タカモリ・トモコさんは、
「ほぼ日」での展示会の準備をするたびに、
毎回すこしずつ異なったきもちで
あみぐるみ制作に取り組むのだそうです。
その「きもち」の部分を、
きちんとうかがっておこうと思いました。

今回の展示会のテーマはなんなのか、
どんな思いを込めて数体の新作を編み進めたのか。
会場のオープンに先がけて、
作家のこころの様々な変化を
タカモリさんみずからの言葉でお伝えしてまいります。



──── さっそくですが、今回の「9月会場」では
どういう作品が発表されるのでしょう。
タカモリ 今回はぜんぶ「クマ」にしてみました。
──── すべて、クマですか。
ほかの動物のあみぐるみは、なしで。
タカモリ はい、クマだけで。
「クマ特集」をやろうと思います。
──── なるほど‥‥。
では、なぜクマだけにしようと思ったのか、
そのプランがうまれるまでの経緯を
うかがえますでしょうか。
タカモリ それは‥‥「4月会場」の前まで
さかのぼってしまうのですが‥‥。
──── ぜひそこからお話しください。
考えてみれば、
「4月会場」から「6月会場」まで、
タカモリさんがどのようなテーマで
それぞれの展示会に取り組んでいたのか
きちんとうかがっていませんでしたし。
タカモリ 去年の5月のことなんです。
糸井さんから
「ほぼ日で展示会をやりましょう」
というお話をいただきました。
そのときに糸井さんがおっしゃったんです。
「タカモリさんは好きにしてていいから」
って。
──── 好きにしてていい‥‥と。
タカモリ はい。これまでにもお仕事で、
「好きに作ってください」
と言われたことは何度もありましたが、
「好きにしてていい」は、はじめてでした。
──── 「好きに作っていい」と
「好きにしてていい」の違いは?
タカモリ 「好きに作っていい」と言われても、
制限はわかります。
媒体にふさわしい範囲で好きに、とか。
商品のイメージを壊さないで好きに、とか。
その制限内で好きに作るんです。
ところが糸井さんから
「好きにしてていい」言われたときは、
制限がわからなかったんです。
いい機会なので、
好きにするということに
本気で取り組もうと思いました。
──── でも、「好きにしていいですよ」というのは
ある意味、怖い言葉ですよね。
逆にプレッシャーを感じませんでしたか?
タカモリ 「怖いと思ってはいけません」
って思ってました。
せっかくもらった言葉なのに、
それで不安になったりしたくない、
この言葉に私は応えたいんだって。
──── そして、タカモリさんは去年の暮れに、
ほんとうに自由なあみぐるみをつくって
ぼくらにみせてくださいました。
糸井がそれを見て、
「すごいね、これ、ヌーヴォーだ」と。
タカモリ うれしかったです、「ヌーヴォー」という
シリーズの名前をつけてもらって。
その名前をいただいてから、
「じゃあ、ヌーヴォーって何だろう?」
と考えてみたんです。
感覚的にはわかるんですけど、
定義はよくわからないんです。
──── 「ヌーヴォー」というシリーズで、
どんな作品を編んでいくべきかを考えた。
タカモリ はい。
で、自分なりの答えを見つけました。
──── 「ヌーヴォー」とは?
タカモリ なんていうか、こう‥‥完成した瞬間に、
ホームランを打ったような、
あの感じになるのが
「ヌーヴォー」かな? と。
──── ‥‥タカモリさん、野球の経験が?
タカモリ ないです(笑)。
ホームランも打ったことないです(笑)。
でも、そんな感じだったんですよ。
それからは、
「ホームランを打つ!」というきもちで、
新作を編み続けました。
──── それが、
「4、5、6月会場」で発表した
14体の「ヌーヴォー」というわけですね。
タカモリ はい。ちゃんと14本の
ホームランを打てたと思っています。
──── ええ、みごとでした。
タカモリ それで「6月会場」が終わって
さあ次のホームランをって思ったときに、
ふと、気づいたんです。
ほんとにホームランが
ヌーヴォーなのかな? って。
