経済はミステリー。
末永徹が経済記事の謎を解く。

第12回 アジアからのさざ波

連休が近くなってきた。
海外旅行の予定があって、
「いつ、外貨に両替したらいいか」
迷う人もいるかもしれない。

僕の答えは、「気にするな」です。
だって、せいぜい、
十万円(約千ドル)くらいの両替でしょう。
1ドルについて1円レートが変わって、千円の差。
それくらいのことでクヨクヨしないで、
旅行を楽しんだほうがいい。

ともあれ、「海外旅行に出かける人」は、
「円が高いほうが得」ですね。
輸入品を販売する業者や、
輸入した原油を電力に変えて販売する電力会社なども、
円が高いほうが得。
速水日銀総裁のように、損、得と関係なしに、
「円が高いほうが好き」という人もいる。

でも、日本は、
全体としては、輸入より輸出のほうが多い。
つまり、日本全体にとっては、円が安いほうが得なのだ。
円が安くなると、最初は、
自動車やコンピューターなどを
製造、輸出する企業が儲かる。
その儲けは、やがて、
「景気がよくなる」という形で
すべての日本人に還元される。

個人のレベルでは、円が安くなると、
「海外旅行の費用が高くなる」、
「ブランド品が高くなる」という
デメリットばかり目についてしまう。
景気がよくなっても、
すぐに給料が上がるわけではないし。

経済状況の変化は、
企業がクッションになって吸収するから、
個人にダイレクトに伝わりにくいのだ。
年功序列、終身雇用が崩れて、
だんだん、ダイレクトに伝わるようになってきたけれど。

日本の景気のためには、円が安いほうがいい。
しかし、日本企業のライバルである
外国の企業にとっては、円安は脅威になる。
1ドル100円の時には、
一万ドルの価格で売って、百万円の売上。
それが、1ドル120円になれば、
約8,333ドルの価格で売っても、
同じ百万円の売上を得られる。

それだけ、値引きの余地が生まれる。
円安によって日本企業の「輸出競争力」が高まった、
ということだ。

外国の企業にとっては、おもしろくない。
ただ、幸か不幸か、日本経済は、
銀行の不良債権問題でものすごく痛んでいて、
同情の目で見てもらっている。アメリカ政府は、
「円安ドル高は大目に見るから、
 早く、不良債権を処理しなさい」
というスタンスのようである。
そういう雰囲気を感じ取って、
為替市場では、円安ドル高が続いてきた。

しかし、大目に見てくれない人もいる。
4月6日、「日中金融フォーラム」で、
中国銀行(中国の四大銀行のひとつ)の行長(トップ)、
中央銀行の副総裁が
「円はもう少し高くなってほしい」と発言した。
財務省の黒田財務官(大臣の次くらいに偉い人)も、
「市場に対する行動も含めて
 適切に対処する(介入するかもしれない」
と、最近の急激な円高ドル安を牽制した。

しばらく続いた円安ドル高の大きい流れに、
さざ波が立った感じである。

2001-04-09-MON

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