きこりって、どんな仕事なんですか?
とたずねると、レオさんは
にっこり笑ってこう言います。
「木を倒して、集める仕事だよ」
とてもシンプルなことに思えますけれど、
じっさいは、倒して集めるだけが仕事ではありません。
種を蒔き苗木を育て管理を行ない、
間引きしながら「木を育てていく」のも、大事な仕事。
そうしなければ、どんどん森が
なくなっていってしまいます。
もとは原生林だったフィンランドの森、
じつは現在、そのほとんどが植林です。
たいせつな資源として、枯渇しないように、
国と、きこり、そして国民が協力して、
ていねいに管理をつづけ、守り、
あたらしい木を育ててきた結果です。
最初、そのことを、
あまりよく理解していなかったぼくは、
むかしのきこりが「出来高制」だった
(切ったぶんだけお金がもらえる)と聞き、
「じゃあ、たくさん切れば、
たくさん儲かったんですね!」
なんて、言ってしまいました。
レオさんは、そのことばに、
まったく怒るふうではありませんでしたが、
まっすぐと窓の外をみて、
「それは、だめだ」
と言いました。
「木を、切ったままだなんて、
ぜったいに、してはいけないことだよ。
それは、強姦と同じことだ」
とても強い言葉で、ぼくを諭しました。

きこりのレオさんがキヒニオに移り住んだのは、
13歳のときのこと。
両親とふたりの兄の5人家族でした。
5ヘクタールを超える農地をもち、
森を入れたら17ヘクタールだったという
農家の子どもとして生まれたレオさん。
7キロの通学路を通い、
こども時代から夏はずっと
森の仕事をしていたといいますから、
「うまれながらの、きこり」
と言ってもいいかもしれません。
いまや、機械化・コンピュータ化されている
きこりの仕事ですが、レオさんが若いころは、
「斧を担いで、歩いて森へ」という世界。
切った木を運ぶには馬を使っていたそうです。
当時は、切るのは冬、
それを運び、あたらしい木を植えるのは夏、
というサイクル。
「昔のチェーンソーは、15キロあったからね。
そして雪は、1メートル積もるんだ」
そんな冬のフィンランドの森での仕事、
さぞ、きついものだったと想像します。
お父さんから技術をまなぶいっぽうで、
森を管理する仕事をしていた母方の叔父さんの影響で
農業も、林業も、それを管理することも、
レオさんは、習得していきます。
そして15歳から18歳までは、
フィンランドで始めてパックツアーをつくった
「ケーハネンさん」という人のオフィスで、
森を見たいお客さんを案内する仕事をします。
「そのあと、公務員になったんだよ」
と言うので驚きましたが、
それは「きこりになったんだよ」という意味。
フィンランドのきこりは、全員が、
森林管理局に所属する公務員なのでした。
そして25年間
「公務員としてのきこり」をつとめたあと、
(ちなみに、夏季にはピート採掘の仕事も
していたそうです)
レオさんは独立します。
森で必要な機械を揃え、
労働力と機械をセットで提供する仕事を、
兄弟で始めたのです。
かつて4万6000人いたフィンランドのきこりは、
現在は1万2000人にまで減っていて、
そのうちの半分が、「森を管理・設計」する仕事。
じっさいに体をうごかす、きつい仕事をするきこりは、
わずか6000人しかしません。
レオさんは、もちろん自分のからだを使いますが、
それとともに、管理の仕事もできる人。
自分の森だけではなく、
森に関するあらゆる相談がレオさんのもとに入り、
そのひとつひとつを、じつにていねいに、
解決していく。そんな毎日をおくっています。
「ぜんぶ、自分でやることだよ。
机に向かって本を読むよりも、
体をつかうこと。
それが、学ぶということなんだ」

村の誰もが頼り、愛しているレオさん。
いつも笑っていて、いつも手を動かしていて、
ひとときも「ぼんやり」なんてしていません。
たぶん、眠っているとき以外は、
ずっと体を動かしているんだと思います。
(サウナでも、じっとしていることはなかったです!)
毎日暗いうちに起きて、自分の農園をつくり、
森の仕事を続けています。
家は自分で建てますし、薪も自分でつくります。
趣味と実益をかねた釣りにもよく出かけますし、
いまは忙しいからやっていませんが、
ヘラジカ撃ちも、以前は、していたそうです。
洋服はほとんど同じものを着ているように見えます。
あ、でもとても清潔です。
たぶん、数着、同じものがあるんだと思います。
ハーモニカの名手で、サウナが好き。
ごはんも、とてもていねいに食べます。
人気のある人なので、訊ねてくる友だちが
とても多いのですが、
でも、レオさんには、どこか孤独な影があります。
いつも笑っているのに、
なぜか「ひとり」の雰囲気がある。
寂しそうという意味ではありません。
ひとりでいることがとても好き、
というふうに思える。
そして、いまの状態、
からだにいいものをつくって食べて、
一所懸命働く、ひとりの生活に、
とても満足しているように見えます。
家族はいます。
ぼくらが「おかみさん」と呼んでいる女性が、
レオさんの住まいのすぐ前の
とてもキュートな別棟(もちろんレオさんが建てました)
に住んでいて、
パンを焼いたりスープをつくったり、
部屋の片づけをしたりしています。
でも、ぼくらがいままで会ってきた
「夫婦」の関係には見えない。
かといって仕事としてのパートナー、
というわけではない。
私生活でパートナーどうしなのは
間違いないんですけれど、
ふたりとも、とても自立した雰囲気があるのです。
レオさんのおかみさんは
独特なキャラクターを持っていて、
人が苦手でしょうがないけど、
とても、人には興味がある。
こころをゆるすと、とても親しげにしてくれる、
というタイプのひと。
まるでムーミン谷の住人のようです。
写真が苦手だということで、画像が残っていないので、
じっさいにお会いしたのにもかかわらず、
ぼくのなかでは
「あの人は、ほんとうに、いたんだろうか?!」
なんて、思えてくるほどなんです。
なかなか訊きづらいことだったんですが、
だいぶ、うちとけたあと、レオさんに
「お二人のなれそめなんて聞いてもいいですか?」
って振ってみました。
レオさんはこんなふうに言いました。
「わが家は、一匹狼が、2ひき、
縁あって、一緒にいる。
そんな感じかな」
なんで籍を入れないんですかとか
パートナーシップ制度のほうがどういいんですかなんて
いろいろ訊いてみたい気持ちもありましたが、
「縁あって、一緒にいる」
それでじゅうぶんなのかもしれない、
と思いました。
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