シリコンの谷は、いま。
雑誌の記事とはずいぶんちがうみたいです。

第39回
どんな人が会社で活躍していますか?



僕が日頃会社で一番よく話をするのは、
僕のプロジェクトのチームリーダーです。

自分の担当するソフトウェアの開発を行っていると、
しばしば考えていなかった問題に突き当たります。
作ってみたら使い物にならないほど遅かったとか、
想定していなかったケースが
発生することがわかったとか、
とにかく毎日のように問題が出てきます。

「今考えている設計だと、こういう特別な場合に
 うまく処理できないけれど、どうしよう?
 この処理方式をこういう風に改良しようかと
 思っているのだけれど。」

といったように相談を持ちかけます。
この相談相手が大抵チームリーダーなのです。

以前にも書いた通り、シリコンバレーの
ネット企業での開発は
せいぜい数人の少人数のチームで行われるので、
こういった問題はその場その場での話し合いで
どう対処するかが決まっていきます。

チームリーダーには、
こういった話の相談相手になるという役割が
求められます。
リーダーはエンジニアから
こういった相談をされたら、エンジニアと議論しながら
素早く的確にどういう解決策を取るのかを
決めていかなければなりません。

僕はチームリーダーと話をしていて感心するのですが、
僕の抱えている問題を相談すると、
その問題をすぐに理解して議論できる体勢になるのです。
僕自身は、その問題を四六時中考えているから
分かっていることを、数分説明しただけで、
ぱっと理解するところには脱帽です。
さらにすごいなぁと思うのは、リーダーは同じことを
チームのほかのエンジニアたちともやっていくのです。

チームリーダーは、
各チームメンバーの仕事をほぼ把握していて、
それぞれの領域でどういう問題があるのかや、
どうやってそれを解決していくのかを
日頃考えなければなりません。
そして、全体としてそのプロジェクトが
どこを目指して進んでいくのか道筋を示して、
プロジェクトをその方向に引っ張っていく必要があります。

役職的にはマネージャーという肩書きになっていたり、
仕事はプロジェクト単位に進みますから、
プロジェクトマネージャーと呼ぶのが
適当なのかもしれませんが、
実際のリーダーの姿はその言葉から想像される人とは
随分違っています。

チームのエンジニアと議論をするのが
重要な役割になっている性格上、
リーダー自身もその技術力は
チームのエンジニアと同じか、
それ以上でなければなりません。
ソフトウェア開発を取り巻く技術の進歩は速いので、
チームリーダーも必ず開発を担当しています。
開発の現場から離れて、管理職になるというのとは
ちょっと違った感じです。

チームリーダーをイメージしやすいもので例えてみると、
工芸品の工房の親方みたいなものと言えそうです。

工房でモノを作り出すのはそれぞれの職人ですが、
その工房全体を率いているのはその工房の親方です。
親方は職人から尊敬されていなければなりませんし、
親方は常に現場に身を置いて、
職人の感覚を失わないことが必要でしょう。

前回書いた通り、シリコンバレーのネット企業では
エンジニアの仕事ぶりが会社の成功に直結するのですが、
その中でもこのチームリーダーの力量が占める割合は
絶大です。

リーダーの能力次第で他社を圧倒できる製品を
生み出すことができるかもしれない反面、
プロジェクトが迷走し、いつまでたっても製品が
完成しないかもしれません。

人の力を使って、大きな仕事をする経営者に対して、
自分の技量を最大限生かして
世の中にインパクトのある仕事ができるのは
チームリーダー格のエンジニアです。

こう書いてみるとチームリーダーは
なかなか魅力的な仕事ですね。
実際、会社の中のスター選手とも言えるエンジニアたちは、
みなプロジェクトを率いる立場として活躍しています。

彼らチームリーダーが思う存分力を発揮できることが、
会社の競争力の源になっていると思いますが、
それを可能にしているのが経営者の現場との関わり方や
会社組織の構造ではないかと感じています。

次回はそういった現場と経営者の関係の話を
書いてみようと思います。

上田ガク

2004-03-30-TUE


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