経済はミステリー。
末永徹が経済記事の謎を解く。

第42回 アメリカ史上最大の赤字


先週、アメリカのJDSユニフェーズという会社
(光電子部品のメーカー)が驚くべき決算を発表した。
505億ドル(約6兆2000億円)の赤字。
日本経済新聞は「アメリカ史上最大の赤字」と報じている。
「世界史上最大」ではないのだろうか。
 
それにしても、6兆円の赤字はすごい。
セブン・イレブンの年間売上がおよそ1兆円、
それがそっくり持ち逃げされたって、
1兆円の赤字にしかならないんだから。
バブル崩壊後の日本では、1000億円単位の赤字は
そんなに珍しくなくなったけど、
兆の単位の赤字は聞いた覚えがない。
 
もちろん、これは、「普通の損」ではない。

6兆2000億円の損の
ほとんど(5兆5000億円)は、
通信ベンチャーの買収から生じた「特別損失」だ。
と聞くと、ITバブルに浮かれて買った株が
値下がりして・・・と思われるかもしれないが、
ちょっと違う。

考えてみれば、
買収された会社の株は上場されなくなるから、
値上がりも、値下がりもしない。

そうではなくて、
「買収した時の評価は高過ぎた」
と判断して、その評価を引き下げたのだ。

どっちにしろ、多額の投資が
無駄になったことには変わりはない? 
とも、言えないのである。
なぜかというと、
JDSは、買収する時に現金を使わなかった。
「株式交換」といって、
「買収されて子会社になった通信ベンチャー
 (X社としよう)の株」と
「JDSの株」を交換して、買収した。
ITバブルで値上がりした自社の株を使って、
他のIT企業を買ったのである。

つまり、もともとのX社の株主は、
持っていたX社の株の代わりに
JDSの株を持つことになっただけで、
現金の動きは一切ない
(証券会社が相当な手数料を取ったと思う。
 それを別にすれば)。

もともとのJDSの株主にしてみれば、
JDSの株価が非常に高い時に
新しく株が発行されたのだから、損は損。
ただ、
「借りた現金でX社を買った」のではないことは、
救いである。

そう、日本の企業は、バブルの時に、それをやった。
銀行から借りた金で、土地や株を買い漁った。
買った土地や株の価値は
ほとんどゼロに値下がりしても、借金は消えない。
当然、返せない。
銀行から見れば、不良債権である。

ITバブルは異常だが、株価というものは、
元来、上がったり、下がったりする
(借金して買ったらダメだよ)。
だから、株式交換のほうが優れた方法なのに、
日本では、九九年に商法が改正されるまで、
株式交換による買収はできなかった。

ちょっと専門的な話になるが、
JDSの5兆5000億円の特別損失は
「買収金額とX社の持っている資産との差額」
である「のれん代」の評価の
引き下げによって生まれたものである。

(次回は、「のれん代」の話など)

2001-08-02-THU

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