ほぼ日手帳ユーザーインタビュー 自分視点の「地球の歴史」を1冊に。たまきさんの手帳

ほぼ日手帳では毎年、
手帳についてのアンケートをおこなっています。
2019年のアンケートのなかに
「地球の歴史を
ほぼ日手帳1冊にまとめています」
という回答を見つけました。
地球の歴史を? 手帳に?
5月、その回答を寄せてくださった
たまきさんに取材し、
『ほぼ日手帳2020公式ガイドブック』に掲載しました。

そして、今年またメールが届きました。
「ガイドブックに掲載いただいたあの手帳ですが、
大晦日まで書ききりました。
自分で言うのもあれですが、
けっこうすごいものが完成したように思います」
1冊に46億年の歴史がつまった、
たまきさんの手帳。
あらためて見せてもらうことにしました。

――ごぶさたしています。
2019年の手帳、無事完走したんですね。

たまきはい、しました!

たまきさんの手帳はInstagramで全ページ観ることができます。

――そもそも、「ほぼ日手帳に歴史をまとめよう」
と思ったきっかけを、
あらためて話していただけますか?

たまきはい。
私はテクノロジー関係の仕事をしているんですが、
最近の進化ってほんとうに早いな、と感じていて。
あふれる情報に日々囲まれて、その速度に動揺して‥‥、
未来が不安になってしまったんです。
それで、自分を落ち着かせるために、
そもそも人はこれまでどんな道を歩んできたのかを
知りたくなりました。

ふりかえってみると、
学生のころ歴史って好きな教科だったものの
たとえばエジプトで文明が起こったころ
日本はどんな時代だったか、理解できていない。
そこで、とっさに我が家にあったマスキングテープを
壁にびやーっと貼ってみたんです。

――ほぼ日手帳アンケートでも教えてくださった
「きっかけの壁」ですね。

たまきはい。
西暦と、日本の各時代をならべて視覚化したものです。
これをつくってみたときにいろんな発見があって、
「歴史、ぜんぜんわかってなかったんだなあ」と。
そこで、年表を自分でしっかり作ろうと思いました。

――年表を書くのに、
ノートという選択肢もあったと思いますが、
なぜほぼ日手帳だったんでしょう?

たまきノートはもちろん、Excelでまとめるとか、
年表だから巻物みたいに長い紙に書くとかも、
考えたんですよ。
でも、どの形も、どうも続く気がしなかった。
そのときふと、そういえば数年前まで
仕事のタスク管理にほぼ日手帳を使っていたな、
と思い出して。
これなら使い勝手がわかっているし、
さいしょに1年分のスケジュールを決められる!
と思って、その日に買いに行きました。

――そこで最初にスケジュールを?

たまきはい。
2018年のうちに、
1年365日で歴史を書ききるためには
1日ページの何月何日に
紀元前何年から何年までを書く、
とわりふって。

――そのとおりに完走したわけですね。
すごいことです。

たまきこんなふうに計画的に何かを続けることって、
ほぼなかったんです。
だからこそ、
続けるための仕組みをたくさん用意しておきました。
冒頭のページにはなぜ自分がこの年表を
書こうと思ったかの動機を言葉にしておいて、
いつでも見返せるようにしたり、
スケジュールをたてるときに
年表を書かなくていい
「お休みの日」をあらかじめつくったり。

――この書き終えた手帳を見ると、
お休みの日に力の入った絵が
描かれていたりする(笑)。

たまき途中から、
「お休みの日にはあれを描こう」というのが
モチベーションになってしまって。

――毎日何時ころに書くというのは
決まっていたんですか?

たまきだいたい仕事から帰って、
夜10時から12時の間のどこかで。
インターネットの信頼できるページをいくつか
ブックマークしておいてそれをめぐり、
参考にする本は1冊と決めて、
そこから自分がぴんときたものをピックアップして
年表をまとめていきました。
でも5月から、
ほぼ日の学校の「ダーウィン講座」に通ったんですよ。

――何かとほぼ日に縁のある1年を
過ごしてくださったんですよね。

たまきはい。
学校のある日は帰りが遅くなるという
時間的な問題以上に、
大量のことをインプットして刺激を受けるから
頭が興奮状態になっていて、
年表を書けないんです。
「急に鎌倉時代の日本には戻れない!」と(笑)。
だから前もって書いてしまうか、
次の日朝起きて書くかしていました。

――お話を聞いて、この手帳を前にすると、
たまきさんが続かないタイプだったなんて
信じられないです。

たまきいや、本当に何も続かない人間だったんですよ。
しかも、手帳に年表づくりをはじめて1か月くらいで、
最初のモチベーションとなった「未来への不安」は、
払拭されてしまったんです。

――1か月というと、
地球誕生から新石器革命あたりまでを
まとめたところで。

たまきはい。
毎日ダイナミックな地球の進化を書いていくうち、
「まあ、いろいろあるかもしれないけど、
べつに不安に感じることないじゃん」と
思えるようになって。
だから、1か月でやめようかとも思いました。

――そんなに早い段階で!

