2010年に大橋歩さんが立ち上げたブランド「a.」は、
今年、8シーズンめを迎えました。
ほぼ日では2011年から「hobonichi+a.」が始まり、
その後ずっと、ふつうでかっこよく、
心地よく着られる服をお届けしています。

服づくりを始めたころのことや、
「a.」について思っていらっしゃること、
おとなのおしゃれについてのことなど、
大橋さんにお話していただきました。

私がどうして服を作ることになったかっていうと──、
それはね、「ふつうの服」が欲しかったんです。

私自身、40歳になった時に、
どれ着ても似合わないと感じる、
むずかしい時代があったんです。
うまくいきませんでした。
とてもむずかしい時代でした。

私は、そのとき、コム デ ギャルソンに
助けられたんですよ。
「気張って」着て、「服の力をもらう」というか。
この気持ちは、今でも持ち続けています。

いっぽうで、「私のための服」というのかな、
布を選んで私用に服を仕立ててもらう、
ということもしました。
そのとき、私が希望したのが、
「ふつう」ということでした。
着心地がよく、素材も気持ちよくて、
家で洗える。それが私にとっての「ふつう」です。

どうしてつくったのかというと、
あるていど年齢を重ねてきたものにむけた、
そんな「ふつう」が、見つけられなかったからです。
最先端のファッションとは別に、
そんな「ふつうの服」が、もっとあったらいいのに。
じゃあ‥‥自分でつくってみよう。
それが私が「a.」を始めたきっかけです。

はじめのころは、自分が着たいもの、
ということも考えました。
「ああいうコートをつくりたい」。
それが、今も続く定番コートになったんですが、
でもそのうちに、あまりにも自分の好みにするより、
たくさんのかたに着ていただけるようなものを
つくらなくちゃ、と思うようになりました。

たくさんのかたが着られるふつうの服なのに、
ちょっと感じよく見える、っていうのが、
私のテーマなんです。
いい感じに見てもらえる、っていうのが。

うんとおしゃれな人っていうのは、
どんな年代にもいらっしゃいますよね。
でも、本当はおしゃれに関心があるんだけど、
何を着ていいか分からない人もいる。
「若い時の服が、全然あわないわ。どうしよう?」
という、50歳くらいから上の世代も多いんです。
そういう人たちに、
「もしかしたら似合うかもしれないから、どうでしょう?」
みたいなことがあればいいなっていうふうに思ったんです。

そうしてつくってきた「a.」ですが、
着てくださったかたたちからいろいろご意見も集まって。
「ここをもうちょっと太くして」とか、
「このへんが窮屈なのよね」など、
体型の悩みなども寄せていただくようになりました。
それでちょっと大きめにつくってみたところ、
細い人がそれを着ても、ストンと落ちる感じとか、
それはそれでかわいかったので、
「あ、こういうのもアリなのか」、と、
そんなふうに、広がっていったんです。

ですから、「自分がつくりたいもの」というだけじゃなく、
いろんな世代のかたに着ていただけるといいな、
ということを、やっぱり考えます。
だから今は、必ずしも
私が似合うものじゃないものもあります。

でもね、洋服というのは、
例えば十人いたら十人の人、みんなに、
「いいね」って言ってもらうということが、
なかなか難しいと想うんです。
それぞれの好みと、それぞれの年齢があって、
そして生活があって──。
その中で、「a.」を「好きだ」、
「こういう『ふつう』が欲しかった」と
言ってくださる方がいるのが、
すごく嬉しいんですよね。