「HOBOP」と「HOBOT」の販売と、
『国境なき医師団』などのことについて(その2)。



「すぐ行く、どこ行く」のメリー木村です。
「ほぼ日ストア」と国境なき医師団との
小さなリンクについて、メールをいただいています。
数通、ご紹介したあとに、今日の特集に参ります。

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>賛成です、
>「いいかげんなスタンス」のボランティア。
>常々思ってました。
>ポリシーを持って継続してボランティア活動するのは
>確かにすばらしいけど、
>そんなに気負わなくても いんじゃない?
>ちょっと時間があいたから、
>ちょっとお小遣いが残ったから・・
>もっと気軽にできたらいいのに・・・
>もっと日常生活の一部になればいいのに・・・
>そしたら、私にも何かできるかもしれない。
>
>そのためには、基盤の組織がしっかりしてる とか、
>みんな一度は「ボランティア」を考える機会があった、
>なんてことが必要なんだろうな。
>
>今回は、多くの人に考える機会を
>提供してくれたと思う。
>そうやって じわじわと
>「いいかげんなスタンス」でできるといいね。
>(にゃおこ)

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>ワタクシはいつも、こういう類の新聞広告をみては
>なんかできることないかなあーと思うのです。
>地震などの災害関係とか
>アフリカのこどもの里親とか
>気にはなるんですよ、いつも。
>「国境なき医師団」も、名前だけは
>きいたことがあるけど、具体的に
>なにかに協力したことはなかった。
>自分で連絡先をしらべて
>行動するってことにつながらなくて。
>
>ほぼ日みたいに、いつもみている媒体で
>自分がほしいもの買って、その代金のうち
>100円だけ寄付なんて、
>文字通り「お安いご用」ですわ。
>
>「冷たいくらいの距離感」というのも、好感がもてます。
>あまりそちら方面の色が濃くなりすぎても、
>少しちがう感じがしますものね。
>遠藤周作さんが、女性の正義感は鼻につくと
>書いておられて、苦笑したワタクシです。
>
>ほぼ日ストアの医療寄付の話と
>祖父江さんの、だらだら、ぼんやりの話と。
>なんか、ほぼ日って、パワーありますよね。
>(ゆきんこ)

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>自分から動いて行かなきゃ
>ダメなことはできないんですが、
>せめて、という感じで気軽にできることはやります。
>でも声高に活動するのは抵抗を感じてしまう。
>そんな私にとって、
>今回の「ほぼ日ストア」のスタンスは
>とても「気持ちいい」んです。
>(匿名希望)

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たくさんのメール、ありがとうございます。
確信をもって「こうやるんだ!」と言うには、
けっこう複雑なことなので、
いろんな意見をいただくと、ほっとします。

「できれば、このお金が、
 どう使われるかも教えてね」
というメールも、いくつも、いただきました。

今回のお金がどう使われるかについて、
あと数日ここのコーナーを読めば、
よくわかるようになっていると、思います。
・・・というのも、今回のことをきっかけに、
「ほぼ日」は、「国境なき医師団」に、
おおまかなスタンスと、お金の使用のしかた、
などについて、インタビューをさせていただいたから。

1999年にノーベル平和賞を受賞、という時に、
「へえ、そういうところも、あるんだね」
と思った程度のかたが、大半だと思いますので、
いちから、いろいろ教えていただきましたよ。

では、談話に移ります。しゃべって下さったのは、
「国境なき医師団日本」の広報の鎌田葉子さんです。


【あやまちからのスタート】

 「国境なき医師団」が
 どうやって設立されたかを理解することで、
 何を目標にしているのかを、
 わかることができると思います。

 1971年にフランスで設立された組織なんですけど、
 設立のきっかけは、フランス人の医師たちが、
 1969年に「フランス赤十字」に参加をして、
 内戦の起きているナイジェリアに
 医療援助に行ったということ、です。

 1960年代の終わりごろに、
 赤十字は、実はナチスの強制収容所の中でも
 活動を行っていた、ということが公になり、
 当時、それがスキャンダルになっていたんですね。
 つまり、赤十字は、中立を保つために、
 どの国で何が起きていも、医療に専念をして、
 見聞きしたことを報道をしないし話さない、
 というスタンスだったのですが、
 「それは、問題じゃないか。
  いくら、中立性を保つためであっても、
  結局、沈黙することで
  ナチのプロパガンダに手を貸すことになった」
 と言われていました。

 そういう背景を持ちながら、
 フランス人の医師たちは
 ナイジェリアに医療援助をしにいったわけです。
 「虐殺が起きているのではないか」
 と、現地で、感じるわけです。
 「これを話さないままでいると、
  2次大戦の赤十字のようになってしまう。
  やはり話すということが重要ではないか?」
 「ユダヤ人を救わなければならなかったように、
  ナイジェリアのビアフラの人々(当時、虐殺に
  さらされたと思われていた)のことを世論に話して、
  救ってあげなければいけないのではないか?」
 そう感じたようです。
 結局、赤十字での沈黙の約束を破って、
 ナイジェリアで、虐殺が起きている、と話しました。

 その時、バングラディシュで洪水が起きていて、
 ある医療雑誌が呼びかけをしていたんですけど、
 その雑誌のジャーナリストたちと
 ナイジェリアに行っていた
 フランス人の医師たちが出会ってできたのが、
 「国境なき医師団」なんです。
 医療活動に加え、外に話をすること、
 つまり、証言に重きをおいていました。

 ただ、この設立時のナイジェリアに関して
 「国境なき医師団」は思い違いをしていました。

 ちょっと複雑な話になるので、簡単に言いますね。
 フランス人医師たちの証言をきっかけに、
 『ナイジェリアでは人々が集団殺害されている』
 という報道がされたのですが、
 実は、それは本当のことではなかったんです。

