ほぼ日刊イトイ新聞 フィンランドのおじさんになる方法。

第32回 森のこと、そしてフィンランドの森の恵みのこと 森下圭子

フィンランドは昔から「森と湖」の国と呼ばれています。
湖は20万近くあるし、森は森で年々増えているのです。
増えるって‥‥ですよね。
実はフィンランドの森って原生林でなく、
人の手で育てられているものが多いのです。
森の木々が外貨を得るきっかけになってくれ、
それから森の木々の価値を高めようと
製材をはじめとする技術開発が行われたことで、
フィンランドから世界的な企業が
誕生するまでになりました。
森サマサマ、森を大切にしなくっちゃです。
森を所有することで個人が得られる利益は、
税制など国レベルで熟慮された制度に支えられています。
森の所有を国でおススメしているわけですね。
だから私有林も多く、
ひとりひとりが気にかける森があちこちにある。
それで森がいい具合に成長し続けているのです。
フィンランドの森は、
人々の精神的な支えだっただけでなく、
国や社会を支える一端も担っていました。

自然条件の厳しい中で生活する人々の暮らしぶりは、
いかに自然と共存するかの知恵をはぐくむ歴史を
垣間見ているようでもあります。

動物たちだけでなく、
人々も森の恵みを大事な栄養源にしています。
森の草花やベリー、きのこ。
北欧には「自然享受権」という
誰の所有であっても森に自由に入り、
ベリーを摘んだりきのこ狩りを
楽しむことができるんです
(伐採や狩りは勝手にやっちゃダメ)。
笑っちゃうくらいに真剣な人も多くて、
きのこの群生スポットを見つけたら大騒ぎは禁物です。
息をひそめて静かに速やかに摘む、さらに摘む。
で大騒ぎするのは後で、家に戻ってたっぷりと。
秘密のベリースポットやきのこスポットを
教えてくれたら、その人はあなたのことを
心から好きで信頼しているから、
って言ってもいいかもしれません。

春先から、森を散策しながら、
次々と食卓にあがるものを探してきます。
春、ネトルはスープに、
トウヒの新芽はシロップに、
そしてハーブティーになる数々の草花を。
夏はベリーのシーズンです。
野いちご、きいちご(ラズベリー)、
ブルーベリー、リンゴンベリー、
クラウドベリーにクランベリー。
ベリーは秋にもかかってくるので、そうなると、
ベリーと茸を同時に追うのです。
これが案外難しい、けど、楽しい。
ブルーベリーはかつて染料にも使われていました。
摘んでいると手がどんどん染まっていって、
洗ってもなかなか落ちないくらいです。
おまけにブルーベリーときたら
目をつむったときの残像がすごくて、
なかなか寝つけないくらいになったりします。
森の恵み、新鮮なものを食べられるときは
生とか、より鮮度を楽しめるようないただき方を。
また長い冬にむけ、たくさんのベリーやきのこを
昔ながらの方法で保存したりします。

森歩きは決して「食べ物」を
探しているだけではないです。
ときにピクニックするだけだったり、
ただただ歩いているのが楽しかったり。
そしてよく行くような森で、
人は自分だけのとっておきの
「おやすみスポット」なんてのを見つけていたりします。
動物が自分だけの安心で安全な場を知っているみたいに、
人にもそれぞれ「ここぞ」の場所があるんです。
少し小高いところにあって、
湖が一望できるような場所とか。
そこは静かで自然の音だけがふわふわと漂っています。
風がやさしく体を覆い、その緑の香りに包まれます。
静かな湖の水面をきらきらと踊る陽の光を眺めながら、
コーヒーを飲んだり、お菓子を食べたり昼寝をしたり。

ひとりきりで自分だけの場所をみつけ、
水と緑に囲まれた、そんな時間を過ごしていると、
なぜか動物との不思議な交流が
突然訪れるような気がしないでもありません。
みなさん、ひとつくらい、
不思議な動物との出会いを持ってるんです‥‥
それをまたおじさんとかが嬉しそうに
話してくれるんです。
森に武勇伝あり、ですね。
あ、私もあるか。
朝、なんとなく外にでると、
そのたびウサギが遊びにきてくれた、とか、
小鹿が「こっちよ」と誘ってきたとか。
でもおじさんたちっていうのは、
オオヤマネコとか大きなヘラジカとか、
不思議な出会いの規模がすごいです。
私が小さすぎるのか。

2009-05-18-MON
morihita

とじる

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