翻訳前のアメリカ。
そのあたりのこと、現地ではどんな感じ?

 

第十五回配信
日系ハリウッド俳優

前回配信でゴアさんにご紹介してもらった
普通の超大作アクション兼普通のロマンス映画
『パール・ハーバー』ですが、日本市場を慮り、
日本公開版は若干台詞が修正になるようですね。

ただ、第二次大戦当時は、
実際もっとひどい表現を使っていたのでしょうし
枝葉末節の台詞変更などあまり意味がないように思えます。

むしろ日本の観客にとって、
よほど屈辱的と思えるのは、日本軍側のシーンで
日本語での演技が絶望的に下手だったり、
ともすると日本語にすら聞こえない日本語を
もごもごしゃべったりする、日系俳優さんたちの演技です。

日本では、映画館によっては観賞料が
2000円まで上がっているそうですが、
なんでエンタテイメントのレベルに遠く達していない、
日本語として聞き取れないような演技をみるのに
2000円もふんだくられないといけないのでしょうか。

ましてや『パール・ハーバー』に関しては、
『トラ!トラ!トラ!』という比較対象があります。
こちらのほうは日本人俳優陣が
日本側監督深作欣司のもと日本軍を演じています。
ボスキャラ山本五十六司令官役に故山村聡、
真珠湾攻撃を現地で指揮した南雲中将に故東野英二郎、
航空参謀・源田実役に三橋達也…
というように名優ぞろいです。

それだけに『パール・ハーバー』にキャスティングされた
ハリウッド日系俳優陣による
毎度おなじみのしょぼーい日本語演技が、
いっそう痛々しく感じられます。
それが、日本軍の描写に関してはことに貧弱な脚本と、
パワーレンジャーなんかの戦隊ものシリーズの
悪者のアジトのような大爆笑デザインによる
作戦会議室で繰り広げられるのですからなおさらです。


ヤクザ、ビジネスマン、軍人など
日本人のステレオタイプがハリウッド映画に登場するとき、
必ず登場するこの日系ハリウッド俳優達、
どんな経歴の人達が、製作費140億ドルの超大作映画で
もごもご日本語俳優として登場するに至ったのでしょう。

源田実役のケイリー‐ヒロユキ・タガワは
1950年東京で米国軍人の息子として生まれ、
軍人の家族として各地を転々としました。
高校時代に演劇に目覚めたそうですが、
母親が日本で女優をしていたとのことで
その影響もあったかもしれませんね。
俳優として最初にブレイクしたのは
ベルトルッチ監督の『ラストエンペラー』。
他にはショーン・コネリーとウエズリー・スナイプス主演の
日系勘違いクライムサスペンス『ライジング・サン』、
工藤夕貴、イーサン・ホーク主演の
第二次大戦前後のアメリカを舞台にした法廷ドラマ
『ヒマラヤ杉に降る雪』など多数の映画に
脇役として出演しています。
また、彼自身が独自に発案した
格闘技チャン・シンというのがあり、
日々チャン・シンの開発にいそしんでいるそうです。
その特技を活かして
格闘技ゲーム映画『モータルッコンバット』では
悪のボスキャラ役を勝ち取っています。
今後の予定作には『パール・ハーバー』に続く超大作、
リメイク版の『猿の惑星』があります。

山本五十六役のマコ("Mako"/マコト・イワマツ)は、
1933年神戸生。
彼のご両親がアメリカ留学中だったために、
おじいさんとおばあさんのもとで少年時代を過ごします。
1941年に戦争がはじまっても彼の両親は米国に残り
政府の戦争情報局に勤務することで、
米国での居住を認められたそうです。
本物の山本五十六と戦っていた側だったわけですね。
そして戦争が終わり40年代終わりにはマコも渡米、
建築を学びはじめます。
ところが50年代前半に軍隊に入隊し、
慰問で演劇をおこなったことから演劇に興味を持ち、
その後パサデナ・コミュニティ劇場で演劇を学び
俳優としてデビュー。
『砲艦サンパブロ』(1966年作品。ロバート・ワイズ監督、
スティーブ・マックイーン主演)のポー・ハン役で
アカデミー賞助演男優賞にノミネートされますが、
惜しくもウォルター・マッソーに破れています。
その後数々の作品に出演していますが、
近年の主要な出演作品としては、
ブラッド・ピットの『セブンイヤーズ・イン・チベット』
フランシス・コッポラ監督の『タッカー』
それにやっぱり『ライジング・サン』などがあります。
また、ロサンゼルスにある劇場
イースト・ウエスト・プレイヤーズに関しては、
60年代半ばから出資者兼監督として設立〜参加しており、
アジア‐太平洋地域にルーツをもつ俳優達の活動の支援を
ずっと行っています。

こうして改めて経歴をみてみると、
彼らはともにハリウッドで一定の実績を残している
アメリカ人俳優たちであることがわかります。
また細かい二人のフィルモグラフィーをみてゆくと、
日本人、中国人、韓国人、ベトナム人、チベット人など
東洋系ならなんでもござれで仕事を続けてきたようです。
まあ、考えてみればオーストリア生まれの
アーノルド・シュワルツェネッガーが
「アメリカ人」を演じてもなんの問題もありません。
オーストラリア育ちのメル・ギブソン
(生まれたのはニューヨーク州)にいたっては、
出世作であるオーストラリア映画『マッドマックス』を
アメリカで公開するにあたり、
台詞のオーストラリア訛りが強すぎて、
オリジナルの英語台詞を改めて英語に吹替えなおして
公開せざるをえなかったという逸話すらあります。

出身地など一切関係なく、
それぞれの映画のそれぞれのキャラクターに
ぴったりの俳優を選ぶのがハリウッド流なのでしょう。

また、アジア系俳優の宿命としてマコのほうにも
格闘技関連のキャラクターでの出演作があります。
アカデミー賞ノミネートの演技力も関係なく、
東洋系のステレオタイプに埋もれた仕事をせざるを
得なかったわけですね。
ケイリーのほうも、『猿の惑星』での役柄は
東洋も何もない、被りものをした猿役のようですから、
英語で演技をする能力は認められているといえます。

ちゃんと能力がありながら、日系/東洋系の枠組みから
逃れられない彼らの俳優としてのキャリアの紆余曲折は
少し経歴を調べただけでも容易に想像できます。
その中で、自己流の格闘技を開発したり、
劇場を運営して後進の育成に努めたりする彼らの姿を
なんだか応援したい気分にもなりました。

ただ、『パール・ハーバー』をみる多くの日本の観客は、
彼らの日本語での演技に対し、
「2000円もとった癖に、もごもごしゃべるな!」
という素直な感想以外もたないでしょう。
日本市場で彼ら日系ハリウッド俳優の
名誉を守ってあげるには、彼らの台詞をもういちど、
ちゃんとした声優さんの日本語で吹替えて公開するしか
方法がないのかもしれません。

2001-06-05-TUE

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