さよならアルネ   2002-2009 and beyond... Arne
Arne30-表紙

第9回 貧しさが育てたものと、豊かさが育てたもの。
大橋 『黄昏』は本当に、
本当に面白かったですから。
糸井 そういうメールをたくさんいただきました。
大橋 やっぱりねぇ。
糸井 つまり、年取ってからそんなふうに、
あんなことしゃべりながら、
ちゃんと旅行するような友だちがほしいとか、
でもぼくと伸坊の場合は、
傍で会話を聞いてるんですよ。
つまり、2人でしゃべって、
まあしょうがないこと言ってますけど、
うちのメンバー何人かが傍で聞いてるんです。
大橋 笑うとか。
糸井 笑ってるから、じゃあ、
ここは無邪気に行っちゃうとか。
ぼくにとって最初のお客さんが伸坊で、
そのお客さんの後ろにうちの子たちがいて、
伸坊も最初のお客さんがぼくでっていう、
おままごとの延長線かもしれないです。
お客さまを増やしてるんです。
大橋 ああ、そうかもしれない。
糸井 ゲスト付きおままごと。
大橋 ああ、なるほど。
糸井 そう思えばおかしくないかもしれないです。
で、旅先だからネタはあるしっていう。
大橋 やっぱりあれは、旅に行かなきゃダメ?
糸井 そんなことはないです。
東京編みたいなのも。
大橋 ありましたね。
糸井 ありますし、でも、
雰囲気変えたほうがウキウキするんです。
大橋 私が読んですごく好きだったのは、
どこか夜景が見えるところで
おふたりがワハハって、
笑ってらっしゃる写真があって、
何か、すごい羨ましかったです、それは。
糸井 別に、ただワハハなんですけどねぇ。
でもそういう場面は、
たしかにそんなにはないですよね。
大橋 そうですね、なかなか大人になって。
糸井 だろうね。
ある種の貧しさとかが
育てたものかもしれないですよね。
大橋 そうかぁ、なるほど。
糸井 あの伸坊とか、伸坊の周囲にいる人と
ぼくとの感じっていうのは、
ある種の貧しさがありますよね、
無名で貧しくてっていうのは、
毛沢東じゃないですけど、
すばらしい財産ですよね。
大橋さんは、だから、
そこの財産だけ持ってないんだ。
大橋 持ってないですね。
糸井 それはそれで、それでなければ
味わえないものを味わっているし、
おもしろいところですね。
それ取替えっこできないですね。
大橋 そこのところで誰かと共有して
一緒にっていうことが、私には、
今お話聞いててないなぁと、ほんとに。
もちろん、私は私で
この年までああやって
仕事をたくさんさせてもらってきたから、
よかったことに。
糸井 仲間はいるんですよね、結局ね。
大橋 仲間はいないです。
糸井 でも、そのつど仕事をひとりでやってる仕事を
循環させてくれる人たちっていうのは、
たとえば雑誌編集部にいて、
仕事したことさえあるわけですから。
大橋 ええ、そうです。
糸井 だから、そうやって支えてくれる
人たちっていうのは、いつも。
大橋 いつもいました。
糸井 キノコの林みたいに、いっぱいいますよね。
大橋 そう、みんな年上の、
基本的に男の方でしたけど。
糸井 あ、そうですか。
大橋 そうです。
糸井 そのへんもおもしろいですね。
妹だったんだ。
大橋 妹というより、何か‥‥。
糸井 娘?
大橋 ううん、とにかく、
それぐらいレベルが違う方に、
いちばん最初はお世話になってましたので。
いつでもそういう人たちだったので、
よけいに私は『黄昏』を
まあ何ていいんだろうと思ったり。
糸井 丁寧語を使わないでいい友だちでね。
丁寧語を使わないけど、
ある種の敬意は払ってないと。
ただの悪ガキ友だちだと
失礼になる寸前までくんずほぐれつしちゃうけど
伸坊と会ってる時はやっぱりぼくは、
伸坊に失礼にならないようにって思ってますよ。
よく言うことなんですけど、
いろんな悪いこと、いいことがあるんだけど、
伸坊に「糸井さん、あれはまずいな」って言われたら、
改めようと思ってるんですよ。
改めない仲のいい友だちもいるんです。
何でも味方になってくれる
いいやつもいるんです。
でも、伸坊はどっかのとこで、
それはやっちゃいけないっていうことを
言いそうなやつなんですよ。
