シリコンの谷は、いま。
雑誌の記事とはずいぶんちがうみたいです。

第19回
キュービクルってどんなもの?



シリコンバレーの会社の職場の形態は主に2種類あり、
その1つは前回紹介したオフィスを単位とするもの、
もうひとつはキュービクルを単位とするスタイルです。

キュービクルは、日本語で言う「パーティション」です。
何故か英語では、「パーティション」というと
空間を区切る道具のことを指すことが多く、
区切られた一人一人の空間を
四角いので「キュービクル」といいます。
略して、「キューブ」と呼ぶこともあります。
日本の方が空間を大事にする文化なのに、
この働く場所という概念については、
日本は壁を指し、英語は空間を指すという
逆になっているのが面白いところですね。

日本でもパーティションを使った職場は、
外資系などでよく見られますが、
パーティションの高さは
大体座っていると見えないけれど、
立てば周りの人が見える
ぐらいの感じが普通ではないでしょうか。

それに対して僕の働いた職場のいくつかでは、
大抵はパーティションが高く、
大体目線ぐらいの高さがあります。

職種によっては壁の低いキュービクルの場合もありますが、
エンジニアの席はいつも高い壁のキュービクルで、
背伸びをしないと、となりのキュービクルは
覗くことができません。
そして壁の厚さも分厚いので、
パーティションとは大分違った印象を受けます。

それぞれのキュービクルは、
このように高い壁で区切られているので、
中にいると、入り口のある通路を
通りがかる人ぐらいしか見えません。
1つのキュービクルの大きさはかなり大きく、
大きな机が2つと本棚や物入れがついていました。
それでもまだ余りスペースがあり、
そこにはビーンバッグと呼ばれる
安くて大きなクッションのようなものが置いてありました。
前回紹介した「オフィス」と同様、
各人のキュービクルにはホワイトボードが
設置されていました。

それぞれのキュービクルは、そこで働く人に合わせて
多少の調整をしてもらえます。
例えば、前の会社では普通の高さの机か、
背の高い机とバーにあるようなイスの組み合わせの
好きな方が選べました。

キュービクルは1人が仕事をするためには
必要以上に大きい気がするのですが、
これが結構重要だと思うのです。
キュービクルには前回紹介した「オフィス」と違って
ドアがありません。
そのため、まわりの音がうるさくても、
完全に外から遮断することはできません。
その代わり、遮断されることがないので、
他の人のところに話をしに行きやすいという
メリットがあります。そして、
そこでビーンバッグが役立つのです。

仕事に詰まったり、設計上の問題が出てきたら、
同僚のキュービクルにふらっと行き、

「今、こういう問題があるのだけど、どう思う?」

というようにビーンバッグに座り、
目の前のホワイトボードを使って2人で
問題解決方法を考えるのです。
各キュービクルの無駄なスペースは、
お客さん訪問のために活用されるのです。

2人の人が話していると、まわりのキュービクルの人に
その話し声が聞こえます。通常、まわりにいるのは
同じような仕事をしている人なので、
その人の興味のある内容だったり、
議論がおかしな方向に収束しそうになったら、
「ちょっとまった」とそのキュービクルにやってきます。

つまり、まわりの人が大体何をやっているのかが分かり、
また議論にも一応のチェック機能が働くのです。

キュービクルの壁は取り外し可能な部品になっているので、
隣が仲良しの同僚だったら、壁を取り外して
窓のようにしたりなんかもできます。

こういった理由で僕はキュービクルが好きなのですが、
オフィスと違って音がどうしても
うるさく感じる時があります。

キュービクルの職場の悪いところは、
職場全体の見通しが悪いところです。
キュービクルの壁が高く、そのキュービクルがずらっと
並ぶため、職場にいると迷路の中に放り込まれた
ネズミのような気分になってしまいます。
時にはそんな迷路のような中で、
ほんとうに迷子になってしまうこともあります。

また、共用スペースが少なかったり、
ほとんどなかったりするので、
すぐ近所のキュービクルの人や、
同じチームの人を除けば、
やはりあまり顔を合わす機会が少ないのも難点です。

このようにシリコンバレーでも、
職場をどのような形態にするのが一番なのかは、
ハッキリとした答えは出ていないようです。

僕の職場は近く移転することになっており、
移転先がどのような職場形態になるのか
色々な議論がありました。
新しいところでは様々な試みが行われるようです。

新しい職場がどんな環境になるのか、
今から楽しみです。

上田ガク

2003-11-21-FRI


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