シリコンの谷は、いま。
雑誌の記事とはずいぶんちがうみたいです。

第24回
なんか幼稚園みたいだねぇ。



以前、僕が働いている職場を日本から来た人に
見学してもらったことがありました。
その方がポツリと仰った言葉がこうでした。

「なんか幼稚園みたいだねぇ。」

確かにそう言われてみれば僕の職場は、
廊下に直径1メートルぐらいのボールが転がっていたり、
等身大の立て看板があったりしますし、
各個人のオフィスやキュービクルには
名札がついているのですが、
それが幼稚園で工作に使うような金色の紙で作られた
大きな星に名前が書いてあったりと
職場はどうも子供っぽい雰囲気が漂っています。

その上、社員はオモチャを色々会社に持ってくるので、
水鉄砲あり、ラジコンあり、
何故か今日、僕のオフィスの外には
一輪車が止まっていました。

なぜこんな風なのかというと、会社側が
楽しい雰囲気の職場を作ろうと
努力しているからなのです。

念のため、誤解を生まないよう書いておきますが、
アメリカの会社がどれもこうだと
いうわけではありませんし、
シリコンバレーの会社でも
そうでないことも多いでしょう。
しかし、僕が見たことのあるいくつかの
インターネット企業では
大体みなこんな感じだったのです。

ではなぜ、インターネット企業は職場を
遊び場のようにしてしまうのでしょう?

僕はこういう風に説明できるのではないかと
思っています。

インターネットで商売をするということには
いくつかの特色があります。

まず1つ目は、その商売の分野で
1番にならなければいけないということ。
1番手が圧倒的に有利で、
2番手や3番手の企業にはほとんど市場がありません。
ある分野で1番をキープするためには、
常に新しいものを生み出す独創性が重要です。
インターネットの商売で成功した企業は、
今までに誰もやったことの無かったことを
最初に実現した企業という場合がとても多いのです。
そして、それを他の企業が真似をしても、
最初にやった人には追いつくことができません。

2つ目は、インターネット企業は、
何千万人、何億人という人に
毎日サービスを提供しているという規模に比較すると、
とても少ない人数で商売をやっていくことができます。
電気製品や自動車など、実際に形のあるものを作る
商売の場合は、工場を立てたり、
実際に商品を大量生産する必要があり、
そのためには設計から生産まで多くの人が
関わらなければなりません。
それに対して、インターネットで商売をする場合には、
大量生産の必要がありません。
大勢の人が同時に使うことのできるサービスを
1つ作ればいいのです。
そしてその1つのサービスを作るのに
必要な社員の数は極めて少なくて済むのです。

この2つの理由、
「独創性」と「少人数でできる」ということが
会社の雰囲気を楽しくしようとする動きに
つながっているのだと思います。

人が多くなれば多くなるほど、ルールを決めて、
みんながそのルールを守っていかなければ
無秩序になってしまいます。

しかし、独創的なアイデアが出てくるためには、
自由な環境が必要で、各個人の個性を
大切にしなければなりません。
となると、あまりルールは厳しくない方が
よいのです。

人数が少なければ、明文化されたルールがなくても、
常識とか最低限のマナーというもので、
秩序を保つことができるのです。

そして、
朝から晩まで言われた仕事ばかりをやっているだけでは
新しいものは出てきません。
同様に、社員が仕事は仕事と割り切って、
お金と引き換えに労働力を提供するような雰囲気では
アイデアなど出てきようがない
という考えなのでしょう。

社員を比較的自由にさせて、会社にくることが楽しく、
まわりの同僚と面白いことを考えられるような環境に
置けば、面白いアイデアが出てくるという発想です。

また発想だけでなく、
社員を気持ちよく仕事をさせることで、
社員の生産性は逆に高まっているのだろうと思います。
実際に、インターネット企業の
システム開発の生産性は、
他のソフトウェア産業に比べても極めて高く、
普通なら10人20人を投入して開発するような
大規模なシステムでも、
ほんの数人で作っている場合が
とても多いことを見ても、
それが言えるのではないかと思います。

僕もこの楽しい職場という考えには大賛成で、
リラックスして仕事ができるのは
本当にいい環境だと思っています。
短期的に見れば、プレッシャーをかけられた方が
成果が出るのだと思うのですが、
仕事は終わりがなく毎日続くものですから、
毎日を楽しく仕事ができる方が
長期的には結局勝るのではないかと思っています。

上田ガク

2003-12-09-TUE


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