翻訳前のアメリカ。
そのあたりのこと、現地ではどんな感じ?

 
第三回配信
えひめ丸事件/誠意の正体  その2 



テネシー州のヴェロニカ・マーティンさんは
マクドナルドに対して11万ドル(約千三百万円)を
要求する訴訟を起こしました。
ハンバーガーに入っていたピクルスが熱すぎ、
それが彼女のあごに落ちてやけどをしてしまったのです。

また彼女の夫は、妻のあごのやけどが原因で
「彼女のサービスと配偶者としての権利」が
奪われたとして別に1万5千ドル(約175万円)
を要求する訴訟をマクドナルドに対して起こしています。
(このニュースを読んだ後のニュースキャスターの
困惑しきった表情からして「彼女のサービス」とは、
とてもえっちな意味だと思われます)

他にも、くつひもが絡んですっころんで怪我したのは、
「シューズのデザインが悪いせいだ」といって
ナイキを訴えた人がいたそうですし、
スピルバーグが新作映画を公開するたびに、
「私のアイディアを盗んだ」と主張する人が
わらわらと何人も現れて訴訟を起こすそうです。

有名なマクドナルド コーヒー事件に限らず、
アメリカにおいて大企業や大金持ちは、
大企業や大金持ちであるというだけの理由で
訴えられるリスクが大きくなってしまうのです。
たとえ理由があきれるほどの言いがかりであってもです。

弁護士たちも非常に営業に熱心で、
ラジオCM、バスのボディ広告など
弁護士事務所の広告に触れない日はありません。
インターネットでも弁護士の営業用サイトをいくらでも
見つけることが出来ます。

弁護士の専門分化も進んでおり、
大企業に対する一般消費者の共同訴訟についていえば、
自動車業界専門弁護士、航空業界専門弁護士
など大企業が存在する業界ごとに弁護士がいます。
クルマの欠陥による事故や、航空機の事故の被害者と
なった場合は、専門性の高い「法廷サービス」を
受けることができるわけですね。

但し、共同訴訟を扱う弁護士さんみんながみんな、
映画『エリン・ブロコビッチ』みたいに、
被害者の苦痛に対する共感にあふれ、かつ
社会正義の実現に燃えているわけではありません。

あるコンピュータ会社がディスプレイのサイズを
実寸ではなく、梱包している箱の大きさで表示する
というずるを働き、ある弁護士が
消費者グループを組織して共同訴訟を起こしました。
消費者側はめでたく勝訴しましたが、原告それぞれが
勝ち取ったのは 8ドルのクーポン券だけ。
訴訟を組織した弁護士だけは賠償金の中から
巨額の手数料をせしめたそうです。

そういえば『エリン・ブロコビッチ』にも
確かこんな台詞が出てきます。
エリンのボスであるマザリー弁護士が
大企業の工場による有毒廃棄物の被害に苦しむ住人らに、
企業を相手取り訴訟をおこすことを説得するシーンです。

「弁護費用はいりませんよ。ただ、賠償金がとれたら、
報酬として40%いただきます」。

成功報酬ベースでの仕事を厭わない弁護士たちの存在が、
弁護士を儲けさせるだけの
言いがかり訴訟を増やしています。
その一方で、訴訟費用などまかなえるはずもない
事件の被害者や社会的弱者のために、
権利を守り真実を暴く機能も果たしているのです。


では、何の落ち度もないのに事故にみまわれた
えひめ丸の乗員と行方不明者のご家族が
米国政府と米国海軍を相手取って
訴訟を起すことは可能でしょうか。
法廷で事故の真相を明らかにし、保障を勝ち取ることは
果たして可能なのでしょうか。

軍が起こした事故に関して、
米国政府を訴えること自体は禁止されていません。
但し、いろんな規制や免責の壁が立ちはだかります。

まず、弁護士手数料がが25%に押さえられます。
政府による賠償範囲も狭められ、
政府の被雇用者(潜水艦なら乗組員)による
過失の範囲が非常に狭く解釈されます。

手数料率は低い、賠償金額も押さえられている、
あげくに勝ち目もないような訴訟を
引き受ける弁護士など当然いないわけですね。

前述のいろいろな例のほかにもインターネットで
さまざまな訴訟のデータを検索することができますが、
軍がひきこおこした事故・事件に対して
民間人が訴えたケースは、なかなかみつかりません。
軍人の過失にもとづいて軍と政府を追求するのは
アメリカにおいては非常に難しいことなのです。
(民事での追及が難しい分、軍法会議での追及は
厳しいという制度になっているわけですね)


では、グリーンビルでピクニックに興じていた、
民間人16人に過失はなかったのでしょうか?

浮上の時に舵を握っていた方は軍人ではありません。
バラストタンクのレバーを握っていた方も
軍人ではありません。
決して無理強いされて操縦席に座ったわけでは
ないでしょう。
自分たちに原潜操艦の知識などないことも
認めるでしょう。

彼らに過失がなかったのかどうか、
テレビのインタビューだけで判断することが
真相究明という点からして果たして妥当でしょうか。
またアメリカのハイエナ弁護士なら、
エネルギー業界の実力者を含む16人の顔ぶれに
賠償支払能力の高さも嗅ぎ取ることでしょう。


民間人が舵を握っていた。訴えられるかもしれない。

この一点のみが米国政府と海軍をたった今
大慌てさせている原因なのではないでしょうか。
事故直後は情報が錯綜したものの、
海軍は、その後一貫して真相究明に
真摯に取り組んできているかにみえます。
ただそんな中にあって、唯一拒絶したのが、
乗艦していた民間人16名の氏名の公表だったのです。

2001-03-02-FRI

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