Yさんと Oさんにインタビュー
           ── 工場見学のお話も
─── ほぼ日では、
「お直しとか」でおなじみの
Yさんこと、横尾香央留さんです。
こんにちは、Yさん。
横尾 こんにちは、Yです(笑)。
─── そして、Oさんこと大原大次郎さん。
以前ほぼ日で、
星野源さんといっしょにハラマキを
つくっていただきました。
大原 サケロックのハラマキを。
たのしかったです。
─── そんなYさんとOさんは、
どこでお知り合いに?
横尾 某写真家の展示会場ですよね。
大原 某写真家(笑)。
Hさんですね。
横尾 そう、Hさん。

─── 読者のために説明しますと、
「Hさん」とは、今回の撮影もお願いした、
写真家のホンマタカシさんです。
大原 Hさんの展示会でYさんと知り合ったのは
けっこう前なんですけど、
お仕事をするのは、
これがはじめてなんですよね。
横尾 はい。
フェリーの中でお願いしました。
─── フェリー?
大原 四国の丸亀市でご一緒する機会があって、
ひょんな流れで小旅行を決行することになり、
何人かで豊島へ行くフェリーに乗ったんです。
横尾 お互い人見知りだし、当然沈黙も長く流れて…
それに耐えきれず話題を必死で探して
「ほぼ日さんからアルファベットのワッペンを
 つくってほしいと言われたんですけど、
 わたし、アルファベットのデザインなんて
 全然思いつかなくって…」
と話しました。そしたらなんとOさんが
「ぼく影武者やりますよ」と。
大原 「ゴーストでやります」と言いました。
横尾 「いやいやいや、影とかゴーストじゃなくて、
 むしろ“大原メイン”くらいのつもりで!」
ということになりました。無欲の勝利ですね。
─── そうでしたか、そういうきっかけで(笑)。

ということは、順序としては、
Oさんのデザインからですよね。
26種類のデザインはたいへんだったのでは?
大原 楽しかったです。
もともと、文字を扱うのは好きなんですが、
英字に関しては
その言語圏で生まれていないこともあるし、
上手に組む人は多いので、
いつか、ちゃんと挑める機会がきたら取り組みたいと。

─── 今回のワッペンが、その機会だったのでしょうか。
大原 今回は英字のデザインというよりは、
身につけるための文字に挑む機会でしたね。
自分はまず文字を紙に描いて
デザインに起こしていきますが、
距離感がどうしても「紙と私」になるんです。
それだと、ちょっと固いというか。
ぼくが描いたものをYさんは
生活に結びつけてやわらかくしてくれる。
Yさんはやっぱり
「人が身に付けるもの」の人ですから。
その、文字が生活に入っていく流れが
心地いいだろうなぁと思いました。
─── そうしてOさんがデザインしたのが、こちらですね。
こんなにアイデアが‥‥。

─── この中から、Yさんが選んで、
針と糸でアルファベットを編んだり縫ったりしていった。
横尾 はい。
やりやすそうなものから、ひとつずつ。
Oさんのデザインとは、
だいぶ変わってしまったものもあったので
怒られないか顔色をうかがいつつ…。

大原 格段に良くなってます(笑)。
やはり時間がかかりましたよね。
横尾 超売れっ子デザイナーのOさんを
わざわざ吉祥寺の喫茶店まで
呼び出して相談を重ねました。
大原 ぼくはお茶しているだけです(笑)。
Yさん、その場で縫ってくれるんですよ。
自分のデザインが、
Yさんの手の中で化けていくのがたのしかったです。
─── 化ける‥‥。
大原 化ける工程が、2回ありました。
ぼくが描いて、Yさんが縫って、そこで1回。
工場で機械が刺しゅうを再現するときに、もう1回。
その都度、手法が変わって化けていく。
横尾 工場見学、たのしかったです。
─── そう、おふたりには、
ワッペンの工場を訪ねていただきました。

▲工場にて。横尾香央留さん。
大原 たのしかったし、勉強になりましたよね。
Yさんの刺しゅうを
まずコンピュータに打ち込むんです。

大原 ひと針、ひと針、ドットにして打ち込んでいました。
たいへんな作業です。

横尾 すごく繊細な世界で。

大原 最終的には、
余分なところを手でカットするんですよ。

横尾 見せていただいて、よかったです。

大原 機械がワッペンをつくる様子は興味深かったし。
横尾 自分たちがつくった文字が、浮かび上がってくる‥‥。

大原 機械化されてはいましたけど、
多くの部分が手作業なんです。
‥‥感動しましたよね。
横尾 はい。
─── そうしてできあがった26種類のワッペンは、
すべてオリジナルのデザインです。
大原 そうですね。
ただ26種類すべてが、ばらばらではないんです。

横尾 つくっていく途中で、
「デザインをグループ分けにしましょう」
ということになりました。
大原 5つの系統というか、
5種類の技法で取り組んでいる文字が、
アルファベットに分散しています。
まずは‥‥(ワッペンを並べる)‥‥
この6つのアルファベット。

▲「Y」「V」「K」「Q」「H」「B」
横尾 この系統は、いちばん最初につくりました。
丸い刺しゅうのつらなりで、
デザインしたパターンです。
大原 こういうグループも‥‥(ワッペンを並べる)。

▲「I」「J」「U」「D」「O」
横尾 この5つは、かぎ針でつくりました。
大原 つぎは‥‥(ワッペンを並べる)‥‥
このシリーズ。

▲「T」「C」「G」「P」「Z」
横尾 これは細かいんです。
ちいさなブロックをつなぐようにして
つくりました。
大原 (ワッペンを並べる)‥‥
このグループは、定規から起こした文字たち。

▲「N」「A」「M」「S」「X」
横尾 立体的なものや、2トーンのものがあったり。
大原 (ワッペンを並べる)‥‥
最後が、もこもこ族。

▲「W」「F」「L」「R」「E」
横尾 もこもこした糸で編んだら、
懐かしいスタジャンのワッペンみたいで
かわいかったんです。
大原 筆記体だから、
くるんとした糸の質感に合ってますよね。
─── なるほど。以上ですね。
この5つの系統で、26種類。
どこにどんなふうに貼るのか、
考えるのがたのしいです。

ちなみにYさんは、
このワッペンをどんなふうに
たのしんでもらいたいですか?
横尾 ‥‥それは、とにかく自由に。
どこにでも貼ってほしいです。
たとえばわたしは、今ここに。

─── それは、撮影で使った‥‥。
いいですねぇ、
YさんのカーディガンにYのワッペン。

Oさんは? いかがでしょう。
どんなふうにたのしんでもらいたいですか?
大原 もう、アルファベットとも思い込まずに、
ひとつの図形として、
遊んでもらえたら良いですね。
パーツの組み合わせによっては、
顔や風景のようにもできますし。
─── ‥‥それはつまり、
「3回めに化ける」ということが
手に入れた人のところで起きる、
ということなのかもしれませんね。
大原 そうですね。
どんどん自由に
生活に取り入れてもらえたらうれしいです。
(YさんとOさんへのインタビューを終わります)