経済はミステリー。
末永徹が経済記事の謎を解く。

第23回 小泉革命?と御懐妊


国会が始まって、小泉人気はますます高まっている。
 
国会中継で見る小泉首相の答弁は、ショーとして面白い。
野党が論戦を挑むと
「いじめるな」という抗議が殺到するという。
政治家の人気というよりアイドルの人気だ。
御本人もテレビの中で
「なんてたって小泉〜〜」と歌っていた。
 
ちょっと違うだろ、とも思う。
でも、本当の革命は、
こういうふうに始まるのかもしれない。
「ボストン茶会事件」にしても、
「バスティーユ襲撃」にしても、
その時代に居合せた人たちは、
当初、ヒステリックな騒動くらいに
受け止めたのではなかろうか。
 
「小泉革命」か「小泉バブル」か。
それは「しばらく経ってみないと、わからない」です。
「IT革命」か「ITバブル」か、というのと同じですね。

今週、国会とは離れたところで、
「日本は変わった」と実感することがあった。
「皇太子妃御懐妊」に対する株式市場の反応である。
15日の昼頃に第一報が出て、
午後、日経平均株価が200円弱上がった。
ここまでは「古い日本」の名残。
でも、翌日、300円以上値下がりして
「御懐妊効果」は1日で帳消しになった。
 
1989年初頭に
昭和天皇が崩御される直前の株式市場は、
天皇の病状の報道に、まさに、一喜一憂したものである。
株価は、企業の業績の関数であって、
皇室の慶事、不慶事とは何の関係もない。
あの頃は、そういう理屈が通らなかった。
 
今度は、その理屈が通った。
ここには、2段階の変化がある。
まず、「株価は、政治家や仕手筋の思惑などではなくて、
企業の業績によって決まるものである」という
「株価とは何か」というレベルの変化。
さらに、
「皇室の慶事、不慶事が、
 日本の景気に及ぼす影響は限定的である」
という「日本人の意識」に関るレベルの変化。
 
昭和の時代には、
「天皇の崩御→喪に服すムード
 →消費の低迷→景気の悪化」
という「理屈」もあったのだ。
実際は、周知の如く、
バブル景気はまったく影響を受けなかった。
 
「皇太子妃御懐妊」で、一番、買われた会社は何か?
想像がつきますね。
赤ちゃん用品を製造する「ピジョン」という会社。
皇太子妃につられて出産が増えるのでは?
という「理屈」である。
しかし、この日急上昇して
「ストップ高買い気配」で終わったピジョンは、
次の日、急落して上げ幅のほとんどを消した。
 
「なんとなくおめでたい」
という理由の日経平均だけではなくて、
一応の「理屈」が立つピジョンの上昇も、
たった半日しかもたなかった。
みんな、一晩寝たら、
「皇太子妃につられて子供を産むほど、
 日本女性はおめでたくはない」と思い直したのだ。
 
「日本人、けっこう、賢いじゃないか」
なんて言ったら、怒られるかな。
単にネットバブルの後遺症で
株式市場に元気がないだけかもしれない。
でも、土地バブルの絶頂期、
昭和天皇の病状悪化で株は売られた。
たしかに、何かが変わっている。

思えば、小泉さんの前任者の数ある失言の最初は
「日本は天皇を中心にした神の国」だった。

2001-05-19-SAT

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