経済はミステリー。
末永徹が経済記事の謎を解く。

第28回 国力と国民の幸福


フリーターに関する討論会などでは、きまって、
「フリーターは正社員と比べて
 まじめに働かないから困る」
という「現場からの声」が出る。
 
これは、おかしい。
バイト料に見合う分だけの役に立っていないなら、
クビを切ればいい。
そうしないのは、「出来は悪いけど、必要」だから。
バイト料に見合って、
何かしらの役には立っているからである。
 
組織で何かをやる時、
「あまり重要ではないが、必要な人手」というものがある。
「コピー取り」「お茶汲み」「パシリ」
などと呼ばれる類の人手。
そういう仕事は本質的に詰まらない。
「高い意識をもってやれ」
というのは、土台、無理な話だ。
 
企業は、かつて、そういう人手も正社員
(「新人」や「職場の花OL」)でまかなっていた。
それを、「クビを切りやすいように」
バイトに切り替えたのである。
 
まじめに働くかどうかは、
「その人の人間性と仕事のやりがい」
の問題で、バイトか正社員かという
「雇用契約の形式」の問題ではないと思う。
「クビを切られやすいフリーターのほうが一生懸命働く」
ことだって、あるだろう。
 
まじめに働かない人の割合は、
たしかに、増えているかもしれない。
大学生の学力もずいぶん落ちているというし。
それもこれも、日本が豊かになったから。
昔の日本人のほうが勤勉だったとすれば、
それは、人間的に優れていたからではなく、
飢え死にするのが怖かったから、と僕は思う。
 
奢れるものは久しからず。
人類の歴史が始まって以来、すべての国が
「豊かになり、怠け者になり、没落する」ことを
繰り返してきた。
多分、日本は、これから、そのおきまりの道を辿る。
 
「蓄えを食い潰していく」という予感があるから、
子供を産まない。
これも、おきまり。
最盛期のベネチアでは、
なんと、成人男子の7、8割が独身だった、という。
今は小さな都市に過ぎないベネチアは、
かつて、ヨーロッパ最強の共和国だった。
 
「日本という国の力」を保つためには、
向上心に燃える貧しい移民を
大規模に受け入れるしかないだろう。
そうすれば、「怠け者のフリーター」は、
移民との競争に負けないように、
まじめに働かざるを得なくなる。
アメリカは、そうやって、盛者必衰の道を避けてきた。
 
でも、それで「日本」は栄えるが、
私たち「日本人」はちっとも幸福にはならない。
「日本が栄えること」と
「日本人が幸福に暮らすこと」は、
かつては、大体一致した。
これからは、むしろ、対立するのである。
 
「構造改革をやって、移民を入れて、栄え続ける日本」と
「蓄えを楽しく食い潰しながら、衰えていく日本」と、
どっちがいいだろう?
 
「日本が衰えたら、日本人が貧しくなるのでは」と
心配する人がいるかもしれないが、そんなことはない。
ベネチアの人たちは、今でも、豊かでしょう? 
豊かさとは何か、という価値観にもよるが・・・。

(多分、あと一回です)

2001-06-07-THU

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