たまきでも、せっかく1か月続いた。
「こんなに続いたことってないよね、
もうちょっとやってみようかな」と。
その繰り返しで、最後までたどりつきました。

――そこからはスランプはなかったですか?

たまきいや、何度もありましたよ。
10月に、これを描いたんです。

――すごい絵!
これは年表の「お休みの日」ですね。

たまきはい。
しかもこの「神奈川沖浪裏」を描いた日、
熱を出してたんですよ(笑)。

――熱があるのにこんな細かい絵を。

たまきわれながら正気の沙汰じゃないな、
と思いながらも描いて、
それなりにうまく描けたと
すごく達成感があったんです。

――これだけの絵を描けたらそれはもう!

たまき結果、抜け殻のようになってしまった(笑)。
なんとか書き続けたものの、
2週間後にまた熱がぶりかえして、
とうとう3日間くらい、書くのをお休みしました。

――そこから、どうやって復活を?

たまきこの手帳は毎日Instagramにもアップしていたんですよ。
それほどフォロワーが多いわけではなかったけれど、
「風邪をひいたのでちょっと休みます」と書いたら
何人かの方から「だいじょうぶですか?」と
メッセージをいただいてしまって。

――ああ、読者の方が。

たまきそうなんです。
誰も待っていないと思っていたのに、
「楽しみに待っています」と声をかけていただいて、
やらなきゃな、と。

――Instagramをやっていてよかった!
10月を乗り越えたらもう安泰ですよね?

たまきいや、それが最後の最後で
フリクション事件が起きるんです。

――フリクション。もしかして‥‥。

たまき書いたページが、消えました。

――よりによって年末に!

たまき12月28日、帰省する日の朝に
「実家に大量のペンを持って帰るのも面倒だな」と
大晦日まで先に書くことにしたんです。

この絵を描き終えて、
ペンを早く乾かしたくなったんですよね。
それまで一度もやったことがなかったのに、
ドライヤーでペンを乾かそうとして風を当てたんです。
そしたら‥‥(笑)。

――どこまで消えたんですか?

たまき12月10日まで。
幸いinstagram用に写真をぜんぶ撮っていたので、
ぜんぶ書き直しました。
絵はべつのペンで色をつけていたので、
主に文字だけですけど。

――いや、それでもすごい労力!
最後にそんなハプニングもありながら、
1年書き終えて、なにか変化はありましたか?

たまき字と絵がちょっとだけ上達したかな、と思います。
1年も続けるとまあ読める字になるな、と。
絵のほうは想定外で、
これまでも絵を描いたことなんてほとんどなかったし、
こんなに絵を描くことになるなんて夢にも思いませんでした。
最終的にはこんなペンまで買って。

それから、年表を書きながら、史実に残らない人たち、
ふつうの庶民のことをけっこう考えました。
平安時代って貴族たちのきらびやかな暮らしが
フォーカスされる。でも、一般の人たちは
衛生状態もあまりよくなくて、寿命も短いと読んだりすると
ちょっときらきらしたイメージがすこし翳る。
戦国時代は武将のことばかりが語られるけど、
巻き込まれるほうの人たちは
たいへんだったんじゃないか、とか。
そのときどきの時代の人たちって、
何を思いながら暮らしていたんだろう? と
よく思いました。
「あ、だから私、落語が好きなんだな」と
あらためて気づいたりして。

――自分の手でまとめたから、
その気づきにたどりついたんですね。

たまきそうですね。
たぶん私は、この手帳で
キュレーションがしたかったんだと思います。
1ページで10年、100年なんて到底入りきらないから、
大量の情報の中から選んでいくことになる。
大事件は書きますけど、それ以外はすべて自分の選択なので、
自分が何に興味があるのかが改めてわかりました。

――昨年お話をうかがった時点では、
「2020年は何を書くかわからない」と話されていましたね。
実際、何について書かれていますか?

たまき昨年亡くなった父のことです。
毎日ひとつ、父との思い出を書いています。

――地球の歴史から、お父さまとの思い出に。
ぐっとプライベートなものになりましたね。

たまき去年ができごとの記録なので、
今年は自分の言葉で書いてみるのもいいかな、
という思いもありました。

――わ、すこし見せてもらっただけで
泣きそうです。
歴史年表もですけど、
こんな手帳の使い方も初めて見ました。
きっと、すてきな手帳になると思います。

たまき自分でも去年以上に無謀だと思っています。
母ならまだしも、父親とのエピソードって
ふつうそんなに思い出せないですよね。
でも、やるなら今年しかないなって。
さすがに今年こそは、
1年続かないかもしれませんけれど(笑)。