山下 二兎を追う者。


こんにちは、山下です。
ついに最後の帽子教室となりました。

前回も様々な失敗を重ね、
遅れに遅れていたぼくの帽子ですが、
最後の教室をむかえるにあたり、
空き時間や週末を活用して
できる限りのことを進めておきました。

フェイクファーの生地はご覧のように切り抜いて、



慣れぬミシンを、もたもたと動かし、



縫えるところまでは縫っておきました。

こうして作業を進めていく過程で、
当初の予定を変更するポイントがいくつか訪れています。

まず、
「うさぎの耳を収納できる」
というしくみ。
これを無しにいたしました。

つまり、耳は出しっぱなしです。

この変更の第一の理由は、素材の問題でした。
厚手のフェイクファーを収納しようと
帽子の中にぐいぐい押し込めば、これ、ぼっこりと
頭のてっぺんにこぶのようなかたまりができてしまうことが
容易に予測できたのです。
ならば、出しっぱなしでいこうではないか、
ひとの目を気にすることはもうよそう、
耳出し上等! と。

続いてちいさな変更点。
くちの部分をこんなふうにしようと思ったのですが、



これも中止。
なぜならば、ふわっふわのフェイクファーで縫えば、
こうした細かい縫い目はまったく見えなくなることが
たやすく予想できたからでした。

そして最後に、
もっとも大きく変更しようと思ったのは、
「制作する帽子の数」です。

ふたつ、作るつもりでした。

フェクファーの帽子をメインに、
その練習用として最初に購入した
このチェックの布でも、作るつもりでした。



周囲に宣言もしていたのです。
モギさんも2点作ると言ってたし。
「じゃあぼくもふたつ作りますよ、
 モギさん、一緒にがんばりましょう!」と。

しかし、作業を進めるうちにぼくは思い直します。
最後の帽子教室でふたつを仕上げるのは
あまり現実的ではないのではないか?
ここはひとつ、一点の帽子に集中したほうが
良いものができるにちがいありませんよ?
有名なことわざが、脳内でひらめきました。

「二兎を追う者は一兎をも得ず」

そう、同時にふたつを得ようとすれば、
どちらの成功も得られないのです!
すばらしい「気づき」だと思いました。
最終回のタイトルをそのまま
「二兎を追う者は一兎をも得ず」として、
ひとつの帽子を作ったことをばっちりレポートすれば、
最後にふさわしいまとまりのよい記事になります!

というわけで、
モギさん、モギさん、
かくかくしかじかの理由でですね、
ぼくはやっぱり帽子をひとつだけ作ることにしました。


「‥‥ふ〜ん、そうなんだぁ。
 ま、あっしはふたつ作りますけどね、口約通り。
 つまりさ、山下さんは、うそをついたんだ」



え? い、いや、そういうわけではなくて‥‥。


「‥‥(ミシンを踏む)」



うそとか、そういうことではなくてですね‥‥。


「‥‥(ミシンを踏む)」



もちろんめんどくさいという理由でもなくて‥‥。


「‥‥(ミシンを踏む)」



そのほうがていねいにできるかな、と‥‥。


「‥‥(立ち上がり、己の切腹帽をかぶる)」




「こいつに加えてもういっこ、
 都合ふたつを、あっしは縫いあげる!
 なぜなら、約束をしたからじゃあ!!」
   
‥‥‥‥‥‥。

‥‥‥‥‥‥‥‥。

‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥。



ふたつ作りましたー。

戦友のようにわかちあっていた
「ふたつ作る」という苦労から
自分ひとりだけ抜けようとしたことは、
たしかにいけないことでした。
約束は、守りましょう。

ともあれ、
ふたつ作ると再度決心したことで、
この日の作業は
無我夢中のものになったのでありました。

フェイクファーのほうの、耳の裏を切り抜き。
(チェックにしました)



こんな具合で縫い合わせたり、



できる限りのことを進めていましたら、
スソ先生が到着。
さっそく見ていただきました。



スソ先生「すごーい! できてるじゃないですかあ。
     あ、裏地もちゃんと、ふたつ分ですね」



スソ先生「じゃあ、表地と裏地を縫い合わせましょう。
     もうすぐ完成ですよ」


もうすぐ完成ですよ‥‥。
この、甘美なる言葉の響きに、
がぜんこころは奮い立ち。
山下はミシンを踏みます!



ががが、がーーーーー(ミシンの音)。
ががががががががーーーーーーーーーー。

はあ、はあ、はあ‥‥。

スソ先生「山下さん、ちょっと落ち着きましょう。
     ボビンの糸が切れています」



はあ、はあ、はあ‥‥。
‥‥折れない! こころが折れない!
からっぽのボビンでたくさん縫い進んで、
多くの時間と神経を費やしたというのに、
いつものようにこころが折れない!

ソーイング・ハイとでもいうのでしょうか、
目前のゴールに向けて、縫う! 縫う! 縫う!



で、できた? これ、できたかも?
か、かぶる? かぶってみる?



て、手が震えます。
よいしょ‥‥こうかな? どうかな?



ボタンをつけて、と。
‥‥で、できたかもしれない。
ほら。



わぁ‥‥。
と、感動している場合ではありません。
もういっこも作らないと。
縫う! 縫う! 縫う!



そして‥‥。



スソ先生「かぶってみましょうね」



スソ先生「うしろもしゃきっとかぶりましょう」



ど、ど、ど、どうでしょうか先生!?

スソ先生「はい。いいと思います」

‥‥完成、ということで。

スソ先生「よくがんばりましたよねー」

はああああ〜。

スソ先生「すごいため息ですね(笑)」

すみません、失礼しました。
いまのは、感無量のため息でした。
なんかこう、一気に、
ここままでのことを思い出して‥‥。

スソ先生「お疲れさまでした(笑)」

スソ先生、
この、のろまな生徒に
ここまで付き合ってくださって、
ほんっとうに、ありがとうございました!
もう、正直、ここまで大変だとも思いませんでしたし、
同時にここまで自分が縫えるとも思いませんでした。
あらゆる意味で、がんばれたのはスソさんのおかげです。

スソ先生「いやいや、そんなことないですって(笑)」

自分自身、帽子は好きでよくかぶっていたんですが、
ひとつの帽子に、こんなに工夫が詰まっていたとは
今まで思いもしませんでした。
これからは感謝してかぶります!

スソ先生「気軽にかぶってください、気軽に(笑)」

あと、帽子作りを通して肝に銘じたことがあります。

スソ先生「なんでしょう?」

急がば回れ、ということです。

スソ先生「ああ、なるほど」

洋裁は、急がば回れ。
ですよね?

スソ先生「そうですね」

ありがとうございました。
では、最後に卒業写真を記念に。
スソさんは、こっちをかぶってください。
‥‥あ、似合いますね(笑)。
じゃ、撮ってもらいますよー。
あっち向きましょー。



スソ先生のアドバイス
お疲れさまでした。
山下さんの帽子は微妙な曲線を
作らなくてはいけなくて、
そこが大丈夫かなって心配だったんですが、
やり遂げましたね!
最後のほうは、急いでいたのに
細かい部分で高い目標を持ちだしたりして、
びっくりしましたよ?!
うさぎの帽子、すごくいいと思います。
こんどこれをかぶって
一緒にカフェでも行きましょう、いっそ!

とじる