中野さんのトマト農園を見学してきました。

ある日、「ほぼ日」に1通のメールが届きました。

私は、北海道余市町にて、
トマトジュースの販売をしている
株式会社中野ファームの中野賛と申します。
もう十数年も前ですが、
糸井さんと農業指導者の永田照喜治先生が、
弊社の農園を訪ねてこられ、
私の父が糸井さんや永田先生と
交流させていただいたことがありました。

こんなふうにはじまったメールに、
真っ先に反応したのは糸井です。

「よく覚えていますよ。
 中野さんは、永田学校のいちばんの優等生と
 いわれていて、ここのトマトジュースは
 ものすごくおいしかったです」

永田農法といえば、「ほぼ日」でもこれまで
何度かコンテンツ
ご紹介したことがありました。

さっそくそのトマトジュースを飲んでみると、
とってもあまくて濃厚で、
これまで味わったことのないおいしさです。
これは‥‥すごい!
わたしたちはこのトマトのことを
もっと知るために、北海道余市町へと向かいました。

ーー
こんにちは。
メールをいただいて、
ほんとうに来てしまいました。
中野
ようこそいらっしゃいました。
ーー
ビニールハウスがたくさんありますね。
中野
はい、ぜんぶで39棟あります。
どうぞ、お入りください。
ーー
失礼します。
わぁ、真っ赤な実がたくさん‥‥。
中野
よかったら、おひとつずつどうぞ。
ーー
いただきます。
すごく実がズッシリしてますね。
中野
うちのトマトは水槽に入れても
ほとんど浮かばないんですよ。
ーー
‥‥すごく、あまいです。
濃厚で、水っぽさが全然なくて。
いつからここでトマトを
つくっていらっしゃるんですか。
中野
もともとうちは果樹農家で、
トマトはつくったことがなかったんですよ。
ここはサクランボ畑だったり、
ブドウ畑だったりで‥‥。
ーー
え、そうなんですか?
中野
ぜんぶトマトに替えちゃったんです。
ーー
きっかけはなんだったのでしょうか。
中野
30年ほど前だったと思いますが
永田先生に
「この土地はトマトの栽培に適していますよ」と
教えてもらえたのがきっかけでした。
それで、土づくりからはじめて、
トマトひとすじでやっています。
この茎と葉っぱが、
永田農法の特長なんですけど、わかりますか?
ーー
かなり、クタッとしてるように
見えますけど‥‥。
中野
そうなんです。普通はトマトの木って、
もっと太くて勢いがあるんです。
でもこれは木が細いし、
葉っぱが丸まっているでしょ。
ーー
からからに乾いていますね。
中野
はい。永田農法の基本は
「極限まで水を控える」ということなんです。
植物をぎりぎりの状態に追い込むことで、
本来の力を最大限に引き出して
ぎゅっと凝縮した味になるという理論です。
ーー
それは、さじ加減が
すごく難しそうですね。
中野
そうですね。
ただ、長年観察していると少しずつわかってきます。
水を制限していると、
トマトが空気中の水分を必死で吸収しようとして
葉や茎にも産毛をたくさん生やしてくるんですよ。
ーー
わぁ、ほんとうだ‥‥。
中野
必死に水を吸おうとしているんです。
水は、点滴のようにちょっとずつ垂らしているんですが、
根っこが、水の入った
チューブの中まで突き破ってきています。
ーー
すごいですね。
肥料はあげるんですか?
中野
はい。根っこには、有機質の肥料や
海草などのミネラルを少しだけ。
葉っぱには海草を溶いたものを
霧吹きのようにかけて吸わせています。
ーー
からからに乾いた葉っぱにとって
その養分はすごくごちそうのように
感じるんでしょうね。
こういう作業は、
ほかの農家さんもされているんですか?
中野
すごく手間がかかるので
現実的には難しいと思います。
ーー
それほど大変なんですね。
中野
そうですね。
あと、味を左右するのは環境も大きいです。
ここは海が近いから
潮風にミネラルが含まれていますし、
内陸よりも涼しいから
トマトも快適なのかなと思います。
それから、永田先生がいうには、
ここのトマトは夕陽を浴びて
おいしくなるそうなんです。
ーー
えっ、夕陽ですか?
中野
はい。植物は午前中の光で養分をつくり、
午後3時くらいになると
今度は栄養を根っこや実に送り込みます。
そのとき夕陽がその働きを促すというふうに
いわれているんです。
それと、これは余談ですけど、
ここの夕陽には特別な波長があるそうなんです。
静岡県の会社が計測してくれたことがあるんですが、
緯度の問題なのか、他の地域と比べたら
明らかに数値が違ったそうなんですね。
それがどうやらトマトにいいらしいと‥‥
ーー
イメージの問題だけじゃなくて、
科学的にも。
中野
どうも、要因があるみたいです。
ーー
すごいですね。
ちなみに、ここのトマトは
糖度でいうと、どれくらいなんでしょうか。
中野
だいたい8~10くらいの数値です。
ーー
参考までにうかがいますが、
普通のスーパーで売っているような
トマトはどれくらいなんですか?
中野
今の時期だと、たぶん6もなくて、
5くらいだと思います。
夏場のトマトで7あったら、
すごくいいトマトです。
ーー
じゃあ、このトマトでジュースを
つくるということ自体が
すごく贅沢なことなんですね。
そのままでもおいしいトマトを
あえてジュースにされているのには
理由があるんですか?
中野
普通じゃできない、とくべつなジュースを
つくってみたいと思ったんです。
一般的には、青果で売れない傷ものを
ジュースに加工することが多いんですが、
うちのトマトのほとんどは、
はじめからジュース用にするためのものです。
青果で売るものは実が青いうちに収穫しますが、
これは完熟するのを待ってから収穫できます。
そのぶん、とてもあまみが強くなるんですよ。
ーー
たしかに、ここのトマトは
夕陽みたいに真っ赤ですよね。
これだけあったらトマトジュースが
たくさんつくれそうですね。
中野
ただ、永田農法でつくると
栄養を凝縮するぶん
実のサイズが小さくなりますし、
手間もかかるので、収穫量自体は
どうしても少なくなってしまうんです。
ーー
大量生産はむずかしいと。
中野
そうですね。
生産者としては量をつくらないと
採算が合わないところもあります。
それでも、やっぱり
うちのトマトジュースをおいしいと言って
楽しみに待ってくれている方がいるから
大変でもつくりつづけられています。
ーー
私たちも、このトマトジュースには
本当にびっくりさせられました。
こんなにあまくておいしいなんて
思わなかったです。
中野
そう言っていただけるとうれしいです。
ーー
今日はどうも、ありがとうございました!

ジュースに加工する過程も
見学させていただきました。

収穫したトマトは、すぐに加工場へ運ばれます。
粉砕したトマトをまずは低温で煮込み、
120度に熱したパイプに通して瞬間殺菌。
さらに瓶に入った状態で
100度まで上げて最後の殺菌をします。
空気に触れずに殺菌しているため
香りや栄養が飛ばず、開けたときに、
もぎたてのトマトの風味をおたのしみいただけます。