そろそろふつうに野球を楽しみたいなぁ〜
って、これも例ですよ(笑)。
──── はい(笑)。
なるほど、そうだったのですか。
タカモリ ホームランのイメージの中には、
私は「驚き」も入れていました。
「そうきたか!」という。
でも続けていけば誰も驚かなくなるだろうし
そもそも「驚かさなくちゃ」という義務感は
「好きにする」に反してしまいますよね。
──── では、2カ月ほどお休みしたのは‥‥
タカモリ ゆっくりしたいと思いました。
──── なるほど。
お休みを終えて、いかがでした?
タカモリ そうですね、「驚かさなきゃ!」
「新しいものをうみださなきゃ!」
ということを、
すっかり忘れていました。
忘れたことは、
忘れていいことだったんだと思います。
忘れなかったことは、作品を作ること。
──── そうやってつくられた作品が、
すべてクマだったと。
タカモリ はい。
「9月会場」は新作以外も
すべてクマでいこうと思いました。
──── なぜ、クマだったのでしょう?
タカモリ ひとつには、
原点に戻るということがあります。
クマのぬいぐるみは
小さいころから好きだったし、
本格的にあみぐるみのお仕事をしたのも
テディベアが最初でした。
それを大橋歩さんが購入してくださっていた
という光栄な偶然もありました。
リセットした時期に、
そのクマを選んだのは無意識のことでしたし
とても自然な選択だったと思います。
──── 「クマだけで展示会を開く」ということが、
制限にはならなかったのですね。
「好きにする」に反してはいなかった。
タカモリ ええ、反してはいません。
編んでいると、同じ動物のかたちで
色違いとか大きさの違うものを
どんどんつくりたくなることがあるんです。
それは大きな波というか、
お祭りみたいにどーんとやってくる
創作意欲なんですけど、
これまではその意欲を抑えていました。
「同じ動物だけ編んでちゃダメだ」
そう思い込んでいたんです。
──── 今回はそこを解放した、と。
タカモリ そうです。
自分の好きなように、いろいろなパターンで
クマを編んでいきました。
つくり続けていると、
すーっと落ち着いていくんですよ。
すごくきもちのいい創作ができました。
‥‥あ、それと、忘れちゃいけないのは、
ここでも糸井さんに言葉を
いただいたということです。
──── それは、どういう?
タカモリ 「タカモリさんは仏像を彫るように
 テディベアを編んでいくといいよね」と。
──── 仏像を彫るように‥‥。
タカモリ それがほんと、私にとって
救われるメッセージだったんです。
どんな冒険やチャレンジをしても、
帰ってくることができる、
静かで揺るぎない場所が
頭のなかにできたようでした。
イメージとしては、
「森の中の、かわいくてちいさな家」。
そこに帰れば、
心を無にして静かに編むことができる。
その一方で、「ヌーヴォー」は
感性をむき出しにするような、
エネルギーを使い果たすような
つくりかたをこれからもしていきたいです。
テディベアは、
それとはきもちもエネルギーも反対向き、
仏像を彫るように、
つくっていこうと思います。
──── ということは、
今後はテディベアの新作も展示される。
タカモリ ええ、そのつもりです。
ここのバランスがとれたおかげで
「ヌーヴォー」をつくることも
より自由で楽しくなったんですよ。
「ホームランを打たなくちゃいけない!」
という思い込みはまったくなくなりました。
──── そうですか。
タカモリ でも‥‥
──── ‥‥でも? なんでしょう?
タカモリ 打席に立てば、かならず打てると思います。
──── ‥‥‥‥ああ、すばらしいです。
タカモリ ですから表向きは今まで通りなんです。
なんにも変わってないんですけど、
私の気持ちが肥えました(笑)。
──── わかりました。「9月会場」のクマ特集、
こころから、たのしみにしています!


2008-09-19-FRI


(C)HOBO NIKKAN ITOI SHINBUN