経済はミステリー。
末永徹が経済記事の謎を解く。

第41回 迷惑の市場


「取引費用ゼロ」の世界を空想してみよう。

オフィスで誰かがタバコを吸う。
みんながニコチンを検出するセンサーを持っていて、
煙が体に触れたら、タバコを吸った人のところに行って
「これだけのニコチンを吸わされた」
と損害賠償を請求する。
タバコを吸った人は、
文句を言わずにサッと決められた金額を支払う。
 
厳密にいえば、「仕事を中断する」という
「取引費用」が生じているが、
そこは、大目に見て下さい。

何が言いたかったかというと、
「取引費用がゼロ」だったら、政府は
「ニコチン1ミリグラム当りの賠償金額」
だけを決めればいい。
現実には、そんな面倒臭い
(取引費用がかかり過ぎる)
取引はできないから、政府は
「オフィスやレストランは禁煙」
というふうに介入する。

しかし、取引費用という
技術的な問題がクリアーできさえすれば、
政府が介入するより、
個人同士でお金をやり取りするほうが
社会全体の利益は大きくなる。
この考え方は、大切である。
 
「お金に換算する」ことを嫌がる人も多いが、
「禁煙」と命令されるよりは、
「吸いたければ、いくらかのお金を払いなさい」
と決められほうが、
タバコを吸いたい人にとってはマシでしょう? 
ニコチンは、生命
(これは、お金に換算できない価値がある)
に関わるから、損害の計算が難しいけれど。

地球温暖化の問題も、
「石油を1リットル燃やしたら、いくらの損害が生ずる」
というはっきりした計算がないから、もめるのだろう。

プラスの価値は市場で値段がつけられるが、
マイナスの価値は計算が難しい。

人が集まって住むと、どうしても、
お互いに迷惑をかけ合ってしまう。
騒音、日照、ゴミなど。
そういう生命に関わらない迷惑の処理は、
「野放し」か「一律禁止」かの
どちらかになりがちである。
もっと、
「迷惑を、お金に換算してやりとりする」
工夫があればいいのに、と思う。
 
騒音は、野放しにされている。
夜中にボリュームを上げて音楽を聴く人は、
いくらか払ってもらいたい。
取引費用がかかり過ぎて、難しいかな。

忙しくて決まった日にゴミを出せない人は、
お金を払って好きな時に出してもいいのではないか。

容積率で建物の高さを制限するより、
周囲の人にお金を払って
「高さ」を買える仕組みを整えたほうがいい。

2001-07-27-FRI

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