それがぼくの生き方の
唯一のルールにかかわるものなんですよね。
何でも許す人なんだけど、
「あれはダメだな」って
言いそうなやつなんですよ。
大橋 ああ、そうなんですね。
糸井 それはありがたいことですよね。
大橋さんは、
年上の人が育てたっていう意味では、
ほんとにエリートの生き方をしちゃったんですね。
大橋 よくわかんないです。
糸井 でも結果的にそうでしょう。
なんだろう、この間、ぼく今、ひとりで、
「ひとり前川清ブーム」なんですけど(笑)。
大橋 何ですか、それは。
糸井 クールファイブっていう、
あそこの前川清っていう人の歌を
急にまた自分の中ですごいって思い始めて、
聞きまくってるんです。
大橋 えーっ。
糸井 すごいんですよ。
それで思ったことの一つで、
この前川清っていう若いやつを見つけた時に、
あのグループは「内山田洋とクールファイブ」
っていうんですけど、
内山田洋ってバンドリーダーの名前ですよね。
で、内山田洋っていう人は
若き前川清を見つけた時に、
これで一生食えるって
思ったんじゃないかなと思ったんですよ。
つまり、それほどもう群を抜いた何かを
持ってると思うんですね、歌手として。
こいつをうちのグループに入れて、
前に出して歌わして、行くぞーって思った時に、
彼の気持ちがちょっとわかるんですね。
そんな歌手を見つけたら、
もうオレだってやるだろうって。
そういう人いるんだよなっていう。
前川清もそうなんですよ。
で、たぶん大橋さんは、
マガジンハウスの
今はおじいさんになっちゃった人たちにしてみれば、
前川清だったんだな(笑)。
こいつ、なに注文しても、なに叩いても、
なにおだてても、絶対歌ってみせる、みたいな。
大橋 え、それはなかったです、私。
糸井 もっと弱々しく見せてたんでしょうけど、
でも前川清だって、野球部ですからね、単なる。
歌習ってた人じゃないですからね。
大橋 そうなんですか?
それであんなに?
糸井 そうなんです。
本人はエルビス・プレスリーの
ものまねしてたんです。
ちょっと気配あるでしょう。
大橋 ああ、ちょっと気配ありますね。
糸井 でも、どの歌でも今改めて聞くと、
この人にしか歌えないっていう、
ものすごいものを持ってる。
大橋 そうですか、もういっぺん聴いてみよう。
糸井 たぶん大橋さんはそのへん、
あんまり接しないで来たでしょうから、
アレルギーもあるかもしれませんが(笑)。
大音量でイヤホンで聴くと、すごいです。
大橋 あ、そう。大音量ね。
糸井 大音量で。そうすると、
「ワワワワー」っていうだけの人が、
「オレもやっぱり職業だからちゃんとやんなきゃ」
みたいな感じとか、
歌作った人たちが、
前川清が歌うんだったら、
ここまで途切れさせても大丈夫だとか、
集団の仕事の面白さがね、今だとわかる。
大橋 へぇーっ。
糸井 ですから、その『平凡パンチ』の
表紙でも同じように、
大橋歩っていう前川清がいて、
ワワワワーっていうのが聞こえるんです。
これで表紙はずっと行けるぞって
思ってた人たちの気持ちみたいなものが、
あるんだと思うんですよね。
イケるやつだよ、あいつは、みたいな。
ご本人はただのちいさい
女の子だったんでしょうが。
大橋 そう、何か、はい(笑)。
糸井 お話とかもしてたんですか、その方々とはよく。
大橋 偉い方とですか。
いやもう、怖くて。
緊張して。
私、緊張症がありますから、
お話してくださるんですけれども、
たぶん敬語もメチャクチャでしたし、
あまり緊張して自分に敬語使って、
その相手の偉い方にもう友だちみたいな、
あっ、まずいと思いながら、
そういう繰り返しでしたけれど。
だから、それでもずうっと最後まで。
いちばん最初に育ててくださった方は、
私が勝手に『平凡パンチ』を
やめるって言ったんですが、それでも、
ずーっといろいろとお世話になりましたね。
やっぱりそういう方に出会えたっていうことが、
ここまで仕事できたことだと思いますしね。
  (つづきます)

2009-12-24-THU


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