この度「子犬のカイがやって来て」という本が出版されました。

この本は、「きものまわり」「きもの熱」で知られる清野恵里子さんが、
子犬を飼いはじめたことをきっかけに、
これまでにいた7匹の犬たちの巻き起こした事件やエピソードを綴ったもので、
わたし(スソアキコ)が絵を添えています。

ここでは、わたしが絵を描くことになったところから、
本が完成するまでに至る約半年間の制作過程を、
日記風に(特別に写真も)ご紹介いたします。

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「子犬のカイがやって来て」
文:清野恵里子  絵:スソアキコ
幻冬舎より全国の書店にて7月12日に発売です。
本体価格1300円
よろしくお願い致します!

2005年11月25日、清野さんから電話。
犬たちのことを書いてみようと思っている、
本を想定してその挿画を描いて欲しいという内容だった。
架空の生き物を描くことが多く、現実の生き物を描くことがあまりないので、
すこし不安。ひとまず、犬たちに会ってみようということになった。

11月30日10時、清野さんのお宅に到着。
これまで何度か犬たちには会っているが、
今回はモデルとして観察するという使命があるのですこし仕事モード。
カイ、ブブ、マオ、そして闘病中のテラに会う。

左からテラ、カイ、ブブ、そして無惨なソファー
部屋のあちこちにぼろぼろになったものを発見。犬たちの破壊力はすさまじい。

玄関の窓に並んぶ犬たちのボール

角がなくなった階段

●登場人物。。。
清野さん=清野 恵里子(せいの えりこ)
文筆家。群馬県生まれ。雑誌を中心に、企画、構成、執筆活動を行っている。
著書に、雑誌連載をまとめた『樋口可南子のきものまわり』『きもの熱』
(ともに集英社刊)がある。
91年に私の帽子の個展に来てくださったことがきっかけで知り合い、
それ以降公私ともにお世話になっている。
清野さんが文筆家になり、
私が絵を描くことになるとは全く思いがけないことになった。

清野さんに、いつもの散歩コースを歩いてもらうことにした。まずはカイと。
住宅地を抜け多摩川べりヘと向かう。首輪をはずすと元気に走り回る。
はじめて会った犬でも、すぐに仲良くなってじゃれあい、ひとしきり運動し、
ウンチもして家へ戻る。つぎはブブとマオ。2匹はお年寄りなのでゆっくりペース。
ご近所の犬にあいさつしながらのんびりと歩く。
ブブはマイペースで、あまり言うことを聞かないというか、聞いていない感じだ。
なだめたりひっぱったりと
短い距離なのに結構な時間がかかっていた。

秋の多摩川

身を乗り出して友だちを探している様子

なにか言いたげ

2005年2月7日、先日の訪問で撮った写真をもとに、すこし犬たちを描いてみることにした。
データをすべてプリントし、面白いと思ったものを数枚選ぶ。
歯ブラシをしているときのカイの表情がうまく撮れていた。

いやいや我慢しているカイ

いつもはもっと太いフェルトペンで描くが、
今回はなんとなくすこし細いペンで描いてみたいと思い、
無印良品の0.7ミリボールペンを選んだ。すべりがほどほどいい感じ。
紙はいつものコピー用紙。
あまり描きこまないラフな感じのままの絵、数枚を南部さんへ宅急便で送る。

写真を並べ描く準備

はじめに描いた数枚、本では使われなかった絵。

●登場人物。。。南部さん=南部 麻子(なんぶ あさこ)
フリーの編集者。北海道生まれ。
『きもの熱』以来、清野さんの本作りに参加している。
子供のころの愛犬アッシュに先立たれて以来◯十年、犬は飼っていないが生来の犬好きが再燃中とのこと。
偶然にも、わたしとは同じ大学で、専攻は違っていたがお互いに見覚えがあるほど。
まさか一緒に仕事をすることになるとは!

