グラフィックデザイナーの佐藤卓さんがプロデュースした
人気の黒革カバー「TSブラック」に
新しいラインナップが登場しました。
光沢のある新顔は、「TSブラック 2016」。
そして、ことしで8年目となるマットな黒革カバーは
「TSブラック ベーシック」。
ここでは、佐藤卓さんに、
それぞれの魅力をたっぷりと語っていただきます。
マットか、ツヤか。あなたはどちらを選びますか?
佐藤卓(さとう・たく)
グラフィックデザイナー。
1979年、東京藝術大学美術学部デザイン科卒業。
1981年に同大学院修了。
株式会社電通を経て、1984年に佐藤卓デザイン事務所設立。
「明治おいしい牛乳」や「ロッテ キシリトールガム」などの
商品デザインおよびブランディング、
NHK Eテレで放送中の『デザインあ』の総合指導や
『にほんごであそぼ』のアートディレクション、
21_21 DESIGN SIGHTのディレクターを務めるなど、
多岐に渡って活動中。
- ――
- 今回も、素敵なカバーができました。
こちらが、完成したての「TSブラック2016」です。
- 佐藤
- 出ましたねぇ。来ましたねぇ。
- ――
- 出来上がりをごらんになって、いかがですか?
- 佐藤
- この革、いいよねぇ。
どの革を使って「TSブラック 2016」を作るか決めるときに
たくさんの種類の革を見せてもらったんだけど
パッと見て「これだ!」って。
一瞬で決めたんです。
僕、いつも決めるのが速いんですけど
この時も「あ、これはいいなぁ」と。
- ――
- 卓さんが、このゴートスキン(ヤギ革)を選んだとき
制作チームのみんなで
「卓さん、一番選ばなそうなのを選んだね」って
話してたんです。
「TSブラック ベーシック」のイメージから遠かったので
ちょっと意外で。
でも、だからこそ、すごくおもしろそうだなと。
- 佐藤
- 「ベーシック」のほかにもうひとつ、新しい革カバーを
っていうお話をいただいたので、
まったく違う革を選んでみたかったんです。
あとは「もし自分がもうひとつ持つとしたら」って
想像してみて‥‥。
ちょっと荒々しくて艶のある、この質感に
もうひと目ぼれ。
- ――
- ひと目ぼれ!
- 佐藤
- 自分も惹かれたし、こういう革を好むかたが
けっこういるんじゃないかなって気がしたんです。
「ベーシック」は、少し艶が抑えてあるから
おとなしくて、シックじゃないですか。
それに対して「2016」は艶があって、
派手というか、元気な感じがしますよね。
それがいいなぁと思ったんですよ。
見せてもらったなかで
これと似た革は、他になかったですよね。
- ――
- なかったですね。
これだけちょっと飛びぬけていました。
- 佐藤
- うん。グッと心をつかまれました。
この艶と、荒々しい皺。
「ベーシック」は、きめが細かい感じなんですよ。
おとなしくて、静かなんです。
そのギャップですよね。
- ――
- 平日に、銀座のオフィスでしっかりはたらく卓さんと、
休日に、荒い海でサーフィンをたのしむ卓さんのような。
- 佐藤
- いや、海よりも、もうちょっとギラギラとした‥‥
六本木あたりかな(笑)?
ほら、どうです、この荒々しさ。
男っぽくないですか?
この「2016」みたいな革が好きなかた、
いらっしゃると思うんです。
- ――
- カッコいいですね。
- 佐藤
- 最近、男があんまり男っぽくなかったりするじゃない?
線が細いっていうか。
もちろん人によって違うけど、全体的にね。
- ――
- 中性化している印象も、ありますか。
- 佐藤
- うん。中性化してますよね、優しくて。
だから、どっちかというと「ベーシック」は
今の時代にすんなり溶け込むのかもしれない。
反対に、「2016」のほうは、なんていうか
古典的な男っぽさを感じるんです。
いまの男子に足りないもの、求められているものは
そういう男っぽさなんじゃないかなって
僕は、思ったりもするんですよ。
- ――
- 男っぽさ、ですね。
- 佐藤
- まぁ、瞬間的にいいなと思ったものに対して、
いまの理由は後付けなんですけどね(笑)。
でも、普段から考えてたことと
不思議と重なっていたというか。
- ――
- では、2009年に選んでいただいた牛革カバー
「TSブラック ベーシック」のことも少し聞かせてください。
この革は、もともとどんな理由で選ばれたんでしょうか。
- 佐藤
- あのときも、たくさんの革のサンプルを見たんですが、
ふだん使いで、一番しっくり来るだろうなと思ったのが、
この革だったんです。
革の質感も、強い主張をするわけではないんだけど
上質感があって、きめが細かくて、やわらかい。
触り心地もとてもいい。
クセのない、ニュートラルな印象で
バランスが取れてる革なんです。
僕も長く使っていますが、飽きないですよ。
- ――
- 2009年版で登場したカバーなので、
もう7年ぐらいですね。
- 佐藤
- うん。
僕、黄色が好きなので、
以前やらせていただいた、サーフィン柄で黄色の
「TSアロハ」を使っていた年もあったんです。
でもやっぱり、「ベーシック」に戻ってくるんですよ。
ここ2~3年もこれだし、一番長く使っていますね。
- ――
- まさに、定番=ベーシックですね。
- 佐藤
- 完全に「僕にとっての定番」っていう存在ですね。
だいたい、デザイナーってさ、黒い服を着てるじゃない?
