スソアキコさんの 麦わら帽子  『太陽とライオン』



まずはこちらの写真をご覧ください。



エクアドルの女性が「パナマ」を編んでいる様子です。

刈り取った「パナマ草」を細かく裂き、茹で上げて、
十分に乾燥させたものを編みあげていく作業。


※以上2点はエクアドルでの撮影ですが写っている帽体は
 今回の作品ではありません。


スソアキコさんと「ほぼ日」が一緒につくった
麦わら帽子は、
ひとつずつ手で編まれた
こうしたエクアドル産の帽体がベースになっています。



『太陽とライオン』

この麦わら帽子が完成するまでの工程を、
アイデアスケッチの段階からフィニッシュワークまで、
ここでお伝えいたします。

何度かの打ち合わせを重ねたある日、
帽子作家のスソアキコさんから
こんなスケッチを見せていただきました。


※クリックで大きな画像をご覧いただけます。


※クリックで大きな画像をご覧いただけます。

コンセプトはすでに決まっていましたが、
リボンにするか、皮を使うか、など、
この時点では細かい部分が未定だったことがわかります。

のちに、「AーⅡ」の方向でいくことが決まりました。

ベースとなる「パナマ」を確保しながら、
オリジナルのパーツづくりがはじまります。



「クラウン」部分の「型」をつくります。
帽子のシルエットを決める、とても重要な作業。
まずは写真のような型をスソさんが紙粘土で作成し、
これをもとに専門の方が「木の型」をつくりします。

「木型」はMサイズ用とLサイズ用、ふたつを作成。
使い方は、のちほどご説明します。




リボンの中には、
「昼と夜とライオンと太陽」が表現されています。

明るい表現のヒントになったのは、チロリアンテープ。
リボンに鮮やかな刺繍をほどこすチロリアンテープには、
カラフルなデザインのものがたくさんあります。
スソさんと一緒にリボン屋さんを訪ね、
たくさんのチロリアンテープを見てまわりました。
こういうものです。


リボンメーカーに、このチロリアンテープの手法で
オリジナルリボンの作成をお願いしました。

スソさんが描いた最初のデザイン仕様書がこちらです。


試作を重ねて、リボンは完成。

5色の糸で刺繍をしていくため、
リボンの裏はこのように各色の糸が渡っています。

 



この帽子のシンボル、ゴールドのボタンも
スソさんデザインによるオリジナルのパーツです。

イラストで描いたデザインをボタンメーカーに渡し、
試作品を受け取り、
色や質感、溝の深さなど細かいチューニングをお願いしました。


この作業を、何度も何度も繰り返しました。
微妙なちがいで表情がおおきく変わる部分です。
スソさんがイメージする「顔」へと、
慎重に近づけて行きました。
今回もっとも修正回数の多かったパーツです。

 




麦わら帽子には、
ぜひ、あごひもをつけたいという希望がありました。
実際にかぶってもらいたいから。
自転車にのったとき飛ばされないように。
強い風に帽子を持っていかれないように。
ゴムひもをつければその役割ははたしますが、
どうせならかわいいひもにして、堂々と結びたい‥‥。

かわいいひもを探しにスソさんと、
浅草橋の紐屋さんを訪ねました。
そこで、ふと目についたのが「たこ糸」です。
たこあげに使う、白くて素朴で丈夫なあの糸は、
好きな色に染められるのだとか。

スソさんは、
これを三つ編みにすることを思いつきました。
さっそくサンプルとして、何色か染めてもらい‥‥


基本色のオレンジと、ブラウンを採用。

これを三つ編みにする工程と、
ひもの先にフリンジ(ふさふさ)をつける工程も、
すべて手作業です。





ようやくすべてのパーツがそろいました。
パナマの帽体、
そしてオリジナルのパーツたちはすべて、
「株式会社 西海」さんに集められます。
こちらは、台東区にある帽子製造の会社。

二代目の代表・西海敏郎さんが、
「ほぼ日」の乗組員を笑顔で出迎えてくださいました。

ここからの工程は、
西海さんへのインタビューというかたちでお届けします。









ほぼ日 ‥‥できていますね。
西海さん ええ。いま半分くらいでしょうか。
ほぼ日 ああ‥‥感慨深いです、ほんとうに。



西海さん ぜんぶがオリジナルな帽子で、
工程数も多いですからね。
ここまでたいへんだったでしょう。
ほぼ日 いや、たいへんだったのはスソさんで‥‥。
西海さんのところでもこうして
きれいに仕上げていただいて、
ほんとうに感謝しています。
西海さん いや、こちらこそ。
ほぼ日 西海さんのところでの工程を、
具体的にうかがいたいのですが‥‥。
西海さん ええと‥‥順番としては、
ちょっと待ってくださいね、
いま、工程順に帽子を並べてみますので。
(並べる)‥‥こんな具合でしょうか。



