経済はミステリー。
末永徹が経済記事の謎を解く。

第34回 錬金術の亡霊

 
一応、現代は「科学の時代」のはずである。
私たちは「科学的な説明」に説得されやすい。
「私たちが感じたり考えたりすることは、
 すべて遺伝子の指示である」と言われたほうが、
「何事も神の思し召し」
と言われるより、納得するでしょう? 
遺伝子を擬人化するのは非科学的だと思うけど。

「無から有は生じない」のは、
科学の根本原理のひとつである。
「宇宙の始まり」まで遡ると
微妙で難しい話になるが、
私たちの身の回りで起きている程度のことは
何にでも「科学的な原因」がある。
雷は放電現象であって、
鬼や神さまが怒っているのではない。
当り前ですよね?

原因が何かわからない場合でも、
「きっと科学的な原因がある」と考える。
不思議な手品を見せられたら感心するが、
「タネもシカケもございません」
という手品師のセリフは絶対に信じない。
手品師は、何もないところから
ハトや千円札を取出すことはできない。
これも、当り前。
反対する人はいないだろう。
 
ところが、ことが経済の話になると、
突然「無から有を生む」錬金術を
真面目に信じる人が現れる。
政府が、タネもシカケもなく、何もないところから
橋や道路や光ファイバー網を作れると信ずる
「大きい政府」主義は、まさに、錬金術の亡霊だ。

政府は錬金術師ではない。
政府に富を生み出す力はない。
政府にできるのは、ある人から
他の人へ富を移すことだけである。
(「そうではない、政府は
  富を生み出すことができる」
 と考える経済学者も、います。
 というより、ひと昔前まで
 世界的に経済学の主流は
 その「ケインズ派」でした。
 日本ではまだ
 「ケインズ派」の力が強いようなので、
 受験勉強などをしている人のために、
 一応、注を入れておきます)
 
政府が一億円の税金を使って
無料道路を作ったとする。この道路は、
「仕事やレジャーでこの道路を通行する人」に、
日本人全員が1円弱を出し合って
贈ったプレゼントである。
正確には、全員が一律ではなくて、
税金を払った割合に応じて負担しているのだが。
 
今、
「誰も通らない道路がどんどん造られる」こ
とが問題になっている。
しかし、そもそも、
「なぜ、国民全員が道路をプレゼントする」
必要があるのか、考えてみたことはありますか? 
 
「道路は公共性があるから」
と、よく言われる。
「地域経済を活性化させる」とかね。

夜中に喉が乾いて、
ミネラル・ウォーターが切れているのに気がついて、
コンビニに買いに行く。
この時、僕はお金を払わずに道路を利用している。
もし、5円でも10円でも
「通行料」が取られるとしたら、
水を買うだけのためには出かけないかもしれない。
道路が経済活動を
全般的に活発にするのは、事実である。

しかし、同じような効果がある鉄道は、
株式会社によって有料サービスが提供されている。
道路と鉄道は何が違うのか? 
「料金の取りやすさ」である。
経済学っぽく言えば、
道路が提供するサービスは「課金コスト」がかさむ。

(続く)

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2001-06-27-WED

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