黒いパンツに黒いシャツとかね。
放っておくと、みんな黒を着ちゃう。
- ――
- (笑)
- 佐藤
- 国際グラフィック連盟っていう
年に1度、世界のグラフィックデザイナーが
集まる会があるんですよ。
それに行くとね、もうほとんど真っ黒(笑)。
- ――
- えぇーっ。
- 佐藤
- 日本だけじゃないんだよ。不思議だね。
- ――
- 世界的に‥‥。なぜなんでしょう?
- 佐藤
- なんでかな。
よくわかんないんだけど
僕も、黒だと落ち着くっていうか(笑)。
- ――
- 今回の「2016」も、最初から色は黒にしようと
思っていらっしゃいましたか?
- 佐藤
- えぇと、今回は、黒に限らず
新しく僕の選んだ革カバーを
1つ作りましょうって話だったんですよね。
- ――
- そうですね。
- 佐藤
- でも、ほぼ日手帳には、他のカバーもたくさんあるし
柄や色のもの、それから女性らしいものとかは
きっと豊かにそろうだろうなって、想像できたんです。
だから、僕が選ぶなら、
男性として使いやすい、スタンダードな黒にしようと。
ほら、靴でも、男が選ぶのって黒とか茶色でしょ。
結構保守的なんでね。
だからほぼ日手帳でも、
その基本はおさえておく必要もあるだろうと。
やっぱり、黒革のいいものがひとつあると、
いいですよね。
- ――
- そして今年も、数ある黒革のなかで
「卓さん自身が使うなら」という目線で
選んでいただいたのが、このゴートスキンだったんですね。
- 佐藤
- そうですね。
だけど、僕だけじゃなくて、
たぶん多くの男性が、
普遍的に好きだろうなぁとも思ったんです。
僕みたいに、ちょっとおじさんになってくると、
こういうのが欲しくなるんじゃないかなって、
思うんだけど。
- ――
- おじさん(笑)。
- 佐藤
- 自分に艶がなくなってくると、艶を求めるわけですよ、
おじさんも、おばさんも。
キラキラの大きいアクセサリーつけたりね。
そういうところってあるような気がする。
- ――
- (笑)
- 佐藤
- 若いときには、穴が空いた古着を着たりとか
ボロボロでも、いいのよ。
中身が若いから、ボロボロでも相対的にカッコいいし、
素敵に見えるんです。
もうね、おじさんになってボロボロの着たら、
ボロボロがボロボロ着てたら、素敵に見えないよ、やっぱり。
ね、そういうの、ないですか?
- ――
- いやー(笑)。
- 佐藤
- 僕もおじいさんになったら、
もっともっと艶のあるものを選ぶかもしれないなあ。
自分に皺が出てきたら、持ち物には皺がないものを、って。
物事っていうのは、相対的なものだからね。
選ぶときは一瞬でも、あとでよく考えてみると、
艶のあるものにフッと魅かれるのは、
艶を求める心理がはたらいたりしているのかも。
もちろん、若い人も女性にも、
多くの方に気に入っていただけたらうれしいですね。
- ――
- 今まで「ベーシック」を使ってた人が
新しいほうに注目してくださることも
ありそうな気がします。
- 佐藤
- そうだね。すでに使ってくれているかたなら、
僕みたいに両方持って、使い分けてみてもいいんじゃない?
年の前半は「2016」で、後半は「ベーシック」とか。
海外行くときは、ちょっとカッコつけて
艶のある「2016」に取り換えて行こうかとか(笑)。
2種類あるので、選ぶときにも
比べてたのしんでもらえるといいですね。
- ――
- 同じ黒革でも、こんなに印象が違うというのが
迷うけれど、たのしいですね。
- 佐藤
- 僕も来年、これを使いはじめるのが
すごくたのしみです。
あぁ、うれしいなぁ。
- ――
- 使いはじめるのは、年明けからですか。
- 佐藤
- 僕はいつも新年になってから
1月はじまりの手帳本体に切り替えますよ。
そして1月1週目までの予定を、
正月休みのあいだに書くんです。
そうすると、新しい手帳がまた始まったんだなって。
- ――
- 気が引き締まりそうですね。
- 佐藤
- そう。自分の気持ちがまた新たになる感じがあって。
きちっと書き込むものは書き込んで、仕事始めを迎える。
その時にカバーも新しくなったりすると、
気分もさらに切り替わりますよね。
- ――
- いいですね。
- 佐藤
- ほんとうに、たのしみだなあ。
でも、たまにはかまってあげないと、
この子(ベーシック)がちょっと寂しがるかな(笑)。
Photos: ERIC
-
革の表情
左は「TSブラック ベーシック」の革。
きめが細かく、
触り心地もしっとりとしています。
右は「TSブラック 2016」の革。
深めで細かな皺と、光沢のある
革らしい表情です。
手触りはツルツルとして、
やわらかい質感です。
-
角の仕上げ
カバー内側の角を補強することに加え、
革が集まることによって出てしまう厚みを
なだらかにする「菊寄せ」という処理。
曲線に沿って、菊の花のように細かなひだを
均等かつ美しく入れていく、
革職人さんたちの
腕の見せどころでもあります。
-
カード段の仕上げ
内側のカード段では、
革を階段上に重ねる必要があるため、
結合部分に厚みが出たり、
凹凸が出てしまいます。
そこで、「TSブラック」など、
ほぼ日手帳の革カバーでは
重なる部分の革をあらかじめ
薄くすくことによって
つながりがなめらかになるように
仕上げています。菊寄せと同じく、
細かくて高度な職人の技術です。