ほぼ日 おおー、
左から右に向かってどんどん麦わら帽子に‥‥。
ステップごとに、ご説明いただけますでしょうか。
西海さん まず、これが元の素材ですね。
パナマ。
まだ糊が入っていない状態なので、柔らかいです。



ほぼ日 糊?
糊を入れるんですか。
西海さん そう。
樹脂糊をラッカーシンナーで薄めて全体に散布して、
一度プレスします。
木型に入れて、まずは帽子を平らな状態にする。


ほぼ日 糊が入ってパリっとしています。
シャツにアイロンをあてたように。
西海さん そうしたら、スソさんの木型に入れて、
クラウンの形をつくります。
ちょうどいま、乾かしているところなので
木型をはずしてお見せできないのですが‥‥。



ほぼ日 そちらに並んでいるような木型が入っている。



西海さん そうです。
作業としては、簡単に言いますと、
これにアイロンや蒸しタオルで蒸気をあてながら、
木型の形になじませていきます。



ほぼ日 ひとつずつ、ですよね。
西海さん そうです。
乾燥したら、つばの部分も形を整えます。
これがそうですね。



ほぼ日 はあー。
ひとつずつ、これを‥‥。
木型は、たくさんないんですよね?
西海さん MサイズとLサイズ、ひとつずつしかありません。
なので、乾かしているあいだに他の作業をして‥‥。
全体に、作業を並行してつくりあげています。
ほぼ日 はああーー。
西海さん で、
つばの余分なところを切り落としたら、
帽子の成形は終了。



ほぼ日 これにパーツをつけていくわけですね。
西海さん その作業は、いまもそこで。



ほぼ日 ‥‥マチ針で、等間隔に‥‥。



西海さん 帽子のフチに飾りのひもを入れていく間隔です。
ほぼ日 この帽子の、チャームポイントのひとつですよね。
そうか‥‥当然ながら手作業で‥‥。
西海さん ええ。
この工程がいちばん時間がかかるところですね。



西海さん あとは、リボンをつけ‥‥



西海さん ボタンもつけて‥‥



西海さん 帽子の内側に
「スベリ」と呼ばれるテープをつけます。
これも今回のためにつくったオリジナルなんですよ。



西海さん この「スベリ」で、
サイズをすこし小さくすることができます。



西海さん スソさんのロゴマークも、内側のテープに。



西海さん 最後に、あごひもをつけて‥‥



西海さん 完成です。



ほぼ日 これだけの工程を経て‥‥。
1日に、いくつくらい仕上がるのでしょうか?
西海さん そうですね‥‥
4人くらいで作業してるんですが、
いちにちに、だいたい15から20ばかりでしょうか。



ほぼ日 なるほど、そうですか‥‥。
やはり、これはもう作品ですよね。
スソさんが信頼している
職人さんの手を借りながらつくった作品。
西海さん オリジナルのテープ、
オリジナルのボタン、オリジナルの木型。
すべてオリジナルですからね。
ほぼ日 それは、あまりないことなのでしょうか。
西海さん ないですね。
ふつうは、しないことだと思います。



ほぼ日 西海さんは、いつごろスソさんとお知り合いに?
西海さん うーん‥‥たぶん20年以上は経つんじゃないかと。
ほぼ日 とても個性的な帽子をつくる方ですから、
いろいろと不思議なご依頼を?
西海さん まぁ、そうですね(笑)。
ほぼ日 むずかしい注文とか?
西海さん むずかしいというか‥‥
デザインに関して、彼女は厳しいですね。
「ここを、もうちょっと」
っていうのは、もう何度も。
ほぼ日 ニコニコしながら、ですよね(笑)。
西海さん そうそう(笑)。
ほぼ日 西海さん、
今回はほんとうにありがとうございました。
この帽子をお届けできることがたのしみです。



西海さん こちらこそ、ありがとうございました。
貴重な帽子なので、
そうですね、
ぜひ手にしていただきたいと思います。

西海さん、ありがとうございました!
以上、メイキング・オブ・『太陽とライオン』でした。
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