2005年12月15日、清野さん南部さんと3人で幻冬舎の篠原さんを訪ねる。
絵と文章を渡し、返事をもらうことになった。
結果がどうであれ、引き続き犬たちの絵をもう少し描き続けようということで
お正月休みに、清野さんの別荘である山の家を訪ねることに決定。

12月17日、無印のペンを買いにいったところ、廃盤になったと言われ愕然とする。
今さら別のペンにしたくない。店員になんとか在庫を探して欲しいと泣きをいれ、
新宿店にあることが判明。その足で向かい、買い占める。
30本確保、これでなんとかなるだろう。

無印良品のペン

清野さんが書いた文に、パトカー出動のエピソードがある。
パトカーってどんな形だったっけ?
デジカメを常に持ち歩き、見かけたらすぐに撮ることにしたが、
見かけても警官の視線が気になってなかなかカメラを向けられない。
別に怪しいものではありませんと心の中でつぶやいて、
やっと撮ることができ、そのシーンもなんとか描けた。

ピンぼけのパトカー

●登場人物。。。篠原さん=篠原 一朗(しのはら いちろう)
         
編集者。東京都生まれ。小学校時代をスリランカで過ごす。
新卒でゼネコンに入社し、現場監督などに従事した後、幻冬舎に。         
これまで担当した作品に『13歳のハローワーク』『半島を出よ』など。
現在、トイプードルを飼っているが、世話は両親に押し付けているとのこと。
また、清野さんからはキックボクシング観戦を、プーさんからは骨董鑑賞を教わっているそうです。
     
●登場人物。。。プ−さん=清野さんのパートナー。
くまのpoohさんと後姿がそっくりなところから多くの人たちから”プーさん”と呼ばれている。
犬たちを次々と家へ連れてきた張本人。

2006年1月4日、立川からあずさに乗り、小淵沢から小海線に乗り換える。
曇っていたが、山の景色が美しい。
清野さんとプーさんが車で駅に迎えに来てくれ山の家へ。
カイ、ブブ、マオの歓迎をうける。雪は例年より少ないらしい。それでも久しぶりに見る
雪景色は新鮮。犬たちはうれしそうにベランダに積もった雪におしっこをかけている。

八ヶ岳の山並

ベランダにいるカイ

山では、人も犬もゆったりのんびり。東京とは違う時間が流れているようだ。
寝ている写真ばかり撮っているような気がする。
清野さんが動くたびに、ぞろぞろくっついていく犬たちがかわいい。

ブブ

マオとカイ

料理中の清野さんから離れないブブとカイ

1月5日、清野さんは朝からせっせとパソコンに向かっている。
秋に亡くなってしまったテラのことを書きながら目を赤くしていた。
足元のカイは清野さんに甘えるようにくっついて、
なんだか、なぐさめているようにも見える。

顔が腫れてムーミンになってしまったテラ

足元のカイ

今日はとってもいいお天気。空が青いので雪に反射して部屋の中まで青くなる。

澄みわたる空

3匹の朝
             
犬たちのごはんは1日に1回だけ。
おおきな器(鍋?)にそれぞれのカラダにあったごはんが用意された。

食べる犬たち

滞在中、犬たちの”けんか”を見ることができなかった。
1度だけブブとカイがすこし歯をむいてにらみあうという事態があって、
シャッターチャンスとばかりカメラをむけたが、遅かった。清野さんが馴れた感じで
2匹を引き離し、すぐおさまった。
文にはけんかのエピソードがあるので、ちょっと見たかったなあ。

1月5日午後、お昼ごはんのあと湖へ散歩に行く。
湖といっても凍っていて、一見広場のようだ。カイはいつも元気いっぱい。
出会ったおじさんたちを襲って(遊びたがって)
おじさんがあやうくよろけて転びそうになったので、
清野さんは慌ててカイを連れ戻し叱っている。
ブブやマオはあちこちの匂いを嗅ぐのに忙しい様子。

散歩する3匹

雪景色のなかのカイ

ボールを加えて全速力で走る

しかられるカイ

匂いかぎが好きなブブとマオ


夕方、プーさんに運転してもらって駅へ。
短い滞在だったけれど、2人と犬たちの生活をたっぷり見ることができたので、
絵もなんとかなるだろうと思う。
夕日が射す山並がまた一段ときれいだった。

(177)夕日が射す山並

1月6日、仕事はじめ。
出版は未定だけれど、たくさん写真も撮れたし、清野さんからは続々と文章が送られてきたので、
ふたたび作画にとりかかることにした。
しかし、今はもういない犬たち、ハスキーのノエルや柴のポチやハナコ、
若い頃のテラやブブのことがわからないので手が止まってしまう。
想像だけで描くのはむずかしい。清野さんに昔の写真を送って欲しいと電話する。
逆に、カイの写真は豊富。
清野さんの携帯カメラは、ついつい元気なカイに向けられることが多いようだ。

