翻訳前のアメリカ。
そのあたりのこと、現地ではどんな感じ?

 
第二回配信
トレッキーズ

何かの/誰かのファンであることの
楽しさ、せつなさ、素晴らしさがよおくわかる傑作、
映画『ギャラクシークエスト』(以下ギャラクエ)
がやっと東京でも公開になり、
単館上映ランキングでは好調を続けているようです。
そこで第二回配信は、この映画の元ネタ、
スタートレックを取り上げたいと思います。

スタートレックは1966年にはじまった、
宇宙船エンタープライズ号の冒険を描く
人気SFTVシリーズで、いまなおTVシリーズと
劇場用映画が製作されつづけています。

『宇宙大作戦』のタイトルで放送された、
オリジナルシリーズが日本では一番有名ですよね。
耳の尖ったヴァルカン星人ミスター・スポックに
「それは論理的でない」と非難されながらも、
極限状態においてあくまで人命優先の決断を下してゆく
カーク船長の熱血司令官ぶりに、
ハラハラさせられた思い出のある方も多いと思います。
(少なくとも一定以上の年齢の方は。)

しかし、そのカーク船長役ウィリアム・シャトナー、
今やアメリカでは、大げさな演技がトレードマークの
暑苦しいおじさんになってしまいました。
コメディアンは彼の演技を物まねしてネタにしています。
無理やり斜視をまね、手を広げて肩をすくめる
「いやんなっちゃうよ」ポーズやら、なにやら、
大げさなしぐさで暑苦しく話す姿を真似るわけです。
FOXネットワークプライムタイム放送のアニメシリーズ
『ファミリーガイ』(シンプソンズのような大人向けの
ギャグが中心の大人向けアニメーションでした)には、
「ウィリアム・シャトナー」がアニメの番組の
ゲストキャラとして何の脈絡もなく突然登場しました。
肩をすくめる、ひざを抱える、逆立ちする、寝転ぶ、
など0.5秒おきくらいに大げさにポーズを変えながら
話したあげく、ストーリーに何の関係もなく去ってゆく
キャラクターでした。
また、彼がCMキャラクターをつとめた
Eコマース企業プライスライン・ドットコムの株価は
他のIT企業の株と歩調をそろえて
昨年、脳死レベルまで急降下してしまいました。
結果、ウィリアム・シャトナー=暑苦しくて間が悪い男、
というイメージを増幅させてしまった感もあります。

ただ、彼の"熱さ"は困ったことに視聴者に伝染するらしく、
トレッキーズ(Trekkies)と呼ばれる、
熱狂的なスタートレックのファンが全米に多数存在します。
彼らの想像を絶する生態を描いた
同名のドキュメンタリー映画も97年に制作されました。
「裏ギャラクエ」ともいえるこのドキュメンタリーの
内容を少し紹介させてください。

ファンが大挙して集い、シリーズの出演者たちがが
ゲストとして招かれるスタートレックコンベンションが、
6月以降の夏休み期間になると
毎週末かならず、全米のどこかで開催されます。
そこにはおきまりのコスプレのファンが大量発生しますが、
トレッキーたちのなかにはコンベンション会場のみでの
コスプレには飽き足らない人たちもいます。

歯医者さん本人以下、看護婦さん全員、事務員全員が
白衣の変わりにスタートレックのクルーの制服をまとい、
クリニックの内装をスタートレック風に改装してしまった
歯医者さんがフロリダにいます。
メタリックでまとめられ、スタートレックのグッズで
埋め尽くされた診療室の天井には、
「転送装置」まで(丸いオレンジ色の照明が三つ
埋め込んであるだけですが)あり、メカニカルな歯科の
治療機材が絶妙のマッチングをみせています。

また、クリントン元大統領の任期中に発覚した
アーカンソー州の土地開発疑惑、
ホワイトウォーター事件の陪審員としてなんと、
トレッキーのおばさんが選ばれてしまいました。
彼女はスタートレックのクルーの制服を堂々と着用して
陪審員として公判に参加し続け注目を浴びましたが、
服装について質問されても
「これが司令官としての私の義務ですから」
と屈託がありません。
(何の"司令官"なのかは不明ですか…)

他には、シリーズに登場するエイリアン種族、
クリンゴンの言語を作り上げ、
クリンゴン語教室を開いて言語習得に励むグループ、
勢いあまって「ジェームズ・カーク」と
改名してしまった男性、
"クルーの妻"というコンセプトの
女装コスプレを楽しむ(おそらく)ゲイの男性・・・
などいろんな人たちがドキュメンタリーには登場します。

なぜここまでの支持を
スタートレックだけが受けるのでしょうか? 
オリジナルシリーズのセクシーな黒人女性クルー、
ウラ役のニシェル・ニコルズのインタビューに、
アメリカ人にスタートレックが支持される理由の
一端が垣間みえます。

「最初のシリーズがはじまったときなんですけど、
 当時8歳と9歳くらいだった女の子がみていたんですって。
 その内の一人から何年もあとに聞いた話よ。

 『テレビであなたの姿を見て、
  興奮のあまり家の中をを走り回りました。
  "来て来て!黒人の女の人がテレビにでてる!
  それも、家政婦の役なんかじゃない!"って。
  私は、まさにその瞬間その場で、
  なりたいものなんにだってなれるんだ! ってわかったの』

 そして、彼女はスーパースターになるって決心して、
 実現したのね。彼女の名前はウーピー・ゴールドバーグ」。

ちょっと確認してみたのですが、
キング牧師が ワシントン大行進で
「私には夢がある」と演説したのが63年。
人種差別撤廃をうたった公民権法制定が64年のことです。
今でこそ笑顔で逸話をかたるニシェルですが、
66年の放送開始当時、テレビで黒人女性が
家政婦以外の役で登場するというのは、
まだまだ本当に例がなかったらしいのです。

結果、彼女は当時人種差別的な視聴者の手紙に悩まされ、
一度はパラマウントへ降番を申し入れたこともありました。
その彼女を説得しておもいとどまらせたのは、
ウラがアメリカ社会に与えるイメージの重要さを察知した、
マーチン・ルーサー・キングJr.その人だったそうです。
エンタープライズ号はキング牧師の
「夢」すら乗せて航海を続けてきたわけですね。

ちなみに、初の黒人女性スペースシャトルクルー、
メイ・キャロル・ジェイムソンもウラをTVでみて憧れ、
本当の宇宙飛行士になってしまった人なのだそうです。

最近のアメリカではときどき怪しく感じることもある、
社会の多様性に対する寛容さ、そして、
人生の可能性に対するロマンや意志のようなものを
トレッキーたちは彼らなりに感じ、
彼らなりの方法で実践しているのだと思います。
スタートレックの世界をそれぞれの人生に
どんな形でとりいれるにせよ、まったく手加減しないのが
彼らの困ったところ、というか、凄いところですね。

日本のオタッキーのみなさんも、トレッキーに負けずに
世界制覇を目指ましょうね。

それでは第三回配信まで、ごきげんよう。

2001-02-23-FRI

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