翻訳前のアメリカ。
そのあたりのこと、現地ではどんな感じ?

 

第六回配信  悪徳会長マクマホン/第二ラウンド


3月25日に授賞式が行われたアカデミー賞ですが、
ハリウッド版WWF 『グラディエーター』が
作品賞を受賞してしまいました。

また、この映画がノミネートされていた計12部門のうち
実際にオスカーを受賞できたのは、
WWF風味が際立ったジャンルばっかりでした。

男が聞いてもぞくぞくするようなセクシーな声で、
コロセウムで啖呵を切ってみせたラッセル・クロウは
主演男優賞。

ザ・ロックのマイクパフォーマンスも顔負けです。

ゲルマン人たちの石器人風コスチューム、
剣闘士達の意匠を凝らした甲冑、
皇女ルシーラのエレガントなドレスなどどれも秀逸で、
衣装デザイン賞も受賞しました。

衣装といえば、WWFにも専属の衣装デザイナーがいます。
ワイシャツ・ネクタイに拘束マスクのマンカインド、
墓堀人衣装でデビューしたアンダーテイカー、
貴族の出身というふれ込みでフリル付シャツふりふりで
デビューしたHHH(トリプルエイチ)など、
とにかくインパクトだけは強い衣装コンセプトで
WWFのレスラーたちは、もはや選手ではなく、
キャラクターとして活躍しています。

さらに受賞したのが特殊効果賞。
半分だけ本物を建造して残りをコンピュータで
切り張りして再現した古代ローマのコロセウム、
観客席の一部だけ実際のエキストラをいれて撮影し
あとはやはりコピーアンドペーストした満場の大観衆、
許せるクオリティのCG合成のトラ、
などなどほとんど反則の域に達するような
特殊効果の数々が評価されました。

ここまでくるとWWFの仕掛けたっぷりの
派手で巨大なアリーナ、というよりは、
『セレブリティデスマッチ』の粘土のアリーナが、
CGになっただけという感じです。

ちなみに映画で剣闘士興行の親玉役を演じた
オリバー・リードにいたっては、
撮影中に心臓麻痺で倒れてしまい(1999年5月没)、
代役に演技させて撮影した映像に本人の顔だけを
CGで後で張りつけたシーンもあるということです。
本当に粘土人形すれすれですね。

逆に、脚本賞や助演男優賞のように
ノミネートされていたのに受賞を逃したカテゴリーは、
WWF風味が足りなかったから駄目だったんだ、
というのが、すずきちの仮説です。

脚本は、荒唐無稽さが足りませんでした。
(オリジナル脚本賞はキャメロン・クロウが
『あの頃ペニーレインと』で受賞)
歴史上のローマ皇帝コモドゥスは、
本当にコロセウムで剣闘士や猛獣らと戦ったりした、
大変なお調子物だったそうです。
謀略によりレスリングのチャンピオンの手にかかって
最期をとげたとのことですから、『グラディエーター』は
それなりに史実に基づいたストーリーだったわけですね。

自分自身をヘラクレス神と思い込み、
ローマの最高指導者である執政官の地位を授かる日に
剣闘士の衣装を身に纏うつもりでいた、
というのが実在のコモドゥスですから、
『グラディエーター』のコモドゥスの方が
策略をめぐらせて成功したりする分よほどまともです。
悪徳会長マクマホンなみのお調子者・お馬鹿皇帝を
お調子者のまま描ききってこそ支持も受けただろうに、
惜しかったですね。

そのコモドゥス役でホアキン・フェニックスは
助演男優賞にノミネートされていました。
(受賞は『トラフィック』のベニチオ・デル‐トロ)
なんと言ってもここは、
デニス・クエイド(メグ・ライアンの夫。別居中)が
コモドゥス役をやるべきだったわけですね。
で、ラッセル・クロウとメグ・ライアンをめぐって
本当の『セレブリティ・デスマッチ』をやってくれたら、
迫真の演技でオスカー間違いなしだったのに。
ついでに言っとくとデニス・クエイドって、
マクマホンにちょっと顔が似てます。
いよいよ関係無いけど。
(*メグとラッセルが出会ったのは『グラディエーター』
の後に撮影された映画『プルーフ・オブ・ライフ』です)。

デニス・クエイドは冗談としても、
『グラディエーター』は、つくりものの暴力を
エンターテイメントとして楽しむという、
WWF風味エンターテイメントの大成功例になりました。

往年のテリー・ファンクのような、
流血どろどろの死闘はもう過去のものです。
WWFの各キャラクターたちは、
ロープ上から派手な空中戦を仕掛けあいますが、
観客の笑いをとる余力を残して試合を終えます。
普段から尋常でない鍛え方をしているからこそ、
初めて可能になる離れ業とはいえ、
ワーナーブラザーズのアニメのキャラクターなみに
彼らは不死身であるようにに見えます。

一方映画の世界では『グラディエーター』に限らず、
リラックスして楽しめるような暴力表現が溢れています。

外国語映画賞を受賞した『グリーンデスティニー』の
芸術的ワイヤーアクションなんか、
劇場の観客はみんな大笑いでした。

『グラディエーター』を見にいった時には、
映画が終わって席を立つ時に、
意味も無く小さくガッツポーツを決めていた、
高校生くらいの少年をみかけましたが、
WWFと違って復讐の達成というカタルシスがあった分、
映画の方の満足感が高かったかもしれません。

WWF風味とは、
暴力に対するリアリティの欠落、
暴力によるエンターテイメントの追及、
のふたつの要素にまとめられると思いますが、
この二つで説明できちゃう事件が、
困ったことにアメリカでは最近 とみに多いのです。

2001-04-01-SUN

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