2004年10月、成田空港に到着したカイと兄妹たち

すぐにブブと仲良くなって

1月10日、さっそく昔の写真や資料が届いた。
文章とは関係ない写真もたくさんあって面白い。
私の知らない15年以上前のプーさんや清野さん、若い犬たち。
ついつい仕事を忘れ見入ってしまう。

昔の写真を並べてみる

山の家近くの湖で遊ぶノエル、ブブ、テラ

エリア

1990年のノエル

1月14日、篠原さんが社内でプレゼンテーションするために、
もっとまとまったかたちになるようにと犬たちのプロフィールを整理することになった。
あらためて8匹全員の絵を描いて南部さんへ送る。

1月27日、清野さんから届いた新しいエピソードにあわせた絵を、
明日までに南部さんへ送らなくてはいけないので、一日中ひたすら描く。
手が痛い!プ−さんからもっとブブを若々しく、
とかプロフィールのポチやハナコが似ていないという指摘もあったので、プレッシャー!

ポチ

ハナコ

けんかのシーンは、歯をむいた顔の写真とじゃれあっている写真を組み合わせて再現。
しかしこれがうまくいきすぎて、こまかく描いたところ他の絵とテイストが違ってしまった。
残念ながら没絵になった。

けんかシーンの没絵

2月6日、外出中に清野さんから朗報。幻冬舎から出版決定という知らせ。
通常よりも絵が多い本に、ということが決まり、もっと描かなければ足りないとのこと。
とはいっても、私は4月末の帽子展にむけて制作に入ってしまうため、絵を描く時間があまりない。
結局、その間清野さんに新たな文章を書きためてもらおう、ということになった。

4月19日、帽子の個展会場に、
幻冬舎の篠原さん、清野さん、南部さんがそろって来てくれ、
具体的な本の打ち合わせをする。清野さんにはさらに2つエピソード書くという目標が、
私には追加の作画数の表が渡された。
あと30点ぐらいは必要ということが判明。思っていた以上に多かったので動揺。
締め切りはゴールデンウィークあけということになった。
うーむ、休みなしなのか?!

渡された作画リスト

この帽子展期間中、来客がとだえた時などに、「ぷっぷちゃん」の修理をした。
これは清野さんの犬、ブブの大切なぬいぐるみで、ときどき修理をしてあげているのだが、
今回は特にひどい状態。片足はちぎれ、おなかのワタも減って細くなっていた。
修理後の「新ぷっぷちゃん」とブブの対面については、是非本でご確認ください。

新ぷっぷちゃん

くわえたままで散歩するブブ

5月1日、ゴールデンウィーク。東京はすこし静か。
清野さんと電話でちょっとグチ(「休みなのにねー」みたいなこと)を言い合ってから作業開始。
もう一度、写真を並べたり文を読みなおしたりして、描きたいところをイメージ。
手が痛くなるまで描き、もう嫌だ!と思う手前で止めてうちに帰る。
それを4日間ぐらい繰り返した。

本の中では書かれていなかったが、
昨年の冬、多和田さんのご紹介によりカイは雌のラブラドル(ラナ)と交配し、
今年4月8日に子供が7匹生まれたそうだ。
みんな元気に育っていて、特徴ある小さな目のあたりはカイによく似ている気がする。

カイの子供達の様子はこちらのブログでご覧になれます。http://usakaori.exblog.jp/

●登場人物。。。
多和田さん=多和田 悟(たわだ さとる)
日本盲導犬協会 盲導犬訓練士学校 教務長。
ベストセラー「盲導犬クィールの一生」の訓練士としても有名な人。
多和田さんとの偶然の出会いで、彼のイギリスの友人ボブさんのところから、
優秀な盲導犬の息子(つまりカイ)が清野さんちにやってくることに。
(清野さんによると、譲り受けるにあたっては、飼い主としての厳正なる審査があったとか。。。)

5月4日、最近の犬たちのエピソードに登場する、お友達犬(ソニ−)の写真が送られてきた。
ビロードのような毛並みで、りっぱなプロポーションである。
カイとじゃれあっている様子を描いた。

