキスタン派遣に
小泉さん必死になっていらっしゃいますね。

なんだか、激しくて虚しい片想いみたいです。

日本もアメリカも色々大変なときなので、
すずきちも前向きな我慢をしようとおもっているのですが、
端で見ていてあまりにも痛々しいリーダーシップは
勘弁してほしいと思ったりもします。

2001-10-21-MON

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