経済はミステリー。
末永徹が経済記事の謎を解く。

第44回 選挙と市場

税金の使われ方は、選挙で決まる。
税金以外のお金の使われ方は、市場で決まる。 

株式市場を通じて企業は資金を集める。
株式市場は、私たちが
「みんなが欲しがるモノやサービスを
 効率的に提供してくれる企業」
を選ぶための制度である。
そのために一番大切なのは、
企業の経営内容がわかりやすく公開されていること。

企業の経営内容は、外から見ても、なかなかわからない。
本社の建物が立派であるとか、
社員が忙しそうにしているとか、
そういうことは外から見ただけでもわかる。
しかし、外見と中身が必ずしも一致しないのは、
企業も人も同じ。

そういう時、まず、考えられる方法は、
「自分より、その人(企業)のことを
 よく知っていると思われる人の意見を聞く」
ことだろう。
人のことを知りたかったら「友達」だし、
企業のことを知りたかったら「証券会社」だ。

しかし、あなたが知らないことは、
案外、誰も知らないものなのである。
「自分が思いついたこと」はなかなか信じられないのに、
他人から聞かされた「その人が思いついたこと」は
ついつい信じてしまう。
実に不思議だけれど、ありがちですね。

実は、「他人」は、
あまりものを知らないだけではなくて、
自分の目的のために、
知らないのに知ったかぶりをしたり、
知っていてもウソをついたりもする。
証券会社の目的は、
「あなたを株で儲けさせる」ことではなくて、
「あなたに手数料を払ってもらう」ことです。

「証券会社の利益」と
「あなたの利益」はぜんぜん一致しない。
抜け道を知らないタクシーの運転手や
一発で直せない下手な歯医者さんのほうが、
支払う料金が高くなってしまうのと似ている。

日本でも、アメリカでも、証券会社は、
知ったかぶりをしたりウソをついたりして
ITバブルをあおった。
ただ、アメリカでは、既に、制度の改革が始まり、
タチの悪かった証券会社の社員は責任を追求されている。
アメリカ人の「悔い改め」が早くて立派なのは、
やっぱり、キリスト教の影響なんだろうか?
それに比べて日本人は・・・とは、言いますまい。

さて、証券会社の言うことを信じるかどうかは、
あなたが自分の責任において決めることである。
日本の企業会計が信用できないという問題が
別にあるけれど、株式市場では、一応、
「こういう企業に成長してもらいたい」
と思う企業を自由に選んで投資できる。

ところが、選挙では、だれに投票すれば
自分の望むような政治が行なわれるのか、
さっぱりわからない。
7月末の参議院選挙の時点で、
世論調査に現れた国民の多数意見は、
「小泉氏に引き続き政権を担当してもらって
 構造改革をやってほしいが、
 8月15日に靖国神社に公式参拝して欲しくない」
であった。

「主権者」であるはずの国民が、
こんな単純な意思表明もできないのは、
選挙という制度の原理的な欠陥ではないか。
だから、あれだけ大騒ぎしたのに、
みんな投票には行かなかったんだろうね。

2001-08-14-TUE

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