仲良しのソニーと
   
5月15日、篠原さん、南部さん、清野さんと4人で装幀家の鈴木成一さんの事務所に伺う。
絵をすべて預けたので、やっと終わったぞ!という喜びの気持ちが湧いてくる。

ところが帰り道、タイトルをもう一度練り直そうという意見が出て、
宿題として各自5つタイトルを考えよということに。
数日間、皆あれこれと知恵を絞り堤出したものの、
どれも清野さんの納得できるものがなく、再考の末「子犬のカイがやって来て」でいこうということに。
この時にプーさんから出た「犬に笑い、犬に泣き。」は見事、帯(おび)に採用されることになったので、
まんざら無駄ではなかったようだ。

6月5日、サッカー観戦用にドイツへ行く知人のための帽子を制作中。
出発まであまり時間がないので、急ピッチに。そんな最中、南部さんから電話が。
カバー用にもう何枚かカイの絵が必要になったということ。
すごく言いにくそうな様子で、逆にちょっと笑ってしまった。
本文の絵が終わった時に、「もうこれ以上1枚も描けない」と大袈裟にさけんだことを憶えていて、
気にしてくれたのだろう。
あともう一歩か。。。。
とうとう梅雨入り、なんとなくアトリエの庭の紫陽花をながめたりした。

日本チャチャチャ!

紫陽花をガラス越しに

6月10日、カバー用のカイを描くため、
返却のためにと整理し終わっていた写真を再びとり出してみる。
多摩川沿いをのんびり歩くカイの写真などをあらためてながめる。
ちょっと小さな目、上目づかいの眼差し、まゆのあたりの動きなど、ほんとにひょうきんな顔である。

夕暮れ時の散歩風景

おちゃめなカイの眼差し

表紙用の絵下書き

6月15日、このホームページにアップする文章と写真選びに着手。
清野さんに写真をチェックしてもらうが、「髪がぼうぼうに見える」という理由から1枚没になる。
そういえば、本の絵に関しても、もっと美人にとかもっとスマートにとか言われたのだった。
しかし、あまり実物に忠実ではないまま提出してしまったので、多少恨まれることだろう。
はじめの五話がまとまったので、宮原くんに送信。

●登場人物。。。
宮原くん=宮原嵩生(みやはらたかお)
大学の同級生のアートディレクター。
『スソさんのせかい』の企画・デザインを当初から担当してもらっている。

6月23日夜、とうとうカバーデザインが決定。
南部さんに鈴木さんから届いたファックスを見せてもらう。カイの絵が4点も使われている。
1点かなあと思っていたので、すこしびっくり。帯の文字も力強い。
色はどうなるのだろう?白だろうか?色の校正は来週ということでおあづけ。
 
6月29日、カバーの校正がでたよ、と清野さんから写真が送信されてきた。
からし色は予想外だったが、大人っぽくて素敵な感じだ。
帯の背のところに、ちょこんと絵がはいっているところがうれしいおまけ。

校正刷りのカバー

目と鼻が

6月29日、夕方バイク便で絵が返却。
鈴木さんができるだけ載せてくださったので、使われなかった絵はごくこくわずか。
そのなかの3枚をご紹介します。

赤ちゃんのカイ、かわいいというより。。。  

散歩中のほのぼのシーン

テラのカッパ姿

7月5日、店頭で使うPOPを手描きでつくることに。
篠原さんによると、40から50枚ぐらいは必要ということなので、
カラーコピーした写真をコラージュ。
こういう作業って小学生になったような気分になって、ついついはまってしまうものです。

夕方、見本誌があがりましたという連絡で、一同清野さんの事務所に集合。
インクの匂いぷんぷん刷り立てほやほやを篠原さんから受け取る。
とうとう本ができた!!という喜びをみんなで一緒に分かち合い、そのまま打ち上げとなった。
カバーの中にもカイ!きょろりとした表情で輪になって並んでいます。

7月6日、さあ、ほんとうにこれでおしまい、と思い写真を箱に入れていたら、
桶をくわえているカイの写真が出てきた。あんまりおかしいのでくわえるシリーズで。

桶をくわえる

スリッパをくわえる

長靴をくわえる
          


***日誌は一応今日でおしまいですが、
   なにか本に関する出来事があったらまた更新するかもしれません。
   書店で見かけたら、是非手に取って、できればレジへむかってください。
   本の感想などをメールでいただけたらうれしいです。