シリコンの谷は、いま。
雑誌の記事とはずいぶんちがうみたいです。

第22回
仕事サボる奴っているの?



僕の働いている会社は、放任主義的な社風を持っている
ということを何度か書いているうちに、
こんな疑問が浮かんできました。

「社員の自由にさせたら、
 サボる奴が必ず出てくるのではないか。」

ところが、実際には、「この人、全然仕事をしてない!」と
思う人はほとんどいません。嘘みたいに聞こえるかも
しれませんが、本当にサボる人はいません。
みんな言われなくても、そこそこ一生懸命、
仕事をしているのです。

この放任主義がうまく機能しているのは、
第一に会社の規模が小さいことが理由ではないかと
思います。

たとえば、
自分の働いている会社が社員3人の会社だったら、
自分の仕事ぶりが会社の運命を左右しますから、
大抵の人は一生懸命働きますよね。

シリコンバレーのネット企業は、
どこも比較的会社の規模が小さく、
一人一人の仕事が会社の業績に
多少なりの影響を与えてしまいます。
また、社内のプロジェクトは数人のエンジニアで
構成されていることが多く、一人が手を抜くと、
まわりにもろに迷惑をかけてしまうことが挙げられます。

それ以外にも大きな理由がもう1つあります。
それは、アメリカでは一般的な
転職やレイオフという事情です。

たしかに、周りの目があってもサボろうと思えば
サボることはできると思うのですが、
それでも会社にいることができると考えるのは早計です。

会社の業績が悪くなれば、レイオフが実施され、
全社員の数パーセントから十数パーセントが
解雇されるというのはよくある話です。
そんなときに仕事をしていない人は真っ先に
解雇されてしまいます。また、レイオフがなくても、
転職が一般的なシリコンバレーでは、
誰でも転職をしながら生活していかなければなりません。
そんなときに、今の職場で仕事ができていなければ、
次の仕事がなかなか見つかりません。

「仕事をサボってもいいけど、将来はないよ」となれば、
なかなかそんなリスクは冒せるものではないですよね。

性悪説にたって考えてみると、こういった
社会の仕組みによって、社員が仕事をサボることを
防いでいると言えるのですが、
シリコンバレーでは基本的に
性善説で物事が動いているのだろうと思います。

ソフトウェアを作るということは、
それが趣味にもなるぐらい面白いことです。
仕事が終わってから、家に帰ってから
趣味でソフトウェアを作り、無償でソフトウェアを
公開しているという人も世の中にはたくさんいます。

そういった人たちに、

「うちの会社では、こういうことをやりたいのだが、
 それを実現するソフトウェアを作ってくれないか?
 良いと思う方法で作っていいから」

と言えば、喜んでそれを作ってくれることでしょう。
その上、生活に困らないほどの給料ももらえるのなら
文句はありません。

そして、そうして作ったものが、広く世の中で
使われることで自分の仕事が社会に貢献している
実感があれば、エンジニアは人に言われなくたって
一生懸命働きたくなるものなのです。

また「自分の良いと思うやり方でモノを作る」
と言う部分も重要です。ソフトウェアを作るという仕事は、
モノ作りという観点からすれば、
まだまだ原始的な段階にあり、
マニュアル化された手順に従えば、誰でもできるという
仕事にはなっていません。
言い換えれば、人によってやり方が違いますし、
出来上がったものの質も違ってきてしまうような
手工業的な仕事なのです。
ですから、押し付けではなく、自分の信じる正しい方法で
モノ作りをさせるとき、ソフトウェア・エンジニアは
一番力を出せるものなのです。

改めて思うことですが、
仕事が好きで働いている人たちの会社には、
嫌々仕事をやっていたら勝てるわけがありません。
楽しく働ける環境を作り出し、
放っておいても社員が仕事するような雰囲気にすることが、
企業の競争力アップの原動力になるのだと思います。

上田ガク

2003-12-02-TUE


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