 当時、ナイジェリアでは
 独立紛争が起きていたのです。
 ナイジェリアのビアフラで
 石油が発見されたのをきっかけに、
 ビアフラは独立をしたがったので、
 政府との対立がはじまったんです。
 すぐに政府が勝ちをおさめそうだったのですが、
 そこで、ビアフラ州の長が
 世界中に集団殺害が起きているように見せて、
 資金を調達しようとしました。

 どのようにしたら、世界中に対して、
 ナイジェリアで虐殺が起きているように
 見せかけられるかを相談して、ジュネーブにある
 コミュニケーションエージェンシーを利用して、
 「虐殺が起きているので、
  世界のひとたちに、支援をしてもらいたい」
 というかたちで、宣伝をしたんです。
 そうしたら、欧米の人たちが、
 ここでは大変なことが起きている、と反応をして、
 さまざまなかたちでビアフラ州の支援をしました。
 「国境なき医師団」設立のフランス人の医師たちは、
 ほんとに虐殺がおきていると思って報道をしましたが、
 これは、まちがっていたんですね。
 「国境なき医師団」は、実は、設立した時の
 最初の判断が、間違いだったんですけど。



【「どの条件でも人を助ける」ことは、無理】

 ただ、この点をひとつとってもみても、
 苦しんでいる人々を救うということは、
 どんなに、見かけよりも複雑で困難なことか、
 というのがわかるんです。
 犠牲者が政治的な目的で利用されたのが
 さきほど申しましたビアフラの例です。
 結局、メディアによって利用されるリスクがあるのが
 非常によくわかるんです。
 「国境なき医師団」が30年間活動してきたなかでも、
 そのようなシチュエーションが、
 何回か起こっています。

 エチオピアで飢餓が起きている、と
 エチオピア政府が世界中に見せた時もありました。
 人道援助団体が、ワーッと集まって、
 「かわいそうなエチオピア人たち・・・」
 というようなかたちで援助をしていたんですけど。

 ところが実は、内戦が起きていて、
 自分たちの戦争にお金が足りなかったので、
 資金を作るために、
 みずから、住民の一部を飢餓におとしいれました。
 エチオピアの一部の人が、
 政府のために利用されてしまったような
 かたちになるんですね。
 ・・・正確に言いますと、エチオピア政府が
 援助金を利用して住民の強制移動を行い、
 大勢の犠牲者が出てしまいました。

 でも、世界中から人道援助団体が集まって、
 「かわいそう」とお金が集まっていた・・・。
 国境なき医師団も、エチオピアで活動する
 多くの援助団体のうちのひとつでした。

 国境なき医師団は、そのエチオピアの時には、
 「このままいつづけても、エチオピア政府を
  支援することになってしまうので、
  政府が利用するために、
  一部の人を飢餓状態にしているのだから、
  援助をしても、この人たちにプラスにならない」
 と、援助をすればするほど、
 飢餓を長引かせる仕組みになっている
 ということに気づいたので、
 エチオピア政府に抗議をして、衝突をしたあげく、
 現地から追放されました。

 メディアとの関係って、非常に微妙なんです。
 「国境なき医師団」は、証言することが必要だ、
 という団体ですので、無関心は拒否しますけれども、
 ただ、基本的には、医療援助団体なんです。
 政治的に動いたり、平和のために活動していたり、
 ということでやっているわけではないので、

 政治のことは各国政府が解決すべき、
 というスタンスをとっています。
 


 (※現在のこの団体の方針に大きな影響を持つ
   「国境なき医師団」前理事長の
   ロニー・ブローマンは、次のように述べており、
   医療援助に対する基本的な態度を示している。
 
   「戦争というのは常に残忍ですが、
    こう言ったからといって、
    避けるほうがいいということ以外、
    何も言ったことになりません。

    戦争が残忍だという認識は、
    戦争が不可避と思われるとき、
    いや、場合によっては予防戦争が
    必然的と見なされうるときでさえも、
    何をすべきか教えてくれるわけではありません。
    戦争の問題はすぐれて政治的な問題です。
    それに対し、人道援助には、
    戦争について考えるのであれ、
    政治的な世界観を構築するための
    理論的基礎がないのですね」

   [『人道援助、そのジレンマ』
    (ロニーブローマン・産業図書)より] )



 政治のことは各国政府が解決すべき、
 とは申しましても、人が人として、
 最低限の保護をされていないのを
 目撃したら、世論に義務として伝えて、
 政府に動いてもらう、というスタンスですが。
 
 「国境なき医師団」の中でも、
 失敗をいくつか重ねておりますので、
 「ただ、かわいそうだから」と、
 何も考えずに動いてはいけない
のです。
 政治的な状況を把握してから動かなければ、
 結局は、自分たちが
 利用されてしまうことになりますので。


 もし、そうだったとしても、
 外から見たら
 「かわいそうなひとたちを助けている」
 と、きれいには見えるのですが、
 実は政府に利用されて、人道援助団体が動くことで、
 結局は戦争を長引かせているだけだ、
 という時もあるので、そこのところは、
 「国境なき医師団」は、
 リアリスティックに判断をします。
 『どんな条件でも人を助けにいく』
 ということは、できない、
というか・・・。



話を聞く係の「ほぼ日編集部」の木村にとっては、
いろいろと、はじめて知る内容が出てきましたよ。

鎌田さんのリアルな談話は、明日につづきます。
次回の話は、「国境なき医師団」が、どのように
効率的で現実的な団体に変わったのかについてです。


(つづく)

2001-04-04