シリコンの谷は、いま。
雑誌の記事とはずいぶんちがうみたいです。

第1回
シリコンバレーって、谷なの?



ふとそんなことを考えました。

シリコンバレーの「シリコン」は
コンピューターの部品を作る材料の
「シリコン」で、
「バレー」は谷という意味ですから、
日本風に言えば「シリコンの谷」と
いうことなります。

仕事の帰りに高速道路を走っている時に
「谷だっけ?」と考えたものですから、
辺りをみまわしてみましたが、
どう考えてみてもここは谷には見えません。

僕の働く会社は、
サンフランシスコ湾に面した沼地の横にあり、
どうも埋立てて作ったような所にあるのです。
谷に海があるなんて
おかしいですよね。

でもここはコンピューター産業の世界的な中心地、
「シリコンの谷」のど真ん中なんです。

辺りを見回して、
素直に印象を口してみると、
海に面した平野です。
谷じゃありません。

だから、ここに初めて来たとき、
えも言えぬ違和感を感じました。
シリコンバレーという言葉からは
やはり渓谷のような風景を想像していました。

シリコンバレーとは言え、
さすがにシリコンがザクザク産出するのかと
思う人はあまりいないでしょう。
鉱山か何かから出そうですもんね。

シリコンバレーの名前に使われている
「シリコン」はコンピューターの部品の半導体を
作るために必要な材料です。

その半導体を作る会社が自然とこの地域に
集まってきたことから、
シリコンバレーという通称で
呼ぶようになったのです。

半導体に続いて
この地でコンピューター産業が花開くと、
コンピューター自体ではなく
コンピューターのソフトを専門に作る会社も現れ、
そしてついには
インターネットを使って
商売をする会社が
登場してきました。

確かに「シリコン」は
半導体やコンピューターを
象徴する言葉なんですが、
ソフト会社やインターネット関連企業までくると、
どうもシリコンとはもう
直接関係ないんじゃない?
という気がしてきます。

もう1つ面白いのは、
地元の人はあまり
「シリコンバレー」という言葉を使わない
ということです。
どちらかというと、サンフランシスコを含め、
この一帯すべてを表す
「ベイエリア」という呼び方が
普通です。

地元の人が使わなくて、
地形も今ひとつしっくり来ない、
その上どうも産業もちょっとずれてきている、
そんな「シリコンバレー」という言葉なんですが、
そこには不思議な力があります。

日本の人に自分の仕事のことを話そうと思うと、
随分便利です。

「僕はシリコンバレーの会社で働いています」

といえば、大体の仕事は想像してもらえますし、

「シリコンバレーに住んでいます」

といえば、なぜか納得してもらえます。

これが
「サンフランシスコの南に1時間ぐらい行った
 ところのサニーベールという町に住んでいて、
 インターネット関連の会社で働いています」
といってもイメージが湧きませんよね。

「シリコンバレー」という言葉は
かなり知名度が高いように思います。
日本でIT革命が声高に叫ばれていた頃、
優れたアイデアを武器に
ベンチャー企業を興した起業家が
次々に成功していく話は
様々なメディアで取り上げられました。

それらのベンチャー企業で働く人たちは
みんな昼も夜もなく、
成功を夢見て休日返上で働いている
というような話をよく見かけました。

しかし、僕が仕事を終えてオフィスを出るとき、
会社はしーんとしていますし、
休日にオフィスに忘れ物を取りに寄った時には、
会社の駐車場にクルマはほんの数台しか止まっていません。
少々規模は大きくなっているとは言え、
まさにそういう話に出てきそうな企業なんですが。

シリコンバレーの記事に書いてあることと
僕を取り巻く環境は随分違うよなぁと
来た当時から思っていました。

僕は
起業家でも、
ベンチャーキャピタリストでも、
メディア関係者でもありません。

僕は何万人もいるエンジニアの一人でしかありませんから、
メディアの目で見る「シリコンバレー」の姿は
もしかしたら見えないのかもしれません。

でもそこでソフトウェアを作っている
エンジニアという視点から見た
シリコンバレーというのも
知ってもらえたらなと
思っていました。

日本の環境とは違うところがたくさんあります。
良いところも、悪いところもあります。
でも、話に聞くような
激烈な競争が日夜繰り広げられているだけの
スゴイところでもなく、
普通にのんびりとしたところも
あるんです。

そんなことを1つずつ書いていこうと思います。
どうぞよろしく。

上田ガク

2003-09-16-TUE


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